感動から生まれたモノづくりで人の気持ちを豊かにする。辰野しずかがデザインするもの。

辰野しずかさんは、東京をベースに活動しているクリエイティブディレクター兼プロダクトデザイナー。イギリスで家具やプロダクトの勉強をした後に、2011年から個人事務所を構えて活動を行っている。彼女の作品には日本の伝統工芸や、手仕事のモノづくりとの取り組みが多くみられ、今までにないクリエイティブな発想や方法で話題作を世の中に発信している。彼女の伝統工芸と向き合う姿勢や、その創作に対する想いはどのようなものなのかを伺った。

人が豊かになれるようなデザイン

photo:Masaki Ogawa

辰野さんは家具や食器などの日用品から、ファッション小物までデザインしている。そして独立当初から、伝統工芸を始めとする地域に根付いたモノづくりの仕事などに、積極的に取り組んでいる。

イギリスのキングストン大学のプロダクト&家具科に入学した辰野さんは、なんと主席で卒業。そんな彼女は、「普段の生活で目にする身の回りのものの佇まいや、空気感、また使い勝手など、人が豊かな気持ちになれるようにデザインしている」と彼女は語る。

そんな辰野さんの日常の姿はといえば、川沿いを歩いて散歩するのが好きとのこと。鳥が非常に好きなのだそうで、川にいる鳥を観察することが多く、眺めながら癒されているという。鳥モチーフの作品があるのも、その影響かもしれない。

またコロナ禍において、デザインの需要はどう変わるかと尋ねると、「ホームオフィスの需要が増えるのでは」と語る。現在家で働く人が増えているが、新型コロナによる今の状況が収まってからも、その快適さを感じている人がそのまま必要とすると思う、とのこと。実際に、デジタルや機械が苦手だった職人の方々も、最近ではzoomなどのツールを使えるようになっているそう。今までは全国を駆け回っていた辰野さんだが、こうした影響によって、出張の量も減るかもしれないと話した。

一方で、違う変化も示唆していて、「実際に会って、同じ空間で過ごすことの価値も高まっていると思う。コロナが収まったら、より尊い気持ちで会うことができるような暮らし方、世の中になるのでは」と語る。

海外を通して見えた日本の素晴らしさ

photo:Masaki Ogawa

留学前と留学後では、伝統工芸に対する意識に変化があったそうで、日本の伝統工芸は、世界のレベルと比べても素晴らしいものが多くあり、留学前まではそこまで感じていなかったが、イギリスに住んで改めてその価値に改めて気付いたと話す。

またイギリス時代、プロダクト&家具科に通っていた辰野さんは、日本の伝統工芸について聞かれることもあったそうで、知りうる限りの知識で、日本にしかない木材の話や組み方、宮大工の話などを説明していたそうだ。日本にあって海外にない技術も多く、「海外を通して日本の伝統工芸の素晴らしさを発見できた」と語った。

背景にある”素敵な部分”を引き出して膨らませる

photo:LALAFilms

イギリスへの留学を経て、伝統工芸を守りながら現代的なプロダクトを生み出している辰野さん。デザインで心がけているのは、「対象のモノづくりや、作り手から見つけた素敵だと思う部分を膨らませて可視化していくこと」。歴史や特徴をふまえて考えるため、見た目だけでなくコンテンツや背景に含まれている内容も意識しながら、デザインをするよう心がけているそう。

辰野さんの作品の中には、自然界に存在するような綺麗な色付けをしているものが多くみられる。そのことについて伺ってみると、伝統的な素材や技術は自然の中から派生するものが多く、もともと持っている魅力を見つけ、引き出そうとすることを素直に行っていると、自然とそうなっていくのかもしれないと語る。

そんな辰野さんのインスピレーションは、作り手の現場や体験から受けているそう。工場に足を運び、そこにしかない技術を見せてもらうことや現場でのやり取りの経験、またそこに流れている空気感などが、モノづくりのインスピレーションに繋がっているという。

伝統工芸に対する想いをデザインに込めて

photo:Fumio Ando

これまでの歴史を詰め込んだような作品「封 -鳩とオリーブ-」が生まれた経緯は、東京ミッドタウン六本木にあるライフスタイルショップが企画した「HOPE for PEACE/ボタンでつなぐ平和展」というアート展だったとのこと。戦時中、軍服用に作られてきたもの有田焼のボタンを使って、アートを作るという展示のテーマから、「戦争のためにボタンを作ることがないように、そして有田焼の魅力を今後存分に自由に生かしてモノづくりができるようにという想いを込めてデザインした」と語る。

ボタンは簡素な作りだが、当時の有田焼は、手描きで華やかな絵付けを施すことに重きを置かれていた伝統工芸。しかし戦争という理由で、そういった華やかな絵付けが叶わず、また戦争のため人々の食卓を彩ってきた有田焼までもが、軍事物資を作るしかなかったという。だからあえて、「鳩とオリーブという平和を象徴するもので、手描き絵付けのデザインをした」と話してくれた。

公式サイトのプロフィールには「良いモノづくりがもっと認知され、続いてほしい。という想いから、現在は地場産業の仕事に力を入れ『長所を生かしていく、伝えていく、つなげていく』をテーマに製作している。」とあるが、辰野さんにとって「長所」とはどのようなものだろうか。その定義を尋ねてみると「長所とは、ものづくりにおいてポジティブなエネルギーを感じるもの」と回答。基本的には五感を研ぎ澄まして感じ取るものをベースとしていて、現地で得た情報を分析。その中のポジティブなエネルギーを探していく、というやり方なんだとか。

辰野しずかの「Life is ◯◯」

辰野さんにとって、「Life is ◯◯」の◯◯に当てはまるものは「インスピレーション」。基本的に感動しながらものをデザインしているため、日々どんな小さなことにも感動しながら、モノづくりしていきたいと語ってくれた。