オランダ・ユトレヒトにあるレム・コールハースとOMAによる革命的建築「エデュカトリウム」
アムステルダムから列車で約30分、オランダ最大の大学であるユトレヒト大学もある学園都市「ユトレヒト」。日本ではミッフィーの愛称で知られる、ナインチェ・プラウスの生みの親・ディック・ブルーナの生まれ故郷として有名な街である。
また、デ・ステイルの中心的な人物でもあったヘリット・リートフェルトもここユトレヒトで生まれ、世界遺産に登録されたシュレーダー邸もこの街にある。
ダッチ・デザインの中でも重要な街であるユトレヒトには、レム・コールハースと彼が率いるOMA (Office for Metropolitan Architecture) 建築デザインを再構築し、革命を起こしたと言われる建築がある。
ユトレヒト大学キャンパスの「エデュカトリウム」
シュレーダー邸からさらに郊外に進むとあるのが、レム・コールハースとOMAがマスタープランを手がけたユトレヒト大学キャンパス。その中にあるガラス張りの建築がレム・コールハースとOMAによるデザインの「エデュカトリウム」だ。「Education(教育)」と「torium(工場)」を掛け合わせた造語である。
床であり壁であり、天井でもあるスラブが革命的
「エデュカトリウム」は、内部の空間構成がファサードにも現れた、内部空間を外部と一貫性を持たせたいかにもモダニズム的な建築である。だが、空間に出てくる床や壁、天井をできるだけ単純な構成で表現するモダニズム建築に対して、この「エデュカトリウム」は床や壁、天井という要素を融解して空間構成を再構築した革命的な建築だ。
エントランスを入ると、水平なスラブとスロープで斜めになるスラブが現れ、外観をそのままトレースするような体験ができる。開口部は全てガラスのカーテンウォール(構造上取り外し可能な壁)になっていて、空間構成が明快にわかるようになっている。
1枚のスラブが空間に求められる機能やプログラムに対して、床であり壁であり、天井でもあるように変化して、空間を構成している。これによって、ホールとしての空間と垂直動線であるスロープ、水平動線である通路が一体になり、ひと繋がりの変化に飛んだ空間が生まれた。
スラブに沿って設置された階段がおもしろい。隣の講義室もスラブに沿って傾斜していて、講義室として最適化している。
エントランスから見ると奥に当たる床から壁、天井と変化していく場所は、床の素材もそのままでカーブを描いたおもしろいデザインになっている。この建築のデザインのコンセプトが最も顕著に現れた部分でもある。
地上階にあるカフェテリアは、スロープから続く斜めのスラブが天井の高さに変化を与え、緑豊かな外部に意識が向くようにデザインされている。高い天井と開放的な空間は気持ちがいい。
ダイナミックなインテリアデザイン
主にコンクリート打ち放しの箇所は多いが、ホワイエの空間などトラバーチン(緻密で多孔質な石材)を一面に使った壁もある。それでいて、グレーチング(格子状に組んだ溝蓋)など工業製品を手すりに使ったり、光源をポリカーボネートで覆って壁面を光らせたりと斬新。
安価な材料を使いながらも、使い方を工夫することによっておもしろい空間ができあがる、非常にダイナミックなインテリアデザインになっている。バラバラな素材使いをしているが、それがパッチワークのようでもあり意外に馴染む。
光源を直接的に見せないような間接照明や丸い手すりの中に照明を仕込んだりと場所によって工夫して、空間に変化を与えている。
家具はミース・ファン・デル・ローエを思わせるデザインで統一されている。トラバーチンと合わせるとどこかバルセロナ・パビリオンのような雰囲気になっている。
レム・コールハースの建築を身体的に体験できる
「エデュカトリウム」は、現代建築では今や巨匠とも言われるレム・コールハースの才能を感じられる。近年CCTV(中国中央電視台本部ビル)やシアトル中央図書館など巨大な建築が注目されているが、建築を身体的に体験できるちょうど良いスケールの建築だ。
1997年に竣工し、約20年経過した「エデュカトリウム」だが、全く色褪せないデザインには恐れ入る。著書の「錯乱のニューヨーク」や「S,M,L,XL」などで建築の理論を流布しながら、時にはル・コルビュジエなどのモダニズム建築と対比して建築を考え、実践を重ねるレム・コールハースを代表する作品でもある。
ロッテルダムにあり、レム・コールハースとOMAによるクンストハル美術館も、エデュカトリウムと同じようなコンセプトでデザインされた建築である。
Utrecht University Educatorium – ユトレヒト大学 エデュカトリウム
開館時間 : 7:15-22:00
休館日 : 土曜日、日曜日
住所 : Leuvenlaan 19, 3584 CE Utrecht, The Netherlands