“植物は私の全て”『北川村「モネの庭」マルモッタン』庭園管理責任者・川上裕さんが語る「モネの庭」づくり

フランスのモネ財団から、世界で唯一モネの名を冠することを許された庭園、高知県北川村にある施設名称、『北川村「モネの庭」マルモッタン』。

そんな「モネの庭」庭園管理責任者である川上裕さんに、モネの庭のことなど詳しくお話を伺った。

日々大切にしているデザイン

「モネの庭」庭園管理責任者・川上裕

はじめに、川上さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺った。

「古いものが好きです。例えば、明治や大正などに作られたもの。仮に江戸時代だと藍絵など、古い骨董品のお皿であったりだとか。明治・大正であれば、ガラスが好きなので、その頃に使っていたガラスを集めて、生活の中で使っていますね。とにかく古いもの大好きで、古いものを大切にしたい。自分が使うだけでなく、古いものをまた次の世代、次の世代へとみんなで繋げていくことがいいですね。」

また、川上さんは、母から譲り受けたタンスなどもあるそうで、修理しながら使うことが心地いいと思っているそうだ。

好きな場所「京都のイノダコーヒ」

続いて、川上さんの好きな場所や空間は、「京都のイノダコーヒ本店」

京都を訪れたら必ず寄るというイノダコーヒは、「雰囲気がすごく好きで、コーヒーを飲みながらその雰囲気を味わうことが最高」だと話した。また京都にある大徳寺「孤篷庵」は素晴らしい庭だと思っているそうで、モネの庭もそのようなところからインスピレーションを受け、落とし込んでいるようだ。

フランス文化勲章「シュヴァリエ」受勲した時の気持ち

川上さんは、2015年にフランス文化勲章「シュヴァリエ」受勲した。当時の気持ちについてこう話した。

「それはもうすごく嬉しかったですよ。しかし、これはわたし個人が受けたものではなくて、これを機にもっとみんなにフランスの文化だったり、モネを知ってもらうことであり、この庭にきてもらいたい、そういう思いを向こうの方が持って、わたしに受勲してくれたと思うんです。受勲をすることで、いろいろなところで取り上げてもらい、きてもらい、「こういう庭なのか」と見てもらうことは、やっぱりすごく嬉しかったですね。」

日本ならではの「モネの庭」

フランス以外、世界で唯一他国で名乗ることを認められたという「モネの庭」。“植生”というのは、やはりフランスと日本で違うのだろうか?

「気候が違うので全く違いますね。同じことをしようとしてもできないんです。でもここ(日本)の気候に合ったもの、モネが仮にこの庭にいたらどういう風にするかと考えて、ものを作り替えていくんです。同じ庭であっても同じ庭ではない。もう1つのモネの庭が高知県にできたわけなので、そういう気候にあったもので、でも、モネの絵画の世界を表現するということが大切だと思ってやってきました。」

「モネは絵画の中に、日本の浮世絵をヒントにしていました。彼は、昔の日本人の芸術文化、感性をすごく素晴らしいと、それを見ることによって自分が分かりますよと言っているんです。そういう日本のモネの庭を作ったことで、モネの世界観を表現することができるんじゃないかと思っています。」と日本だから良かったと思う点について語り、

逆に日本ならではの大変さは、“気候が違うから、同じことをしたいけど同じことができない”こと。

「色をベースにして作っていくので、花材を変えていくのに何がいいのか、そこの組み合わせ、植物を選択していく方法。ここの高知県である植物を入れたり、世界中のものでここに合うものをチョイスしていくことがなかなか大変でした。淡い色がなかなかだせなかったり、色を濃くしたりだとかそういう大変さですね。」と、苦労話も教えてくれた。

5歳の時から庭づくりをしていた川上さん

ご両親の影響から5歳の時に既に自分の庭を作っていたという川上さん。当時はどのようにして作っていたのだろう?

「庭を作っていたわけじゃないんですけど…(笑)畑とか庭があって、自分のマイ花壇もらって、植物が好きだったので、山からリュウノヒゲだったり、マンリョウ、子供なりに惚れるものを掘ってきてはそこに植えていたりしていましたね。両親が挿木などをしていたので、紫陽花やツツジとかを見て自分もやったりしていました。それが根付いたら植えたりしていたんです。挿木なんかもそうで、根が無いものを挿したら根が出てきて成長する、いつもそれが楽しみで、抜いては挿して抜いては挿してを繰り返して、根が出るのを確認していました。父親はそうじゃないよと教えてくれたのですが…。(笑)」

と、当時を懐かしみながら話し、この元体験が今の仕事にも繋がっているそうで、そのために造園会社に転職したことも教えてくれた。

思い通りにならなかった「モネの庭」

日本でも大人気の画家クロード・モネ。そんなモネの庭を作るにあたってプレッシャーはあったのであろうか?

「元々3年か5年ほどしたら前の造園会社に戻ろうと思っていました。しかし無理でしたね…。(笑)自分が全然納得しないというか、上手くいかなかったので。思ったようにならなくてどうしたらいいのか悩んでばかりでした。」

ここ最近、ようやく自分の目指すモネの庭になってきたと話した川上さん。それでも全然良くなくて、こうしたらいいかな、ああしたらいいかな、などの課題点はまだまだあるという。

気候も関係し、成長具合も異なる植物たち。これらを綺麗にキープするのは本当に大変なお仕事だろうと質問すると、「キープするって思うと大変なので、キープすると思わずに、自然な流れで次はどうするかと考えています。いろいろと道や選択肢は、たくさんある中でどれを選ぶかと思っています。」と今現在も、日々奮闘中であるようだ。

圧倒的にオススメの「秋の朝」

四季がある日本。季節によって様々な景色を見ることができるが、川上さんが1番好きな季節は「秋」。

「秋は圧倒的にボリュームがあり、花の種類は少ないが、温度が下がっていくので花の発色が良いんです。皆さん秋は、花が無いと思いがちだがそんなことはないですよ。モネの世界観を出すには、圧倒的にボリュームが大切なんです。何回も来てもらうものが1番良いのですが、まだモネの庭に訪れたことがない人には秋を圧倒的にオススメします。また、良い光が斜めに入るほど綺麗なので、朝の時間帯をぜひオススメしたいです。」

絵画のような庭をつくるコツ

素人でも絵画のような庭をつくる簡単なコツを川上さんに伺った。

「1番大事なことは、“光がどのように差してきて、どのように登って沈むか”を常に考えのがいいと思いますね。太陽に向けて、植物をどう植えて、どこに置いたら、この植物が1番育ちやすいかを考えられると面白いと思います。光を大切に。」と、アドバイスを送った。

LIFE IS “植物”

インタビューの最後、川上さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると「Life is 植物」と答え、

「植物は、私の全てですね。今後もずっとクロードモネとの対話が続いていく。それしかないと思っています。それがどこまでできるかということが、クロードモネの庭なので。彼が見たときにどう感じてくれるのかそこが1番大事なので、その絵を見ながら、彼の場所を訪れたりしながら、考えていくことが全てだと思います。」と話し、インタビューを終えた。

川上さんは、今日もモネと向き合っている。そうした積み重ねによって、訪れる人全てを魅了させているのだ。