松山将勝による”集落”という住環境と関係に呼応する家族の住まい「大屋根の棲家」
福岡を拠点に活動する建築家・松山将勝。長崎県佐世保市の郊外に建つ「大屋根の棲家」は、家族4人のための住宅です。こちらの建物は2017年 日本建築学会 建築九州賞 作品賞 住宅部門、2019年日本建築学会 作品選奨を受賞しており、国内外で高く評価されています。
子供のために選んだ”集落”という住環境
敷地は東南に連なる山々と北西に流れる河川の狭間に形成された、古い集落群の中にあります。オーナー夫婦は子供たちを育てる環境として、今も変わらず助け合いの精神で暮らしを営んでいるこの集落に飛び込むことを選びました。しかし、この場所も古い民家が壊され、住民の高齢化により住宅の更新が進んでいました。この集落の人々が共存しながら暮らしてきたこれまでの環境とは遠ざかるように、都市化の様相へと変わりつつある。ここに新しい住まいをつくる上で、現存する風景を踏襲し、互いの関係性を尊重しながら、これまで存在してきた集落の暮らしに呼応する佇まいを目指しました。
既存の集落と豊かな関係をもたらす繋がり
計画地は2面道路の角地にあり、南側からは他の住宅に見下ろされる状況にあります。また、北側の隣家は計画地より2m下がっており、平屋で建てても隣家の日射しを遮ってしまいます。
そのため、床レベルを半地下に掘り下げ、平屋でありながら高さを抑えることで、この集落が培ってきた関係に応えることにしました。この建ち方によって北側の隣家は以前と変わらない住環境を保持しつつ、同時に、接道する2面の道路側には大きな余白が獲得でき、その余白は集落に対して大きく開放された境界のない場所となります。この建ち方は、建主が自らの身を集落の環境に委ね、新たな関係を築いていきたいという想いが元となっています。
広がりのあるおおらかな内部空間
内部は、限られた予算の中でも、大屋根の下で家族が密接に関わりながら暮らす大らかな空間を目指しています。半地下にするものの、土留めを必要としない深さに留め、構造は2,275×3,185mmのグリッドが反復する単純な架構で構成し、天井は大屋根を支える構造体が現し(柱や梁などの構造材が見える状態で仕上げる手法)となっている。壁や天井の素材は針葉樹合板に限定し、間仕切りや建具もこの地の暮らしに必要なものを選ぶことで、コストへの対応を図りながら大屋根の大きな気積(室内の空間量)を設けました。
外部から見ると地窓とも見える半地下空間の様子は、この床レベルならではの感覚。両端に設けたコンクリート板によって視線が大地へと地続きでつながっていく感覚を助長させ、腰上だけが外に開かれることで開放感と同時に外部と一定の距離が保たれています。
集落での共生によって導かれた家族の住まい
オーナー夫婦が子育てに選んだ、人との繋がりが豊かな”集落”という環境。そこに馴染みつつ、家族の暮らしを豊かなものへとする調和を目指した結果生まれた「大屋根の棲家」。住民の高齢化によりこれから更新されていく住まいの指標として、原風景が壊されることなく未来へと継承されるきっかけとなりそうな住まいです。