「一棟一棟に安全な根拠を提供すること」楓構造研究所 主宰・古賀健朗が語る構造設計と木造建築の課題について

日本の住宅づくりで主要なのが木造建築。昔から森林資源に恵まれ、寺社仏閣の建立が盛んになったことで住宅にも木造が広まったことに加え、木の湿気を吸収・放出する機能が高温多湿な日本の環境に適していたこともあり、現在に至るまで木造はメジャーな住宅構造となっています。一方、耐震や耐火など、災害大国日本における木造住宅の在り方を問う声も見られます。今回は福岡を拠点に木造に特化した構造設計を手掛ける「楓構造研究所」主宰・古賀健朗さんに、構造設計と現代の木造建築設計の課題について伺いました。

楓構造研究所 主宰・古賀健朗

2012年 楓工房一級建築士事務所を設立し、木造建築物構造設計に従事。2014年株式会社楓工房として法人化。2018年より既存住宅の耐震補強の普及活動を始め、未来を見据えた独自基準による耐震補強リノベーション「ホームアゲイン認定工法」を開発。構造設計の視点から、数多くの長寿命の木造建築を生み出しています。

デザインを“守る”視点で考える

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「デザインと聞くと見た目の話になることが多いと思うのですが、職業柄『デザインを守る』ということが私にとってのデザインです。具体的に言うと、地震や台風などの災害がやってくる中でデザインされた建物をどのようにして守るか、ということを仕事としているので、デザインを産むというよりデザインを守る、という立場で物事を考えています。」

木を感じられる大きな空間が豊かな気持ちにさせてくれる

建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「一人でぼーっとリラックスしたいときは、車などの狭い空間の中が好きです。あとは、木が剥き出しになった大きな木造空間に入って、その構造について想像することが好きです。木に囲まれた空間にいることが豊かな気持ちにさせてくれます。」

構造設計とは、安全な根拠を提供すること

古賀さんは建築の構造設計を手掛ける「楓構造研究所」主宰を務められていらっしゃいますが、“構造設計”とはどういったものなのでしょうか。

「端的に言うと、我々は日本の住宅一棟一棟に安全な根拠を提供することを目的に活動しています。設計と一口に言ってもたくさんあり、空間を作るのは意匠設計、心地よく暮らすためにエアコンなどの配置計画をするのが設備設計、そして、空間を守るための骨組みに安全性の根拠を置いていくのが構造設計と呼ばれる分野です。構造設計によって自然災害などから建物を守ることで、結果人々の豊かな暮らしに寄与できると考えています。」

施主と現場の認識の違いが大きな課題

2024年元日に発生した能登半島地震では多くの木造家屋が震災、倒壊や火事によって失われました。現在の木造住宅の設計における課題をどうお考えでしょうか。

「課題は多くあるのですが、中でも施主が求める耐震強度と設計段階で最低限必要とされる耐震強度のレベルの相違が大きなポイントだと認識しています。

施主としては地震発生後も同じ物件で同じ生活を続けられるレベル感の強度を持った建築を求めていますが、実際に建てられる建築の多くはそこに暮らす人々の命を守るための最低限のレベルであることが多いんです。

と言うのも、日本の一般的な木造住宅づくりにおいて、構造計算は法律上必須ではないため、予算の兼ね合いもあり、そうした構造確認の工程をカットして建てられることが多々あります。そうではなく、しっかりと構造設計の重要性を認知させ、専門家の意見を取り入れることで、より災害にも強い長寿命な木造家屋を生み出すことが可能になると思います。」

なるほど。楓構造研究所では、どのように構造設計を進めていらっしゃるのでしょうか。

「建物そのままを骨組みから組み上げていく段階で、疑似的な地震の力をかけることで、一つ一つの安全性をチェックしています。建物の中でもどこが特に揺れるのか、危険なのかと言うことを事前に予測して、そこを重点的に確認、補強していくことで安全性を担保しています。」

木造建築の寿命はもっと延ばせる

木造建築の魅力、可能性についてはどのようにお考えですか

「木造住宅の耐用年数は30年程度と言われていますが、設計段階で構造の専門家が入ることで、50、100年近くもつ建物を作ることは可能だと考えています。現状は、構造の専門家無しで建てられる木造建築が多くありますが、しっかりと専門家が入ることで、長く未来を守ることができる建築が出来上がると思います。」

金閣寺も木造ですが、現在に至るまで残っているのは何故でしょうか。

「金閣寺が何故あんなに長くもつのかと言うと理由は2つあって、1つ目は運がいいということ(笑)。

そして2つ目は、建物が地面に乗っかっているように作られているということ。現代の地震対策において大切なのは耐震と言われますが、現在まで残っている古い建物の多くは、揺れに耐えているというより滑っているような感覚なんです。そうすることで、地面が揺れた時に建物まで地震の揺れが伝わらないんです。現代は地面と建物をつなぐ基礎を設けるので地面の揺れが建物に伝わってしまう。そこで我々のような構造設計に携わるものが、揺れに耐える方法を検証しているんです。」

日々のイノベーションによって生まれる未来が楽しみ

構造設計の視点から、長寿命の木造建築づくりを目指す楓構造研究所主宰の古賀さん。そんな古賀さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「“未来へのイノベーション”です。日々生み出されるイノベーションによって、変わりゆく未来を人生の楽しみにしています。」

構造設計の観点からよりよい木造建築を支える

構造設計によって、長寿命の木造建築づくりを支える古賀さん。進化する技術や建築環境の変化によって、これまで以上に長く続く建築設計が可能になるかもしれません。