建築家・武田清明による、多生物を受け入れ自然と共存した新しい住環境「鶴岡邸」

2022年日本建築学会作品選集新人賞を受賞し、住宅や別荘、事務所やインテリアまでも手掛けている建築家・武田清明。自然を愛している武田が手掛けた新しい住居の形「鶴岡邸」は、圧倒的な植物の量と種類で多くの人々を魅了しています。建築を作るのではなく、植物を建築の一部として考え、環境を作ることをテーマに作られた鶴岡邸は、まさに植物と一体化した住まいです。

多様な生物を受け入れる建築「鶴岡邸」

©masaki hamada

鶴岡邸は、東京都練馬区・石神井公園内の池に面して建てられた長屋形式の住宅です。多様他種の植物と建築が絡み合っているような外観をしており、かまぼこ型にアーチを描くヴォールト屋根が特徴的です。

敷地は長閑な低層の住宅街ですが、目の前には豊かな自然公園が広がっているため自然と人工が織り交ざった環境で、建物と庭、周囲の環境までも一体化している住まいとなっています。

住宅そのものが環境インフラに

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鶴岡邸は、“環境を作る”ことを目指した建築であり、植物を建築の要素として考え作られました。多様他種の植物や鳥や虫が、人間と境界なく接することができる心地の良い居場所を作るには、土と水が重要だと考えられ、ヴォールト状の屋根の中には、土がぎっしりと敷き詰められています。それには、雨が降ると屋上に溜まった雨水がヴォールト状に沿って谷部に落ち、そこから地面まで太い土の柱を通して、もう一度大地に戻ってくるような循環が生まれているのです。

流れ落ちてくる水はヴォールトでできた深い土に育つ植物に吸収されるほか、地中へゆっくり還元していく…。鶴岡邸は、住宅そのものが環境のインフラとなっています。

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敷地に対して、庭と植物を分けるのではなく、庭と植物を上下で立体的に積層していくことを考えられて作られた鶴岡邸。

洞窟のような自然物に近い仕上がりとなっている外観には、RC構造が採用されており表面には細骨材が見えます。

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完成時には、約100種類の植物が植えられました。しかし完成から約2年が経った現在、新たな品種もちらほらと見ることができます。

事務所兼住居として利用

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敷地面積は100㎡あり、建物の1階は武田の事務所兼住居です。建物の構造は鉄骨造で、開放的で外との繋がりが強く感じられます。

鉄骨に施されたサビ止めの赤い塗装が室内のアクセントとなっており、間仕切りのない一室空間です。

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黒い鉄板で作られた柱のように見える「土のコア」は、屋上から地面まで建物の中を貫いており、雨水などの水が、コアに詰まった土のなかをゆっくりと進んでいきます。

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ヴォールトのサイズは、大中小と3種類です。天井にリズミカルな変化が感じられ、天井のいたるところにはフックが設置されており、照明や植物などのインテリアとして活用されています。

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キッチンの近くには、ハーブや果実のなる木、食べられる植物が育てられ、キッチンから手をのばしそのまま料理に使用できます。植物を見る、育てるだけでなく、美味しく“食べる”としても活用できる。まさに自然と人間が共存した暮らしです。

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ヴォールト屋根にフレーミングされた風景は、豊かな緑で溢れています。

屋上全体にも庭園が広がる

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屋上は全体的に土を敷き、植える植物のエリアなどが細かく設定され、キッチンカウンターも設備されています。

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上部や横にはワイヤーが貼られ、パーゴラを作って植物が絡み、屋根となるように工夫。

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周りの自然環境と馴染んでいる鶴岡邸。屋上の土は、水はけの良い土が敷かれており、芝生を全面に敷いて飛散防止としています。

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日が暮れた後の鶴岡邸は、多灯使いされた照明がより植物を引き立たせ、雰囲気を醸し出しています。

自然と共存した住まい「鶴岡邸」

鶴岡邸は、新しい住環境の形“自然と共存した住まい”です。鶴岡邸を手掛けた武田は「生物と人工物の適切なバランスで構成された環境で、人と他生物が、私とあなたという二人称的な関係で、直接触れ合い、恵みをありがたく思える距離感で送れる生活、ただそれをつくりたかった」とコメントを残しています。鶴岡邸は、人間だけでなく、植物や鳥、虫、地球上に住む生き物が心地よく、相互に影響を与え合う関係が生まれる環境となっています。