アテネ・パルテノン神殿の麓に建つ「アクロポリス博物館」は、柔らかな光が彫刻を引き立たせる博物館
パルテノン神殿をはじめ古代ギリシア人によって創造された建築様式であるギリシア建築によって、多くの観光客で賑わうギリシャ。調和と均整を重視した直線的な造りで、神殿に代表されるような荘厳な雰囲気を持つ建築が特徴です。そんなギリシャの首都、アテネにある「アクロポリス博物館」は、パルテノンの発掘現場から出土した文化財を中心に収蔵・展示している考古博物館です。2009年に開館した博物館の総工費は1億3000万ユーロ(約175億円)。構想から建築まで11年間が費やされた建築は、ギリシャの誇りとなる美術館として多くの人々に愛されています。
パルテノン神殿のふもとに建つ博物館
建築はパルテノン神殿の南東300mにあり、そこから古代アテネの都市遺跡が4000平米にあたって出土したという、遺跡の中の敷地という重要かつ貴重な場所。アクロポリスの東斜面に建設された旧アクロポリス美術館の収蔵容量を出土品が超えてしまったため、新アクロポリス美術館としてこの地に建設されました。
設計はパリ北部のラ・ヴィレット公園を手掛けたスイス人建築家・ベルナール・チュミによるもの。3階建で2万5000平方メートルの広さを持ち、ガラスと鉄筋で造られた建物は、アクロポリスの丘にある旧美術館の展示空間の10倍の広さを有します。
博物館の基礎部分を支える建物はベース部分、中間層、最上階と3層に分節。
1階にあたるベース部分のスラブは、100本超の柱が建物の基底部に横たわる発掘現場を保護しています。
作品のフォルムを生かす柔らかな光が広がるシンプルな空間
建築は、チュミの「そこに展示される作品が主役でなければいけない」といった思想からシンプルで無駄のないデザインに。
展示空間の表面の大部分をコンクリート打ち出しにすることで、コンクリートは光を吸収する一方彫刻は光を跳ね返すため、まるで彫刻が浮き上がるような空間に仕上げています。
ほか、「アクロポリス博物館」は立地環境から、夏の高温への対応や対地震など様々な課題をクリアしなければならず、機能面でも優れた設計を取り入れており、太陽光線を和らげるためガラスに黒点を散りばめたり、地震に対しては、日本やカリフォルニアで使われている技術を採用したりと工夫が見られます。
展示作品はもちろん遺跡も鑑賞できる構成
1階にはメインロビーや企画展示室を配置。また、地下の遺跡を見せるために開口部が設けられていたり、床そのものがガラスでできていたりと、そのまま遺跡が見学できるようになっています。
アクロポリス初期の作品を展示するアルカイックギャラリーでは、開口部から差し込む光に照らされることで生まれる影によって、より際立った彫刻の美しさを感じることができます。
ダブルハイトの2階は古代からローマ時代までのコレクションを展示する常設展示空間へと通じており、1階からガラスのスロープが上昇するように繋がっています。
中二階にはケータリングスペースやパブリックテラスなどのホワイエを挟んでいます。
3階には美術館のメインとなる「パルテノンギャラリー」を配置。
トップライトのある矩形空間は全面ガラス張りの透明空間で、下界の躯体とは23度ずらして配置されています。これはガラス張りのパルテノンギャラリーを、丘の上の「パルテノン」に真正面に対峙させるために、長辺部分をそれと平行に置いたためであり、展示作品はもちろん、パルテノン神殿もこの空間の見どころとなっています。
パルテノン神殿を多角的に鑑賞できる美術館
「アクロポリス博物館」は、パンテオンの上部にある帯状の装飾彫刻フリーズが展示されている美術館内から直接アクロポリスの丘のパンテオンが見える設計で、コンペではこのパルテノンギャラリーの構成が特に高い評価を受け、実現に至りました。展示作品はもちろん、周辺環境も取り込んだ展示空間も見どころの美術館です。
アクロポリス博物館
所在地 : 15 Dionysiou Areopagitou, Athens 11742
開館時間 : 8:00〜20:00 最終入場は19:30
休館日 : 月曜日、祝祭日
入場料 : 20€
公式サイト : https://www.theacropolismuseum.gr/en