2023年のプリツカー賞は、イギリスの建築家デイヴィッド・チッパーフィールドが受賞

「建築界のノーベル賞」とも言われるプリツカー賞は、米国のハイアットホテルチェーンを所有するプリツカー家の名前を冠した国際的な建築賞です。国籍を問わず、建築を通じて人類や環境に一貫した意義深い貢献をしてきた存命の建築家を対象としていて、これまで日本からも丹下健三、槙文彦、安藤忠雄、磯崎新などが受賞してきました。

昨年は、西アフリカ・ブルキナファソ出身のディエベド・フランシス・ケレが受賞し、2023年は、英国の建築家・デイヴィッド・チッパーフィールドに受賞が決定しました。

ロンドン生まれ、世界中で活躍するデイヴィッド・チッパーフィールド

デイヴィッド・チッパーフィールド
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デイヴィッド・チッパーフィールドは、1953年ロンドン生まれで、幼少期を過ごしたイングランド南西部・デヴォンの田園と農場での記憶が、建築に対する最初の印象を身体的にも強く刻みました。

英国や欧米、世界中で数々のプロジェクトを手がけており、日本国内でのプロジェクトは、まつもとコーポレーション本社屋をはじめとしています。また、近年では、2017年に兵庫県川辺郡猪名川町の猪名川霊園の敷地内に、礼拝堂・休憩棟を手掛けました。

より公平で持続可能な世界を作るために

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今回の受賞に際して、デイヴィッド・チッパーフィールドは、次のようにコメントをしています。

「このような特別な栄誉をいただき、また、プロフェッショナルに多くのインスピレーションを与えてくれた歴代の受賞者の方々とご一緒できることに、とても感激しています。この受賞を励みとして、建築の本質とその意味だけでなく、建築家として気候変動や社会的不平等といった実存的な課題に取り組むための貢献にも目を向け続けていきたいと思っています。私たちは、建築家として、より美しい世界だけでなく、より公平で持続可能な世界を作るために、より重要な役割を果たすことができることを理解しています。私たちは、この課題に立ち向かい、次の世代がヴィジョンと勇気をもってこの責任を受け入れるよう、支援しなければなりません。」

現代社会への最も適切なメッセージ

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また、審査委員長を務めた、2016 年のプリツカー賞受賞者であるアレハンドロ アラベナは次のように述べています。

「このように、控えめでありながら変幻自在の市民的な存在感を持つ建築や、プライベートな依頼であっても公共空間を定義することへのコミットメントは、常に無駄な動きを避け、トレンドや流行にとらわれない緊縮姿勢で行われており、これらはすべて現代社会への最も適切なメッセージとなっています。このような瞑想的な設計操作を抽出し実行する能力は、近年では明白でなかった持続可能性の次元となっています。持続可能性とは、単に余分なものを排除するだけでなく、物理的にも文化的にも長持ちする構造物を作るための最初のステップなのです。」

続けて、後援するハイアット財団のトム・プリツカーは、「彼は傲慢ではなく、流行を避け、伝統と革新の関係に立ち向かい、それを維持し、歴史と人間性に貢献していると確信しています。」をコメントをしています。

建築分野の領域を超えて、彼の社会的および環境的取り組みを物語る一連の作品の厳格さ、完全性、適切性が今回の受賞に繋がりました。

自然環境、歴史、文化を尊重した建築

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40年以上にわたる建築作品は、アジア、ヨーロッパ、北アメリカの都市、文化、学術の建物から住居、都市マスタープランに至る100以上の作品を含む、類型と地理の広大なものです。

繊細で力強く、洗練されたデイヴィッド・チッパーフィールドの手がける建築は、その土地の歴史と文化への敬意を示しながら、既存の建築物や自然環境を尊重し、気候の変化にも対応し、社会とのつながりを再構築するものとなっています。そして、その時代を超えるモダンなデザインを通じて、今までとは違う新たな建築や改築、修復などの機能性や利便性を追求しているのです。

また、常にエレガンス、抑制、永続性、明確な構成と洗練されたディテールを特徴とするデイヴィッド・チッパーフィールドの建築物は、毎回、明快さ、驚き、自信に満ちた存在感を放っています。

デイヴィッド・チッパーフィールドの代表作

America’s Cup Building(Veles e Vents)/スペイン・バレンシア

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こちらは、アメリカズカップのヨットレース開催のために建てられたスペイン・バレンシアの「Veles e Vents」です。10,000 平方メートルのスペースを備えた大きな建築物で、まるで空中に浮遊しているように見えます。

The Neues Museum/ドイツ

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こちらは、ドイツのThe Neues Museumです。第二次世界大戦中に大きな被害を受けたため、閉館されたままだでしたが、2003年から修復が始まり、70年以上を経てようやく開館しました。新しいギャラリーと新しい中央階段には鉄筋コンクリートが使用されましたが、他のスペースには再生レンガが使用されました。

Turner Contemporary gallery/イギリス

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こちらは、彫刻家のバーバラ ヘップワースの作品に特化したギャラリーです。10個の台形ブロックで構成されており、傾斜した屋根の大きな窓からは、川や、街の景色を眺めることができます。

Colección Jumex/メキシコ

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こちらは、メキシコシティのColección Jumexです。メキシコ最大の現代美術のプライベートコレクションが展示されています。14本の柱で支えられており、ベラクルス州のハラパ産のトラバーチン石灰岩で覆われたコンクリートでできています。

環境保護活動にも取り組む、デイヴィッド・チッパーフィールド

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近年は、建築ではなく、空間や環境の専門知識を活かして、第二の故郷と呼ぶべきスペイン北西部のガリシア地方の景観を管理・手入れする形で活動しているというデイビッド・チッパーフィールド。

彼は、人類が私たちの住処を脆弱な場所にしてしまった地球上で、生活と暮らしを改善する新しい方法を育むことこそ、建築家の役割だと考えています。その役割のヴィジョンは、個々の建築をその土地や地域の文化に溶け込ませる方法から、広い意味での土地や文化の理解へと広がり続けています。

今回の受賞で「すべて現代社会への最も適切なメッセージ」と言われたように、トレンドや流行に流されず、物理的にも文化的にも持続可能な選択を心掛ける。これらは、建築界だけでなく私たちの暮らしとも結びついています。私たちの暮らしを取り巻く自然環境や、その土地の歴史や文化、そのようなものに敬意を示す。そんな気づきを今一度与えてくれるような、デイビッド・チッパーフィールドの受賞でした。授賞式は、23年5月にギリシャ・アテネで開催される予定です。