建築家・山田紗子による暮らしが溢れる螺旋階段が結ぶ二階建の住まい「waseda」

藤本壮介建築設計事務所からの独立後、「新しい価値観を創造する」をモットーに、慣習にとらわれないユニークな造形や構成の建築の数々を提案している建築家・山田紗子さん。2025年開催予定の大阪万博では、会場の休憩施設の設計も担当されています。そんな山田さん率いる「山田紗子建築設計事務所」が手掛けた「waseda」は、夫婦と2人の子どもの4人家族のための住まい。住宅地にありながらも大きな開口から緑が望める心地の良い一軒です。

細長い土地に建つ螺旋階段が結ぶ2階建の住まい

photo : yurika kono

立地は早稲田の賑やかな学生街から少し離れた古くからある住宅地の一画。あたりにはブロック塀や生垣、石積みの塀に挟まれた細い路地や階段が張り巡らされています。敷地は元の敷地を東西に分割した間口4.1m、奥行き12.5mの鰻の寝所のような細長い土地。北側を除く3面は隣地が迫っています。

敷地の条件上、必然的に建物は上方向に伸ばすしかなく、居室空間に対して階段が占める割合と面積が大きくなってしまうのが大きな課題でした。

photo : yurika kono

そこで解決策として山田さんが提案したのは大きな螺旋階段。ゆったりとした階段板が一段一段小さな場所を作りながら各部屋を繋いでいくプランが導かれました。

ホワイトを基調としたシンプルですっきりとした外観

photo : yurika kono

建物正面の通りからのプライバシーが確保できるように、正面左に延びる通路側に引き戸の玄関扉を設けています。気候の良い時期は玄関ドアを開け放しておくことができ、ホールに明るさをもたらします。

photo : yurika kono

向かいの公園と北西側の隣家私道への抜けを利用し、それぞれの2階部分には大きな開口を配置。密集地に建ちながらも緑や街並みを望める計画です。

photo : yurika kono

中央の螺旋階段を軸に、南北方向にスキップフロアで室を配置。1階に水回り、公園が望める2階北東側にリビング、その上階に個室を設けています。各フロアに面した段は部屋の延長のように暮らしに取り込まれます。

photo : yurika kono

螺旋階段の段板は2本の方杖によって支持しており、段板を部分的に壁や梁に固定することで大きい段板の揺れを軽減し、階段に生じる慣性力を建物全体に伝達しています。

大きな螺旋階段は構造や施工の点から鉄骨造を採用。剥き出しの鉄の持つ肌触りは、クリーンに仕上げられた居室と対照的に野生的な雰囲気を添えます。

photo : yurika kono

2階にはリビングのほか、反対側に子ども部屋を配置。子ども部屋上部にはクローゼットを設けています。最上階に位置する寝室の扉は3枚扉にして開閉を調整できるようにし、屋根の傾斜に合わせています。

天井には4つの天窓が設けられ、側面の大きな開口と相まって外部のように明るい空間となっています。

密集地に建ちながらも緑と街並みが望める開放的な空間

抜けのあるゆったりとした螺旋階段と採光によって、敷地のウィークポイントを感じさせない、開放感のある心地の良い空間が魅力の「waseda」。コンパクトな中にも建築家ならではの視点によって、家族の豊かな暮らしを実現した遊び心あふれる住宅です。