いのちは磨かれ、自分の身体すら必要なくなる。関⻄万博パビリオン「null²」を手がける落合陽一さん

メディアアーティストとして作品づくりを行っているほか、会社経営や大学教員などさまざまな顔を持つ落合陽一さん。“現代の魔法使い”とも言われている落合さんは、⼤阪・関⻄万博のシグネチャーパビリオン「null²」を手掛けています。その建築は変形しながら風景を歪める彫刻であり、デジタルの身体による合わせ鏡。訪れた人々の身体をデジタル化し、パビリオンの中では有機的に変形して自律的に動作する身体と対話するといいます。今回はそんな落合さんに、日常で大切にしているデザインや「null²」について詳しくお話を聞きました。

落合陽一/メディアアーティストが大切にするデザイン

©Impress Corporation

ーーメディアアーティストとして、日々多くのデザインに触れている落合さんが“暮らしの中で大切にしているデザイン”は?

「持ち運びだったり、日常と共に生きたりできるもの」。日常を過ごせることをデザインに求めていて、たとえば「加算性が優れている、日常で使うときに機能的で軽く小さい、なるべく耐久性が高い。しかしながら入手性が高く、つまり壊れた時にすぐ直せる」こと。もちろん、生活の中で使うものは美しくなければならないと思います。

ーー好きな場所や空間を教えてください。

北海道のニセコにある、「坐忘林(ざぼうりん)」という宿がお気に入りです。建築ではフランク・ゲーリーや、安藤忠雄さんの建築も好き。特に安藤忠雄建築の好きなポイントは「トイレへ行くときに傘をささなければいけないところ」で、自分では絶対に作らないと思うところが絶妙ですね。

シグネチャープロジェクト「いのちを磨く」null2をプロデュース

©Yoichi Ochiai / Design: NOIZ

2025年に大阪で開催される日本国際博覧会。落合さんは「シグネチャープロジェクト」(いのちの輝きプロジェクト)で展開される8つのパビリオンの中の1つ、「null²」をプロデュースしています。

ーー落合さんの著書『2030年の世界地図帳 あたらしい経済とSDGs、未来への展望』にもありますが、デジタルテクノロジーの普及の中で、暮らしや働き方がずいぶん変わる印象があります。2025年のテーマを「いのちを磨く」にされた理由は?

協会とのディスカッションの中で「磨く」という表現を打診され、僕はあまりこだわりが強くないため、そちらになりました。「いのち」は進化や歴史の中で、何らかの最適化が施されて磨かれていく、というところに興味がありますね。

 

この投稿をInstagramで見る

 

Yoichi Ochiai(@ochyai)がシェアした投稿

未知の風景 変形しながら風景を歪める彫刻

物理的に現場に行くことの価値を作り出す。人類が未だ見たことのないインタラクティブな構造体。
風景を変換しながら、自然と人間の間にデジタルの自由さを持って調和をもたらす。
数年に一度しかない世界的に大きなナショナルイベントでしか進展しないような建築やインタラクティブ技術の進歩を巻き起こす。

未知の体験 デジタルの身体による合わせ鏡

訪れた人々の身体をデジタル化し、パビリオンの中では有機的に変形し自律的に動作する身体と対話する。
有史以来、行われてこなかった鏡の再発明。(https://www.expo2025.or.jp/overview/project/より)

デジタルとフィジカルを超越するパビリオン、人間の暮らし方はどう変わる

ーー公開されている予告編を見ると、「デジタルとフィジカルの境界線を超越するパビリオン」「変形機構彫刻建築」と表現されていますね。

うちの建築はそもそも動く建築で出来ているので、建物の中にロボットアームが入っており、建物全体が大きな1つのロボットになっています。中でデジタルヒューマンを作り、外では鏡の変形機構が建築の姿をぬるぬると変えていく。ピカピカしたシルバーは幕でできているため、伸びたり縮んだりして変化していきます。

ーー設計のプロセスの中で、デジタルを用いたアプローチも盛り込まれているのでしょうか?

設計プロセスというよりモジュール型の建築になっていて、ロボットを作る多面体が変形していくところを意識的に取り入れています。デジタルヒューマンと採用した理由については、“いのちが磨かれ、人はやがて自分の身体すら必要なくなる”ことが面白いと思ったため、このトピックを扱おうと思いました。

ーーデジタルとフィジカルを超越するパビリオン、言い換えると人工物と自然とも言えると思いますが、2030年あたりになると、人間の暮らし方どう変化されると思いますか?

基本的に、おそらくほとんどの人間はそんなに簡単に変わらないと思うので、今までの仕事を薄く広く伸ばしていくと思います。一方でそれ以外の人たちは考えることにAIを使うようになり、自分の体の補助的にコンピュータやプログラムを利用し、それらの親和性が高い状態になっていくのではないでしょうか。

落合陽一さんが手がける「null²」

いのちが磨かれると、人間は身体すら必要となくなる。そんな過程に注目し、人の身体をデジタル化して有機的に変形するパビリオンを制作した落合さん。デジタルの身体による合わせ鏡により、どのような対話が生まれるのか気になるところです。

後編:あらゆるものは日常の延長。メディアアーティスト・研究者の落合陽一さん