「仕事は一期一会」グラフィックデザイナー・佐藤卓が語る仕事へのこだわりや転機となったプロジェクト

前編:「“もの”よりも“こと”に興味がある」グラフィックデザイナー・佐藤卓が大切にしているデザインや好きな空間

「明治おいしい牛乳」や「ロッテ キシリトールガム」、「S&Bスパイス&ハーブ」など、シンプルながら印象に残る、ロングセラー商品のデザインを数多く手掛けるグラフィックデザイナー・佐藤卓。活動の領域はグラフィックデザインに限らず、商品開発からプロダクトデザイン、テレビ番組のアートディレクションなど多岐にわたります。今回は佐藤さんに、仕事におけるこだわりや転機となったプロジェクトについて伺いました。

デザインでは自分を一切主張しない

幅広い領域の案件を手掛けられていますが、お仕事を進めるうえで大切にされていることはありますか。

「『自分を出さない』ということですね。多くの場合、イラストを描いたりものを作ったりすることが好きな人がデザイナーになるわけですが、そこでは自分の表現にこだわりますよね。作品を作る時にはそれが大切ですが、仕事においては自分を一切出さないように心掛けることが大切だと考えています。個性は意識せずとも出てしまうものなので、その点は心配する必要がないと思っています。仕事、相手に集中することが最も重要です。」

デザインとはものと人の間を繋ぐもの

あるインタビューで、デザインとは“間を適切に繋ぐこと”とおっしゃっていましたが、これはどういうことでしょうか。

「デザインは目的ではなく、奥にある“ものと人の間を繋ぐもの”だと考えています。例えば牛乳では牛が作ったミルクと多くの人を繋ぐために、入れ物があって名前があって、パッケージデザインもあります。このようにデザインは常に間を繋いでいるものなのです。目に見える分目立つので目的のように見えますが、実は目的ではない。仕事をこなすうちにそういった考え方が強くなりました。」

商品開発から手掛けたニッカウヰスキー ピュアモルト

転機となったお仕事はありますか。

「広告代理店勤務時代に、ニッカウヰスキー ピュアモルトを担当していたのですが、ある時、広告に課題があるのではなくて、商品自体に課題があるのではないかと思ったんです。そこで自主プレゼンを行なって、『こういうものを出したらどうでしょうか』と提案しました。クライアントからすると勝手にプレゼンされた形にはなるのですが、当時は80年代前半と企業にも勢いがある時代だったので、それがなんとか時間をかけて商品化されたんです。頂いた仕事ではなく、時代に合わせたものづくりの提案からスタートしたこの案件が、今のスタイルに繋がる大きな転機になりました。

今も全てではありませんが、ご依頼頂いたタイミングで、商品やサービスに対して思っていることをストレートにお伝えさせて頂いているので、もとの依頼がパッケージデザインだったとしても、結果としてブランディングやコーポレーションアイデンティティといった会社全体のイメージを作る仕事に発展したりということはよくあることです。」

仕事は常にゼロから始める

幅広いクライアント、デザインを手掛けられている佐藤さんですが、アイディアの引き出しを増やすために心掛けていることはありますか。

「まずは引き出しを作らないことを意識しています。引き出しを作る、ということは前にやったことをまた活かす、ということですよね。仕事は一期一会なので、過去のことは役に立たないと思っていて、常にゼロからやりたいと考えています。」

我々の暮らしは水でできている

物事の本質を問い直すデザインが特徴の佐藤さん。そんな佐藤さんにとってライフイズ◯◯の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“ウォーター”。我々の環境は水が全てを作っていると言っても過言ではありません。身体の中にも水はあるし、空気中にも気体としての水があります。水が個体、液体、気体3つの形で存在する星は地球しかありません。全てのことは水と関係していると思っているので、ここではウォーターの言葉を選びました。」

フラットな視点で仕事に取り組む

依頼された仕事にはゼロから取り組むと語る佐藤さん。商品やサービスを何事にもとらわれず、その都度新しい視点で見直すことで、課題の本質が見えてくるのかもしれません。