
ミラノデザインウィーク2025「Thought for Humans」から読み解く、未来の暮らしとデザイン
2025年4月、世界最大級のデザインの祭典、第63回「ミラノサローネ国際家具見本市」が開催されました。今年のテーマは「Thought for Humans(人間のための思索)」。気候変動や都市生活の複雑化が進むなか、「人が心地よく暮らすとは何か」が改めて問い直される場となりました。テクノロジーと自然素材、伝統と革新が交差する展示から浮かび上がってきたのは、「思いやり」に根ざしたデザインの姿。今回は、そんな未来志向の提案が詰まった注目展示を厳選して紹介します。
暮らしの豊かさを体現する「STOCKHOLM 2025」
IKEAは今年40周年を迎えるSTOCKHOLMシリーズの最新作「STOCKHOLM 2025」を発表。
全96点からなる史上最大規模のコレクションは、無垢材や手織りラグ、吹きガラスなどの上質な素材を用い、北欧らしい温かみと機能美を兼ね備えています。
IKEAらしいポップなカラーリングはそのままに、素材の経年変化や日常の喜びに寄り添うデザインが印象的でした。
参考:ミラノデザインウィーク2025でIKEAはインタラクティブなインスタレーションと96点にも及ぶコレクションを発表
「The Collection Amplified」で柔軟性と包容力を追求
B&B Italiaはストレートソファとして誕生した人気モデル「チャールズ」や「タフティータイム」に、背面に取り付けられるベンチやコンソール、緩やかなカーブを描くパーツやデイベッドなどを加えることで、より自由度の高いコーディネートを提案。
人々の集まり方やリビングの使い方が多様化するいま、ソファはもはや壁際やコーヒーテーブル前に直線的に置くだけの存在ではありません。巨匠たちによる優れたデザインのエッセンスを受け継ぎながら、現代のライフスタイルに寄り添うソファへと進化を遂げています。
「空間のための家具」をテーマに、3ブランドで存在感を発揮
Karimokuは「Karimoku Case」「Karimoku New Standard」「MAS」の3ブランドをそれぞれ別会場で展開。

サローネ会場では、ノーム・アーキテクツと芦沢啓治が手がける「Karimoku Case」を展開し、「建築空間のために家具をデザインする」という原点回帰の姿勢を提示。実在する住宅や施設のために開発された家具を通して、空間との対話を重視するブランド哲学を表現しました。
循環型デザインとモダニズムの再構築
Cassinaはブランドの哲学や現代の住空間への独自の視点を体現する「The Cassina Perspective」をさらに進化させ、「The Cassina Perspective 2025」を発表しました。
ヴィコ・マジストレッティによる1975年のソファ「FIANDRA」が循環型経済に配慮した設計で復刻され、素材使用の最小化を追求しています。
また、リンデ・フレイヤ・タンゲルダーによる有機的な形状のサイドテーブルや、フォルマファンタズマの素材活用を重視したモジュール式ブックシェルフなど、デザインとサステナビリティを融合させた提案が並びました。
さらに、Cassinaはジョルジョ・ガベール・リリコ劇場にて、フォルマファンタズマによるインスタレーション「Staging Modernity」を発表しました。本作は、モダニズムを固定的な概念ではなく、流動的かつ開かれたものとして再解釈。「人間」と「非人間」、「モダン」と「野生」といった二元論的な境界を揺るがし、新たな視点でモダニズムを問い直しました。
「Design You Can Feel」で感性とAIの共演を体験
デザインと建築のオンラインマガジンDezeenと大手テクノロジー企業ASUSが共同で開催した「Design You Can Feel」は、テクノロジーと感性の融合をテーマに展開。
実験的デザインスタジオStudio INIによるインスタレーション「Willful Wonder」は、来場者の動きに応じて半透明のパネルがダイナミックに変化し、空間全体が“感じる”装置として機能。ASUSの最新Zenbookシリーズとあわせて、触覚・視覚・思考を刺激する次世代のデザイン表現が体感できる展示となりました。
参考:ミラノデザインウィーク2025で注目を集めたStudio INIによるDezeenとASUSのコラボ「Design You Can Feel」
呼吸がつなぐ、人とクルマの未来──
レクサスはインスタレーション「A‑Un(阿吽)」を公開。
「阿吽」とは、日本で心を通わせる呼吸や調和を意味する概念で、人とAIが自然に共存する未来の移動体験を象徴します。
35kmの竹繊維で構成された蝶型スクリーンは、来場者の呼吸や心拍に反応して光と音を変化。
隣接の「Discover Together」では、AIが人の動きに共鳴する演出を通じて、クルマと人が呼吸を合わせる新たな関係性を描き出しました。
参考:ミラノデザインウィーク2025 に出展した「レクサス(LEXUS)」によるインスタレーション。
“人間のための思索”から生まれる、未来の暮らしのかたち
「Thought for Humans(人間のための思索)」を掲げたミラノサローネ2025では、テクノロジーとクラフト、サステナブル素材と感性の融合によって、「人が心地よく生きる空間」が再定義されました。見る・触れる・感じる体験型の展示や、社会・環境への問いを含んだデザインが多く見られ、今後の暮らしの価値観を静かに照らし出す内容でした。
後編:ミラノデザインウィーク2025トレンド・総括レポート――世界が注目したインテリアデザインの最前線(6月30日 公開予定)