地球上のすべての脈々とした生命へ。ジェフリー・バワ最高傑作「ヘリタンス・カンダラマ」

photo : Mio Umenaka

さて問題です。建物はどこにあるでしょう?

トレッキング中の風景ではありません。スリランカ北部・ダンブッラ近郊の山奥に佇む「ヘリタンス・カンダラマ」の屋上から、建物の外観を撮影したもの。スリランカ建築家の第一人者、ジェフリー・バワの最高傑作と言われている作品。

人生で一度は泊まってみたいホテル

ヘリタンス・カンダラマ外観 | photo : Mio Umenaka

世界中の全エグゼクティブが虜にされている、知る人ぞ知るラグジュアリーホテル最高峰・アマンリゾート。世界20か国以上で、それぞれローカライズされたデザインと究極のホスピタリティに、「アマンジャンキー」という言葉が生まれるほど。そのアマンリゾーツ創業者であるエイドリアン・ゼッカ氏が心酔し、多大な影響を与えたことで近年さらに人気が急上昇し、瞬く間に市民権を得てしまった。バワ建築に泊まりたいからと、スリランカに行くという人が続出している。

バワお気に入りの彫刻家ラキ・サナナヤキの巨大フクロウの彫刻 | photo : Mio Umenaka

これまで一部のニッチな建築界隈コミュニティだけが、密かに憧れを抱いていたバワ。

数年前、建築に全く興味がない奥さんに「どうプレゼンしたら新婚旅行の行き先としてスリランカを受け入れてくれるか」という先輩の相談に乗ったのだが、今ではそんな悩みは世の中に存在しない。リゾート好きの女性やハイエンド層に広く知られ、壮絶な予約戦線が繰り広げられるようになっているため、行く予定のある方は早めの予約をおすすめする。

地球上にある脈々としたすべての生命へ

ダンブッラ市街から未舗装の道を走ること約20分、全長1kmに及ぶホテルの中央に配置された半屋外のエントランスが現れる。レセプションでチェックインをすると、ウェルカムドリンクが待っている。ロビーまで続く通路はむき出しの岩そのもので形成され、まるで洞窟を抜けるような感覚に。

岩場が特徴的な半屋外のレセプション | photo : Mio Umenaka

8種類、全152室の客室が岩肌に寄り添うように配置されおり、すべて半屋外の廊下でつながっている。

中央のメインプールが「インフィニティ・プール」となっており、目の前に広がるカンダラマ湖と一体化したような錯覚に陥る。

インフィニティプール | photo : Mio Umenaka

今や世界中のラグジュアリーホテルで多用されているこの手法の生みの親こそ、ジェフリー・バワである。

湖側は足がつかないほど水深が深くなっており、縁の方まで泳いで行っても顔が水面すれすれにしか出ないので、プールに入っていてもいなくても、どこに立ってもインフィニティを感じられるようになっている。

しかも足がつかないので長い時間泳いでいられず、すぐプールから出ることになるため、結果としてプールサイドから見ている多数の人にとって、美しい情景を保っているというのがまた巧みである。

インフィニティなのはプールだけではなかった

宿泊室へとつながる屋外廊下 | photo : Mio Umenaka

元々あった岩場の地形を活かして建てられているので廊下の所々がスロープ状になっており、半屋外の廊下に点在する階段はそれぞれ異なる形状をしているため、ついつい上り下りをしてみたくなる。

ダイニングへつながる階段 | photo : Mio Umenaka

自分の重心が傾く方向へ抗わず本能のままに散策しているだけで、あらゆる目線から様々な地形や樹木、ふとした瞬間に現れる生き物との共存を楽しむことができる。

photo : Mio Umenaka

数歩歩みを進めるだけで、ホテルの中にいることをすっかり忘れてしまうほど。

photo : Mio Umenaka
photo : Mio Umenaka
photo : Mio Umenaka

上階と下階はおろか、自然と構造物、人間と動物の境界さえそこにはなく、自分の境界が無限に広がっていくよう。まさにインフィニティである。

「やがて木に覆われ、森に還る。」

蔦で覆いつくされた外観 | photo : Mio Umenaka

これはバワ自身による言葉である。

木々や蔦で覆われた外観はまるで廃墟のようにも見えるが、これは意図されたもの。

バワによるホテル建築は西南海岸に多く存在するが、唯一内陸に建てられたのがこのヘリタンス・カンダラマ。元々、ここから北へ15km程にあるシーギリヤ付近の敷地にホテルの設計を依頼されたバワ。しかし、その提案された敷地を拒否(!)し、この古代カンダラマ湖のほとりにある岩場の頂部を敷地とするよう依頼主を説得したことで、この唯一無二の建築が実現したというのだから驚きだ。

目の前に広がるカンダラマ湖 | photo : Mio Umenaka

「出来れば連泊を」という声が多いが、価格帯がハネムーンか欧米バカンス設定のため一人旅や学生には背伸びが必要になる。しかし、午前中から乗り込んで1日中ホテルを歩いている(というより森を散策している)と、早い段階で心身と建築脳が満たされるため、早い時間に訪れることが可能であれば1泊でも十分に楽しむことができる。

photo : Mio Umenaka
Photo : Mio Umenaka

バルコニーでキジと挨拶を交わし、猿とともにディナーへ向かい、廊下で繰り広げられるリスの小競り合いを子守唄に眠る。そんな極上の非日常を、ぜひ体験して欲しい。

Heritance Kandalama – ヘリタンス・カンダラマ

TEL : +94 66 5 555000
URL : http://www.heritancehotels.com/kandalama/
住所 : 11, Dambulla, Dambulla 21106, Sri Lanka

空中宮殿シーギリヤロックに登頂しよう

スリランカで一番人気の世界遺産・シーギリヤロック | photo : Mio Umenaka

ヘリタンス・カンダラマと合わせて訪れたいのが、シーギリヤロック。

5世紀に約200mの岩上に建造された空中王宮で、驚きなのは建設後たった11年で王朝が陥落してしまったということ。頂上の宮殿は風化して残っていないが、歩いて30~40分程で行くことができる。

360度見渡す限りジャングルに囲まれたパノラマビューの絶景を楽しみながら、古に想いをタイムスリップさせてみて欲しい。おすすめの時間帯は午前中か夕方頃。

頂上の遺跡から見渡せる360°パノラマビューの絶景 | photo : Mio Umenaka

コロンボ空港からチャーター車を利用する移動方法が主流だが、公共交通機関を利用しても十分効率的に旅ができる。コロンボを早朝に出発し、ダンブッラまでバスまたは列車で移動、ダンブッラからシーギリヤまではローカルバスもしくはスリーウィーラー(トゥクトゥク)を利用し、夕方頃にシーギリヤ観光。その後、ダンブッラに1泊し、翌日の午前中からヘリタンス・カンダラマへ宿泊するコースがオススメ。

Sigiriya Lion Rock – シーギリヤロック

開館時間:7:00~18:00
住所:Sigiriya Rd, Dambulla, Sri Lanka