ル・コルビュジエ、白の時代を巡る「casa cube」に受け継がれる四角く白い傑作住宅
フランス・パリで、コルビュジエのモダニズム住宅の傑作と言われる「サヴォア邸」。
パリの郊外にあるこの建物には、「casa cube」のコンセプトに通じるものがあると聞き、見に行ってみることにした。
四方どこから見ても美しいフォルム
サヴォア邸は、「近代建築の五原則を具現化している」と言われる建物だ。
近代建築の五原則とは、「ピロティ」「屋上庭園」「自由な平面」「横長の窓」「自由なファサード(正面)」を指す。
まず、最初に見ることができるのは、その「自由なファサード」だ。緑の中に映える白い建物は、ぐるりと周囲を回って見ても、どこが正面なのかわからない、というかどこもが正面に見えるのだ。それがつまり「自由なファサード」にほかならない。
1階は、周囲をピロティで囲むような形になっており、壁面が曲線的なため、ピロティは車が回りやすくなっている。遠目には「白い建物」に見えるが、近くで見ると建具はすべて黒で塗られており、それが白い壁とのコントラストを描き出している。また、見る方向によっては、ピロティの柱だけで建物を支えているようにも見えるのも、この黒い建具の効果だろう。
建物内の景色のダイナミックな変化を堪能できるスロープ
建物内で目を引くのが、エントランス正面から始まるスロープだ。このスロープは、建物の中で折り返しながら、ずっと続いていく。スロープを歩いていると、建物内の景色がどんどん変わっていくのを楽しむことができるのだ。
テラスに面した空間は、サロンのようになっており、窓の多い開放的な造りになっているがテラスに面した側だけがほぼ全面ガラス張りで、テラスと屋内の一体感を演出している。その他の壁面は、これもサヴォア邸の特徴である横長の「水平連続窓」によって、屋外とはきっちりと仕切られている。それでいて、横に広い窓からは十分な彩光ができ、屋外の景観は楽しむことができるのだ。
広がりのある立体的な屋上庭園
サヴォア邸の大きな特徴である屋上庭園も、屋内からごく自然にスロープでつながっていて、屋外でありながら、「いつの間にか外に出ていた」ような、不思議な造りになっている。屋上庭園の中にもさらにスロープがあり、さらに上の階にのぼっていける立体的な構造は、建物の屋上にいることを忘れさせる広がりがある。
屋内にも曲線を活かした斬新なフォルムの浴室や、壁全体に水平窓が広がり、まるで外の景色が壁紙のように見えるキッチンなど、見どころが多い。
現代の建築を見慣れた目には、それほど目新しくは感じられないかもしれないが、ル・コルビュジエが1965年には没した建築家であり、サヴォア邸は、1931年に建てられたことを考えると、その先進性には驚くばかりだ。現在、世界遺産への登録の可能性が高まっている上野の国立西洋美術館の基本設計もコルビュジエによるものだ。
建築の世界で後世に大きな影響を与えたコルビュジエによって建てられたサヴォア邸の無駄のないスクエアな外観の美しさは、たしかにcasa cubeを彷彿とさせる。
そして、形よりも、コルビュジエの進取の精神こそが、casa cubeが引き継ごうとしているものなのではないか。そう感じた。