好奇心があるからこそ、興味や生きがいが生まれてくる。放送作家・小山薫堂の想い

放送作家という肩書きを持ちながらも、映画『おくりびと』の脚本を手がけるほか、くまモンの生みの親でもある小山薫堂さん。最近では湯の道を極める「湯道」を提唱するなど、その活動の幅を広げています。普段からどんなデザインを大切にし、何を重視しているのか。そんな、小山さんの想いをお聞きしました。

放送作家・脚本家など多彩な顔を持つ小山薫堂

放送作家。脚本家。1964年に熊本県天草市に生まれる。大学在学中に放送作家としての活動を開始し、これまでに「カノッサの屈辱」「料理の鉄人」「東京ワンダーホテル」「ニューデザインパラダイス」など斬新な番組を数多く企画・構成。初の映画脚本となる「おくりびと」では、第60回読売文学賞戯曲・シナリオ部門賞、第32回日本アカデミー賞最優秀脚本賞、 第81回米アカデミー賞外国語映画賞を受賞。大阪関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。くまモンの生みの親でもある。

見た目よりも手触り・使い心地を重視

放送作家という肩書きのみならず、映画脚本や作家、ラジオパーソナリティーなど、多岐にわたって活躍している小山さん。「好きなことを淡々とやっているだけ」と語る、そんな小山さんは、日常で使用頻度が高いものをこだわって選ぶようにしているといいます。

見た目の形より手触り・使い心地にこだわっているとのことで、例えばお箸もそのひとつ。今は「江戸八角箸」という、東京の佃島で職人の方が手で削って漆を塗ったお箸を使っているそう。「うどんを食べても、吸い付くようにうどんが箸から離れないんです。カレーうどんを食べても、飛び散る心配もなく食べられます」と話します。

そして、毎日座るダイニングテーブルにもこだわりが。「新聞を広げて、コーヒーを置いて、朝の時間を過ごす。そんな毎日使うダイニングテーブルが、心の底から気に入っているものだったら、より幸せにつながるのでは」と、精査して選んだとか。歯ブラシや歯磨き粉、お風呂などにお金をかけたいとも語っています。

茶室によって生まれる豊かさ

小山さんは、事務所と自宅にも茶室を用意するほど、大の茶室好き。「4畳半という狭い空間でありながら、茶室になった途端、奥行きのある豊かさに変わるのがすごいと思ったんです」とのこと。4畳半のアパートというと、貧しさの代名詞というイメージがあるものの、4畳半のお茶室はというと、広めで上質な空間のように感じることができます。

「茶室のしつらえであるとか、そこに対する思いは、いろんなことの学び・教科書みたいなものだと思っています」と語る小山さんは、最近ではジムニーを茶室にするプロジェクトにも参加していました。

湯の道は、この先文化・芸術になるかもしれない

茶道に触れた時に、「お茶を飲むという行為がここまで文化となり、芸術になるということが素晴らしい」と感じた、小山さん。数百年後、茶道のように一つの文化・芸術になるのはないかと考えたときに、日本の入浴文化だと気付いたそうです。海外では湯船に浸かることは珍しく、飲めるほど綺麗な水を沸かして毎日風呂に入る、日本独特の入浴という行為を道にすれば、日本の文化をそこから発信でき、健康にもつながる。そして肉体的だけでなく、精神性を高めることにもつながるため、風呂は道になるのではと思い、5年近く前に提唱を始めたといいます。

「道を始める時には、何らかの権威や、みんなに興味を持ってもらえる引っ掛かりがいると思った」そうで、お寺の集合体である京都・大徳寺の中のひとつ、真珠庵というお寺の和尚様に「湯を道にしたい」と思いを伝えたとのこと。そこで湯道は理にかなっているとお墨付きをもらい、今に至っているそうです。

その後、ファンを少しずつ増やしながら、雑誌『pen』で【小山薫堂の湯道百選】を連載中。湯道にふさわしい温泉や銭湯へ小山さんが自ら足を運び、その様子を紹介しています。「自分でセルフタイマーを駆使して、浸かっているところを自分で撮るという、大変な撮影なんですよね(笑)」と笑いながら語ってくれました。湯道百選の連載をしながら、最近では一般社団法人の湯道文化振興会を設立。その活動をこれから本格的にしようとしているところだといい、その理事の一人には隈研吾さんも入っているそうです。「隈さんと、あるところに湯室を作っているんですけれども、200年後くらいに国宝になったらいいなと。生えているそのまま木をそのまま利用する可能性もあり、面白いものができるのではないかと思っています」

小山さんに「九州でどこかおすすめの場所は」と尋ねると、雲仙市、小浜町の「おたっしゃん湯」がお気に入りとのこと。「湯の質もいいし、建物の雰囲気もいい。番台に座っている方の人情味もよくて、何もかも好きです。熱い湯船とぬるめの湯船があるんですが、町の人が湯の温度を調整して、湯守をしているような感じ。自分好みの温度をつくって入っている雰囲気ですね」と話します。そして、「国立図書館があるなら、国立銭湯があってもいいのでは」と考えた小山さん。なんと、いま政府に働きかけをしているそうです。

「旅するように暮らす」セカンドハウス

今年の4月には、「旅するように暮らす」を実現する、民泊運用型セカンドハウス「YANAKA SOW」をオープンしました。小山さんによると、観光地に行ったり、いいホテルに泊まったりするだけでなく、土地の人と触れることに旅の楽しさを感じている人が増えてきて、「旅のスタイルもどんどん変わってきている」とのこと。「谷根千地区でこの話があったものですから、街に暮らすように、宿泊しながら町の人たちと交流を深めるようなホテルを作りました」と語ります。ホテルの中には、レストランはなし。街全体がレストランやロビーの役割を果たし、お風呂は銭湯の利用を勧めているそうです。これからもっと、このような新しいスタイルの旅が普及してくるのかもしれません。

Life is「curiosity」

小山さんにとって、ライフイズ◯◯の空欄に入る言葉は「curiosity(好奇心)」。「好奇心が、全てだと思います。好奇心があるからこそ、いろんなものを突き詰めたいと思い、興味がわき、そこから生きがいが生まれてくるのではないかと思います」と、インタビューを締めくくりました。