建築と漫画、ふたつの仕事が交わる場所──建築漫画家・鬼ノ仁が大切にする「描く」暮らし

建築士として設計に携わりながら、漫画家としても長年活動を続けてきた鬼ノ仁さん。建築と漫画という異なる分野を行き来しながら、自身の作品世界を築いてきました。現在は建築をテーマにした漫画作品も手がける鬼ノ仁さんに、暮らしの中で大切にしている空間や、漫画と建築、それぞれの仕事との向き合い方について伺いました。

建築家・漫画家 鬼ノ仁

一級建築士矩子の設計思考©鬼ノ仁/日本文芸社

1969年青森県生まれ。東京デザイナー学院建築デザイン科卒業。漫画家・イラストレーターとして活動する傍ら、一級建築士として建築設計事務所も運営。1999年に漫画家デビュー後、多数の作品を発表し、2019年からは「魅魑(MITI)」名義でも創作活動を行っている。建築知識を活かした作品づくりにも取り組み、「一級建築士矩子の設計思考」では建築の魅力を漫画という表現で描いている。

自分で設計した“仕事机”へのこだわり

Via : @kinohitoshi

まず最初に、暮らしの中で大切にしているデザインについて教えてください。

「やっぱり仕事机ですね。自分で設計して組み立てました。材木をカットしてくれるサービスがあるので、自分で寸法を設計してカットしてもらいました。こだわったのは板の厚みですね。20ミリにしています」

なぜ20ミリにされたんでしょうか?

「見た目がシュッとして見えるんですよ。少し薄めにしたほうが、すっきり見えるので」

仕事机の幅は約2.4メートル。漫画制作にも向き合う長い時間を支える空間だからこそ、見た目にも使い心地にも自分なりのこだわりを反映させているようです。

“旅している気分”になれる大浴場のある宿

お好きな場所や空間について教えてください。

「取材で出かけることもあるんですが、その際には、大浴場があるホテルに泊まりたいですね。サウナはちょっと苦手なんですけど、大浴場に入ると“旅してるな”という気分になるんですよ。最近では、漫画の取材で京都を訪れました。新しい漫画のキャラクターを京都大学に通う設定にしたんです。そうなると、やっぱり描くために現地に行かないといけないなと思って、京都に行ってきました」

作品のリアリティを支えるのは、実際に場所を歩き、その空気感を確かめること。設定から取材先が決まるというエピソードにも、ものづくりへの真摯な姿勢がうかがえます。

建築士から漫画家へ──ふたつの仕事の原点

一級建築士矩子の設計思考©鬼ノ仁/日本文芸社

現在は漫画家・イラストレーターとして活動されていますが、もともとは建築設計のお仕事もされていたそうですね。今後、再び建築の仕事に戻りたいと思うことはありますか?

「はい。もともとは、30坪ほどの敷地に建つマンションの設計をしていました。ワンフロアに一部屋、あるいは二部屋ほどの規模が多かったですね。実は、漫画家という仕事のほうが寿命は短いと思っていて。漫画の仕事を終えたあと、また建築の仕事に戻ることはあるかもしれません」

同人誌がデビューのきっかけに

一級建築士矩子の設計思考©鬼ノ仁/日本文芸社

漫画家として活動を始めたきっかけについても伺いました。

「デビューのきっかけは同人誌ですね。描き始めたのは26歳くらいだったので、遅いほうだと思います。ちょうど自分が子どもの頃に、青年向け漫画が出てきた時代だったので、当時はかなり読んでいましたね」

建築と漫画。異なる分野に見えるふたつの仕事ですが、鬼ノ仁さん自身は意外な共通点も感じているといいます。

「閉じこもってひたすら描くところは似てますね。あと、締め切りを守ること。納期を守るところでしょうか(笑)」

描き続ける仕事の、その先へ

建築士として空間を設計し、漫画家として物語や人物を描く鬼ノ仁さん。異なる仕事でありながら、どちらにも共通しているのは、“描く”ことに向き合う姿勢なのかもしれません。自分で設計した机に向かい、現地に足を運びながら作品をつくる。その積み重ねが、建築と漫画、それぞれのリアリティにつながっているようです。

後編:「一級建築士矩子の設計思考」で建築を“わかりやすく”届けたい──建築漫画家・鬼ノ仁が漫画に込める建築へのまなざし(6月18日 公開予定)