象設計集団とアトリエ・モビルの共同体Team ZOOが手がけた、島内外の人々に愛される沖縄の名建築「名護市庁舎」
1950年代から1970年代にかけての高度経済成長期に建設された庁舎や文化施設などが建て替えの時期を迎えています。ビルや建物の多くが建て替えや補修の時期に達してきているため、「解体ラッシュ」を迎えつつあるのです。一部の貴重な建築物には保存活用を求めて要望書を提出する動きなどもあるものの、あっさりと消えてしまう建物も多くあります。沖縄に建つ「名護市庁舎」も、現在老朽化による建て替えが検討されています。島内外から数多くの人々が訪れる名建築は、これからどのような道を辿るのでしょうか。
地域特性を体現した名護市庁舎
1970年、1町4村の合併により名護市が発足したことをきっかけに、1978年、市庁舎の建設にあたって公開コンペが実施されました。その目的としたところは、沖縄の地域特性を体現し、市のシンボルとして長く市民に愛される市庁舎を建設するための案を求めることでした。
国内の本格的なコンペは10年ぶりだったこともあり、全国から308組もの応募があり、その中から1等に選ばれたのが象設計集団とアトリエ・モビルの共同体「Team ZOO」でした。彼らは建築家・吉阪隆正の事務所から独立したメンバーを中心とする若手の建築家グループで、コンペが行われる8年も前から沖縄を何度も訪れ、集落調査を続けていました。名護に近い今帰仁村では、中央公民館の設計を既に手掛けており、沖縄での実績を持っていたことも選定に有利に働いた結果となりました。
日除けと通風を取り込んだ、風土に適した建築
市庁舎が建つのは海の近く。建物の北側は住宅街との間に位置する広場を囲むように段状にセットバックしており、南側は一直線のファサードとなっています。
建物自体は太い通路を挟んで東と西に分かれており、そこに長いスロープが割り込み、その通路の中央にメインの玄関が配置されています。
北側の張り出したところにはパーゴラ状の庇が架けられており、この半屋外空間は「アサギテラス」と名付けられました。
アサギとは神様が降りてくる場として沖縄の集落に設けられるもので、通常は壁がなく、方形の屋根が架かっている空間です。ここにはブーゲンビリアが生い茂って、濃い日陰を作り出しています。
他にも建築の所々に亜熱帯の樹木が生い茂り、建築がすっかり風景に溶け込んでいます。
建築の外装に使われているのは、沖縄の建築に広く用いられているコンクリートブロック。これには、戦後駐留米軍が持ち込んだコンクリートブロックの技術を参考に、台風にも強く、シロアリにも負けない、しかも材料の砂が近くで簡単に入手できるなどの利点から、島内でブロックが急速に普及した経緯があり、名護市庁舎でも2色の組み合わせによって、ストライプの模様をつくっています。ブロックは日差しを遮り、風が通り抜けるため、島の風土に適した建材となっているようです。
反対の国道側に回ると、こちらは3階までのファサードが垂直に立ち上がっています。柱についている持ち送りには、当時それぞれにシーサーが乗っていました。糸満の職人から始まって、沖縄各地のすべて異なる職人に別々のシーサーを依頼したものです。その数は、名護市の集落の数が55、そこに名護市庁舎を足して56個としました。(台風や塩害のため落下する事故が相次ぎ、2019年すべて撤去されました)
自然を生かした快適な環境づくり
南側ファサードを眺めると、いくつもの穴が開いていることが分かります。建物を南北に貫くダクトの入り口で、ここから入ってくる涼しい海風が、建物を自然の力で冷やしてくれる仕組みになっているのです。亜熱帯の沖縄であるにもかかわらず、この建物は当時機械空調なしで建てられたのです。(「風の道」と呼ばれるこの自然通風システムは、残念ながら現在では使われておらず、エアコンによる空調管理が行われています。)
他にも、アサギ型ルーバー、花ブロックのスクリーンなどによる遮光、最上階の土による断熱、夜の放熱などの工夫によって、地域の持つ潜在的な資源を活用しながら、快適な環境を作り出しています。
機能のみならず建築物として愛される名護市庁舎
名護市庁舎について、名護市は2023年6月末に、市役所の移転や現庁舎の建て替えを含む市庁舎更新の検討に入りました。行政機能の集約や災害時への対応も視野に、本年度に基本方針を策定する予定です。職員と市民へのアンケート調査では「有名建築物としての外観等の保存を求める意見もみられた」とし、市庁舎としての機能はもちろん建築として愛されていたことがわかります。「取り壊すのは勿体ない。」と言う声がある一方で、耐震の問題やバリアフリーの問題、空調設備が整っていないなどの様々な批判があることも現実。沖縄を代表する名建築はどのような最後となるのか、注目が集まります。
名護市庁舎
開館時間 : 8:30~17:15
休館日 : 土日祝
URL : https://www.city.nago.okinawa.jp/about/2018072000468/
所在地 : 〒905-0014 沖縄県名護市港1丁目1−1