ザハ・ハディドによる「香港理工大学・ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワー」で心躍るデザインに魅了される!

中国南東部に位置する香港。約100年間のイギリスの植民地時代を経て、1997年に「香港特別行政区」として事実上の独立を果たした比較的新しい環境を持つ特徴があり、洋風の文化と現代建築が盛んだ。

そんな香港には、銀行や空港、店舗などモダニズム・ポストモダニズムな建築が沢山。世界的に見ても「近代建築の中心地」と言われるほどの建築の数々で、建築好きにはたまらない見どころが無数にある場所としても話題である。

香港理工大学 ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワー

香港にある現代建築を代表する建物の1つが、香港理工大学の敷地内に存在する。その名も「ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワー」だ。香港理工大学は、アート分野に特色があり、卒業生にはウォン・カーウァイ、ヴィヴィアン・タムがいる。

ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワーは、2007年に行われたコンペによって2013年に建てられた、香港理工大学デザイン学部の新しい施設である。

近代未来的で個性的なデザインが特徴で、周りの風景に溶け込む仕上がりと実用的な機能性を併せ持つ。

手掛けたのは女性初のプリツカー賞受賞者、有名建築家 ザハ・ハディド

コンペで一等に選ばれたのは、建築家ザハ・ハディドによる設計案だ。彼女は、新国立競技場改修の設計問題で「最初に選ばれた建築家」としても日本人からは記憶に新しいだろう。新国立競技場のデザインからも見えるように、彼女の特徴は「大胆かつ斬新なデザインと複雑さ」が実に美しいこと。

ザハ・ハディドのデザイン力は若かりし頃から有名で、その斬新なデザインで世界的評価を集める。その巧みすぎるデザイン力から、実現が難しく「アンビルト(Unbuilt)の女王」という称号までついたほどだ。

かつて「建築が不可能」と言われ続けてきた彼女のデザインだが、ITの急激な発展や施工技術の革新によって「Unbuilt」が「Built」になった昨今。さらに資金に余裕のある中国や香港などのエリアや産油国では、費用面での心配も少ないため、ザハ・ハディド建築が続々と誕生する追い風となった。

2004年には建築のノーベル賞と言われる「プリツカー賞」を女性初で受賞。2016年、まだ65歳という若さでこの世を去った。

人工的で未来的!不思議な形・ファサードの外観

大学キャンパスの端に位置した限られた敷地に、水平に建てられた古い建物達に反して高く伸びるジョッキー・クラブ・イノベーション・タワー。

香港都市部は狭い土地面積であることが特徴がある。その中にある香港理工大学で、限られた敷地に建てられこともあり、引きがない空間に突如と現れる「超奇抜な高いタワー」が、ダイナミックに迫ってくる趣がある。

雲に解けて行くような真っ白な建築は、建築全体がうねるような形をしながらも「不思議な感覚」を我々に持たせる。

美しい曲線建築で我々を出迎えるエントランス空間

エントランス上部の吹き抜け空間は、外観のうねるような形状を反映させながら、滑らかに作られた内壁が印象的だ。デザイン照明のラインがアクセントになりながら、構造自体の不規則な線と添うように重なり、実に美しい。

多様性を持った「どこにも同じ場所がない」内部空間

4層吹き抜けの空間からの眺めは、どこからどう繋がっているのか分からなくなるほど複雑な構造で繋がる。各階は均一な形で作られた場所がなく、とにかく色々なラインが見えてくるのだ。

ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワー内部は、空間ごとに違う顔を見せる。同じ階でも階段やスロープにより少しずつ高さを変えながら、シームレスな照明が通路を伝い、まさに「ザハ建築の複雑さ」を体感できる。

明るい吹き抜けの空間で棟全体が繋がる

明るくて心地良い吹き抜けの空間は、壁側から緩やかにトップライトに変化した開口部により開放感がある。水平な床はあっても壁は斜めになっており、どこを見渡しても「直角に交わるところ」が見当たらない。

いかにも「ザハ建築らしい曲線」がところどころに施されている内部空間。

他の階を見られるところに来ると、更にその複雑さが垣間見られる。

人工的で未来的な外観が特徴の建物だが、その中を歩いていると「森の中から急に開けた場所に出た」ような自然にも近い感覚を覚える。ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワーは、なんとも不思議な空間なのだ。

ザハ・ハディドが実現させた、魅惑的かつ機能的な建築表現

ザハ・ハディドの建築は、どれも未来を予測したような魅惑的なデザインが美しく、その複雑な図面を生み出すことは、まるで奇跡とも言える。

その見た目のフォルムから「フォルマリスト的でアーティスト的なだけ」と思われることも多い。だが、実際にその空間に足を運び体験をすると、建築としてのダイナミックさや表現したい空間はモダニズムとも連続していることが分かる。

奇抜なデザインでありながらも、合理性や機能、そして多様性をも考えて作り込まれた建築であることが、ザハ建築の偉業であり魅力なのだろう。

香港理工大学/ジョッキー・クラブ・イノベーション・タワー

住所 : The Hong Kong Polytechnic University, Hung Hom, Kowloon, 香港