「倉庫」の常識を超えた?!オランダ、ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館「デポ」

Photo: © Ossip van Duivenbode

欧州最大の貿易港を持つ、オランダの港町ロッテルダム。

2021年11月、MVRDVが手掛けたボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の倉庫「デポ」がオープンした。
鏡のように輝くファサード、細長く伸びる鉢のような印象的なフォルム。屋上にはガーデンもあり、市民からは「巨大なサラダボウル」との愛称で呼ばれる建物は、いい意味でこちらの予想を大きく裏切る、常識では考えられない“倉庫”だった。

ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館「デポ」

Photo: © Ossip van Duivenbode

ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館は1849年、個人のアートコレクションが市に寄贈されたことから創立された。1935年に美術館が建てられたが、2019年から現在に至るまで大規模な改装のため閉館している。その代わりにーといってはなんだが、15万1000点におよぶ膨大な所蔵品の一部を一般公開するために造られたのが、この「デポ」だ。

実はデポが生まれた背景には、気候変動と面積のほとんどが海抜マイナス地帯というロッテルダムの土地柄が影響している。美術館の建物は何度も洪水に襲われており、今後気候変動で海面が上昇することも考えれば、第二次世界大戦後に造られた地下倉庫に美術品を所蔵し続けるのは危険だとされたのだ。「デポ」もその名の通り(英語でDepotとは倉庫の意)美術品倉庫だが、地上6メートル以下には保管しないように考えられている。

Photo: Hideko Kawachi

ファサードと一体化した小さな入口から足を踏みいれると、弧を描く階段、レモンイエローの中二階には赤いプラスチックのロッカーが並ぶポップなエントランス空間が現れた。今回はガイドツアーを予約したので、白衣を身に纏う。温度・湿度管理をした倉庫内に入れてもらうので、外からの埃を持ち込まない工夫だ。

自然光が差し込む明るい高さ40mのアトリウム

Photo: Hideko Kawachi

中央の階段を登っていくと、40mもの高さのアトリウムが広がっていた。倉庫というと暗い印象だが、ここは上から自然光が差し込む明るい空間を可動式のガラスケースで囲んでいる。中には絵画やデザイン家具、彫刻作品など所蔵作品の一部がランダムに展示されていた。

Photo: © Ossip van Duivenbode

広々とした空間の様々な層に、時代も手法も様々なアート作品が浮かんでいるようだ。絵画の裏、彫刻の足下……あらゆる角度から作品を見ることができる。左右のフロアを繋ぐ通路もガラスケースになっており、デザインオブジェや古い器などが並んでいる。

見応え十分な膨大なコレクション

Photo: © Ossip van Duivenbode

まるでメタバースの中を浮遊して見学するミュージアムのような……不思議な感覚だ。キュレーションした展示を行うミュージアムに対し、こちらは保存環境が同じものを実用重視で並べただけの倉庫とはいえ、多岐にわたる膨大なコレクションは見応え十分。

Photo: © Ossip van Duivenbode

コンペの段階では、ミュージアム側は所蔵庫を重視し、一部をデポの仕事内容を伝えるようなパブリックスペースにしたいと希望していたが、計画段階で大部分を一般公開するかたちに変更された。しかし所蔵品は古いものも多く、湿度や温度管理も難しい。しかしアトリウムに作品を散りばめる形にし、仕事場や倉庫の一部をガラス張りにして見学できるようにすれば、目にできるものは多い。

Photo: Hideko Kawachi

ガイドツアーでは、人数を限定し10分と時間も決まってはいるが、実際に倉庫の中に入れてもらうことができる。デザイン家具から現代アート作品の一部まで、温度と湿度設定が同じものを収蔵。オランダのオフィス家具メーカー、Bruynzeelが開発したストレージシステムは、ボタンひとつで出し入れが可能だ。

Photo: Hideko Kawachi

最上階には、白樺を中心としたルーフガーデンがあり、ロッテルダムの街を一望できる。このボウルのような形状は建物の設置面積をできるだけ小さくしながらも使用可能なスペースを広くする工夫だ。あくまでも倉庫なので、隣接するボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の塔よりも高さを抑えている。しかし地階の直径は40メートルだが最上階の直径は60メートルまでに広げることで、約1万5千平米の広さを確保した。

建築自体がアート作品のような機能美の新建築

Photo: © Ossip van Duivenbode

奇抜に見えるミラーファサードにも理由がある。6609平米のミラーパネルは2枚のガラスをPVBフィルムで固定し、さらに鏡面効果のあるフィルムを貼った。そのパネルを加熱してこの曲線を作っているというからすごい。しかしこの鏡のような曲面は公園の緑やそして近隣の建物を写し、違和感なく場所に馴染んでいる。刻一刻とのその見た目を変える様子は、建築自体がアート作品のよう。夜になれば、ピピロッティ・リストの作品とのコラボレーションも。アート鑑賞の後も周囲を歩き何度も足を運びたくなってしまう、機能美の新建築なのだ。

Photo: © Ossip van Duivenbode

Depot Boijmans Van Beuningen

開館時間:11:00~17:00
休館日:月曜日
URL:https://www.boijmans.nl/depot
住所:Museumpark 24, 3015 CX Rotterdam, オランダ