倉庫の中に広がる豊かな空間。吉村靖孝による「フクマスベース/福増幼稚園新館」。

2016年千葉県市原市にある福増幼稚園に、建築家・吉村靖孝の設計によって子育て支援のための新館が建設された。この「フクマスベース」とも愛称が付いた新館は非常にユニークだ。

幼稚園見えない倉庫のような外観

本館から徒歩2分の場所に建てられた白いテント倉庫の建物が新館。未入学の児童や卒園児、その家族のため、または地域のコミュニティの拠点となる施設だが、それでも幼稚園の施設には全く持って見えない。

実は既存の倉庫があったのだが、図面も保存されていないことに含めて用途変更など色々なハードルがありリノベーションを断念。既製品のテント倉庫を利用して擬似的にリノベーションをしたような建築になった。

裏に回るとテント倉庫から木造の建物が伸びている。仮設のイベント会場のようでもあるこの建築。いったいどんな空間なんだろうか?

既製品の倉庫の中に広がる豊かな空間

既製品のテント倉庫の中には木造のインテリアが設置されている。建物の中に建物がある不思議な建築物で、高い天井の吹き抜け空間に迷路のような巨大な遊具が設置されている感覚。

テント倉庫の中に子供の遊び場のような自由な空間が用意されたようにも感じる。テントの素材は光を透過し、周辺環境と緩やかに隔てられ外部にいるような効果を与えてくれる。また、完全に区切られていない諸室は、子供たちが走り回って遊ぶのにもちょうどいい。素地のままの合板と塗装仕上げが連続していて、風景が切り替わり室内空間の移動を喚起させている。

刺激的な空間は子供達の成長にも良い影響を与えるに違いない。

テントと木造の建築物は構造的に完全に分離され、隙間には設備の配管や配線が収められている。

遊び心が詰まった施設

テント倉庫の奥の空間は、テント倉庫内のインテリアが連続して外部に飛び出たような感覚にさせてくれる。

階段だけでなく滑り台も設置されていて、迷路のように建築の中を探検する楽しさも含めて建築そのものが遊具のようだ。

設置されている椅子などもオモチャと家具の両方の機能を持ったユニークなものが多い。もちろん、スケール感としては大人も子供も両方居心地がいい空間として調整されている。

このフクマスベースでは定期的に親子教室のイベントが開かれていて、地域にも開かれた施設になっていてそのための工夫がいたるところに見られる。

 

「フクマスベース/福増幼稚園新館」は、既製品と新しい建築という相反するものを上手くつないだユニークな建築だ。リノベーションによって生まれる偶発的な空間と新しいインテリアの関係のように予定調和ではないおもしろさがあった。