マルニ木工の100年の木工家具づくりから生まれたプロダクトデザイナー熊野亘が手掛けた国産檜材のサウナ「kupu sauna」
サウナを、家具として設計するとはどういうことか。この問いから出発したプロダクトが「kupu sauna」です。広島に本拠を置く木工家具メーカー・マルニ木工が、プロダクトデザイナー・熊野亘、そして国産サウナの先駆者であるONE SAUNAとともに開発したこのサウナは、昨秋の東京でのお披露目を経て、2026年5月27日より大阪・maruni osakaにて「kupu sauna大阪展」を開催します。
「家具メーカーがサウナをつくる」必然

マルニ木工の創業は1928年。以来100年近くにわたり、木と向き合い続けてきた家具メーカーです。その間、脚の曲線加工・ほぞ継ぎ・表面仕上げといった木工の技術を磨き続け、国際的なデザイナーとの協働も積み重ねてきました。深澤直人や吉岡徳仁といった建築・デザイン界に馴染みある名前とも共同開発を手がけてきた同社が、なぜサウナというプロダクトに辿り着いたのか。
その答えは、マルニ木工が長年取り組んできた「国産針葉樹の活用」という問いにあります。杉や檜といった国産針葉樹は、戦後の植林政策によって日本各地に広がりましたが、輸入木材との競合や後継者不足によって、十分に活用されていない現状があります。この豊富な国産材を、家具という文脈で再び社会に届ける方法を探り続けてきたマルニ木工にとって、「木の香りと熱と蒸気が一体となる閉じた空間」であるサウナは、国産檜の性質を最も豊かに体験できるプロダクトとして、必然的な選択でした。
「kupu」——フィンランド語の「ドーム」に込めた設計思想

プロダクト名「kupu(クプ)」は、フィンランド語で「ドーム」「覆うもの」を意味します。この言葉を名に選んだことに、このサウナの設計思想が凝縮されています。人をやさしく包み込むハーフドーム型のフォルムは、伝統的なバレルサウナを現代的に再解釈したものです。バレルサウナは木のたがで円筒を締める樽型の構造を持ち、熱と蒸気が空間内を効率よく循環する仕組みを備えた、北欧の古典的なサウナ建築です。kupu saunaはその構造の知恵を受け継ぎながら、家具的な精度と審美眼で現代の空間に置かれるかたちへと昇華させています。
国産吉野檜が体験をつくる
素材に選ばれたのは、奈良県吉野産の檜です。吉野は古くから木材の産地として知られ、ゆっくりと育った木目の細かさと、豊かな芳香を持つ吉野檜は、木材の中でも格別の存在感を持ちます。サウナという空間において素材の選択は、見た目の問題を超えます。熱を帯びた室内で、木が香りを放ち、蒸気を吸い、手に触れる——その総体が体験をつくるからです。吉野檜の清涼感のある香りが、サウナの高温の中で立ち上るとき、身体は視覚以外のすべての感覚で「木の中にいる」ことを受け取ります。
家具をつくるとき、木の選定から始まるマルニ木工の流儀が、サウナという新しい器においても貫かれているのです。
デザイナー・熊野亘という選択

「kupu sauna」のデザインを担ったのは、プロダクトデザイナーの熊野亘です。2001年から2008年までフィンランドに留学し、帰国後はJasper Morrisonに師事。2011年に自身のデザインオフィス「kumano」を設立し、NIKARIやCAMPER、karimoku、天童木工など国内外のメーカーと、素材・地域性・環境を背景に持つデザインを手がけてきました。現在は武蔵野美術大学の准教授も務めています。
フィンランド留学という経歴が示す通り、熊野はサウナ文化の本場を身体で知っている。その経験と、マルニ木工の木工技術と、日本の国産材という三者が出会ったとき、「kupu sauna」というプロダクトが生まれた必然は明快です。さらに今回の協業には、宮崎・青島を拠点に国産サウナ「ONE SAUNA」を展開するLibertyship代表の揚松晴也も加わっています。フィールドでサウナを運営し続けてきた揚松の視点が、使い心地と実用性という側面からプロダクトに反映されています。
家具として設計されたサウナの意味
「家具のように細部まで丁寧に設計された使い心地」——プレスリリースに記されたこの言葉に、kupu saunaの本質があります。家具とは、人の身体に最も近い建築です。座る・寝る・触れる——その行為のすべてに応答するように、寸法・角度・素材の質感が設計されます。サウナもまた、人が長時間その内部に在り続ける空間です。しかしこれまでのサウナは、どちらかといえば「熱効率」や「耐久性」という性能の文脈で語られることが多く、家具的な精度で細部を設計するというアプローチは珍しいものでした。
kupu saunaが問いかけるのは、「サウナは家具になれるか」という問いです。居室に置かれたとき、景観に溶け込む佇まいを持ち、手に触れれば木の質感が伝わり、座れば身体に添うように設えられている——そのような、使うたびに素材と設計の意図が感じられるサウナのかたちを、マルニ木工と熊野亘は追求しました。
kupu sauna大阪展とトークイベント
「kupu sauna大阪展」は、大阪の街を巡りながら多彩なアートやデザインに触れる周遊型エリアイベント「Osaka Art & Design 2026」への参加も兼ねています。会期中は、maruni osakaの空間にkupu saunaの実物が展示され、木の香りや質感、構造の美しさを直接体験することができます。
開催初日の5月27日(水)夜には、アーバンネット御堂筋ホールにてトークイベントも開催されます。登壇するのは、デザイナーの熊野亘、ONE SAUNAの揚松晴也、そしてマルニ木工代表取締役社長の山中洋の3名。マルニ木工がなぜサウナに取り組むのか、国産材を活かすことがこれからの暮らしや空間づくりにどのような可能性をもたらすのか、そして家具の視点からサウナを考えることで生まれる体験価値とは何か——プロダクトの背景にある思想と、今後の展開が語られます。定員100名、5月25日(月)まで申し込み可能です。