アアルトによる患者の暮らしを考慮したあたたかな療養施設「パイミオのサナトリウム」

北欧・フィンランドを代表する建築家・アルヴァ・アアルト。大学や図書館、大型文化施設まで、数多くの代表作を生み出した巨匠のキャリアの転機となった作品が「パイミオのサナトリウム」。北欧においてモダニズム建築が注目されるきっかけにもなったこの作品は、アアルトの使う人の気持ちや心地よさを追求したあたたかな機能主義建築として、現在に至るまで多くの人々に愛されています。

森の中に佇む結核患者の療養施設「パイミオのサナトリウム」

パイミオのサナトリウム

「パイミオのサナトリウム」は、フィンランド南西部のパイミオ市の松林の中に1933年に竣工した、アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルトが設計を手掛けた結核患者の療養施設です。

パイミオのサナトリウム

患者の身体と心を「癒す」目的のため、建築には多彩な色の組み合わせが採用されました。アルテック製品の一部には、現代でも「パイミオのサナトリウム」にちなんだカラーが使われています。

パイミオのサナトリウム

建築は2015年までトゥルク大学病院として使用されていました。現在は建物の2・3階のみ、マンネルヘイム(フィンランドの元軍人で大統領)によって設立された、児童福祉団体の活動の場として使用されています。写真はここに務める医師たちのための住居で、こちらもアアルトのデザイン。

長い滞在期間を励ますような光と色味にケアされたインテリア

パイミオのサナトリウム

エントランス棟の南側に6階建ての病室棟があり、それぞれの病室は南東を向いているため、朝日を浴びることができる一方で、西日が避けられるようになっています。

パイミオのサナトリウム

メインエントランスに設けられた車寄せの庇は、意図的に左右非対称にデザインされています。

パイミオのサナトリウム

病室棟の窓は格子状にデザインされています。病室棟の末端には、ガラス張りのエレベーターシャフトが設けられています。

これは、光を取り入れるのはもちろん、エレベーターが行き来をしていることで施設スタッフが患者の世話をきちんとしている様子が外からも伺えるため。当時、閉ざされた施設を外の人間が、確認する目的もあったと言われています。

パイミオのサナトリウム

館内では患者は密閉のエレベーターの使用を禁止されていたことから、この階段を使用していました。

パイミオのサナトリウム

段差が低く設計されているため転倒防止となるのはもちろん、上り下りもしやすく、また床の角を取り丸く設計することで、怪我防止も配慮されています。

パイミオのサナトリウム

病室棟の廊下側の壁面には、ル・コルビュジエによって提唱された近代建築の五原則の1つである水平連続窓が採用され、常時日光を室内に取り入れます。

パイミオのサナトリウム

病室棟の東側には、外気浴棟を配置。

パイミオのサナトリウム

最上階には、日光浴や外気浴をするためのテラスが設けられており、入居者の呼吸療法が行われていました。

パイミオのサナトリウム

エントランス棟の北側には、食堂棟、医師棟、サービス棟の他、自動車の車庫などが配されています。

パイミオのサナトリウム

食堂は、日光を十分に取り入れるために天井が6mと高く取られ、南面には大きな窓が設けられています。

活気と癒しをもたらすカラーパレット

パイミオのサナトリウム

パイミオのサナトリウムのカラーパレットは、壁画やステンドグラスのアーティストとして知られるエイノ・カウリアとの協働によって選定されました。

パイミオのサナトリウム

ロビーや階段のゴム製の床は、患者の回復に不可欠な太陽の光を建物内に迎え入れるべく、輝くようなカナリアンイエローに塗られました。

パイミオのサナトリウム

一方、食堂の天井や読書室、ラウンジ、病室に配された多彩なニュアンスのグリーンとブルーは、ベッドやラウンジチェアに横たわる患者の周囲に穏やかで平和な雰囲気を作り出しています。

パイミオのサナトリウム
ラッカーを施した滑らかな壁や天井の表面は、松や白樺の木々の間を抜けて差し込む柔らかな木漏れ日を反射しています。

パイミオのサナトリウム

廊下の手すりも判別しやすい色に塗られ、さらに、エレベーター、暖房器具などもまた、機能や要素ごとに大胆に色分けされました。

パイミオのサナトリウム

この「パイミオのサナトリウム」のために設計された「アームチェア 41 パイミオ」は、現代にまで続くアアルトの傑作のひとつとして数えられています。カンチレバーのフレームに固定された座席は、まるで宙に浮いているかのような弾力性で腰かける人の体を受けとめてくれます。

パイミオのサナトリウム

木材は時間の経過とともに変化し、それぞれの個性に応じて歪みが生じてくるため、肘掛けを兼ねたフレームは、分厚いひとつのフレームを半分に分割して両端に設置する方法で製造されています。建築はもちろん、生み出された家具までも、現代に至るまで多くの人に愛される名作となっています。

患者の暮らしを支える心遣いが行き届いた空間

シンプルでありながら機能的で美しさも兼ね備えたアアルトのデザインが行き届いた「パイミオのサナトリウム」。長期滞在を余儀なくされた結核患者たちの心身を癒すべく、細やかなところまで配慮された設計に、アアルト夫妻の温かな人柄、患者の回復を願う想いと愛が感じられる建築です。

パイミオのサナトリウム
所在地 : Alvar Aallontie 275, 21540 Paimio, Finland