「時代を超えて生き続ける普遍的なものづくりをしたい」SOMARTAデザイナー廣川玉枝さんのものづくり
2006年にSOMA DESIGNを設立し、同時にブランド「SOMARTA」を立ち上げた廣川玉枝さん。
「身体における衣服の可能性」をコンセプトにスキンシリーズという無縫製ニットを探究し、現在に至る廣川さんに、様々な角度からお話を伺いました。
暮らしの中で大切にしているデザイン
はじめに、廣川さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「仕事の中でも服飾デザインに携わることがやはり多いので、暮らしの中でも衣服のデザインを大切に思っています。見る人に影響を与えるのも衣服の役割なので、毎日着る服について、どこに行くのか誰と会うのか、環境や仕事内容にリンクさせながら、選ぶようにしています。」
好きな場所は「庭のある場所」
続いて、お好きな場所や空間について伺うと、
「都心の中でも自然を感じる事のできる場所がすごく好きです。手つかずの自然も好きだけど、人間が決められた空間の中で様々な景色をデザインした庭がすごく好きなんです。近所に庭園美術館があるのですが、緑豊かで開放感もありよく遊びに行っています。」
また、廣川さんは自然からインスピレーションを得ることが非常に多いそうです。
ニットづくりの魅力について
廣川さんは文化服装学院を卒業後、イッセイ ミヤケに入社し、ニットのデザインを担当されていたそうです。当時のことや、ニットのデザインの魅力について伺うと、
「専門学校生だった頃は、西洋服のデザインを学んでいたのですが、ニットの作り方は全く違う製法となっているんです。1本の糸がそのまま服になっていくので、糸を選ぶことからスタートして、どういう編み方にしようか、どういう形にしようかなど、全て一括で決めながら衣服をデザインしていくことが、とても面白く、素晴らしいことなんですよね。」
「様々な糸を用いて、自分の好きな形にテキスタイルからデザインできるのが、ニット作りの魅力的なところです。」と教えてくれました。
セレブや著名人にも愛されるSOMARTA
廣川さんが手がけるSOMARTAは、今や世界中のセレブや著名人が身につけるブランドとなっています。廣川さん自身、どういったところがそのような人たちに受け入れられたと思うのでしょうか?
「SOMATAの無縫製ニット、スキンシリーズでいえば他にない製品だからだと思います。360度身体がより美しく見えるよう、骨格や筋肉なども加味しながらデザインしています。またニットは元々、伸縮性がありますが、その中でもSOMARTAのスキンシリーズは、4倍ぐらい伸びるんです。例えば、同じニットを小柄でスレンダーな女性から、体格の良い男性まで身につけることができるぐらいのフィット感、伸縮性があります。なので、世界中のあらゆる人、男女、体型が違っていても着用できますし、縫い目がないため、肌になじみやすく心地よいところが評価されたのかなと思っています。」
スキンシリーズが生まれた経緯について
SOMARTAのヒットアイテム無縫製ニット、スキンシリーズは、皮膚のようなニットを目指しているそうですが、どういった経緯で生まれたのでしょうか?
「時代を超えて生き続ける普遍的なものづくりをしたいなと、ずっと思っていました。そのためには、民族を超えたところにある“世界服”というものを作ったらいいのかなと考えていましたね。」
「基本的に衣服のデザインは、その土地の気候風土や文化に左右され、場所に応じた環境で取れる動植物を使って衣服が作られていったというのが民族服の始まりだと思うんです。それに比べて世界服という考え方は、民族という枠も取り払って、広い世界で共通の意識みたいなものを形にすること。例えば、私たちは言語や文化、肌の色、姿形等、少しずつ違いがありますが、皮膚というのは全人類が持っている共通要素ですよね。」
「皮膚の装飾に関していえば、古代から祈りや儀式などの為に身体に模様を入れると言う風習があり、言語や文化に関係なく世界各地で見受けられ、自己表現するメディアでもあります。特別な願いや思いを身体に刻む行為が人類の共通美意識であるならば、タトゥーなどの模様が刻まれた皮膚を着脱可能な衣服として、無縫製ニットで表現できれば、人類の願いが叶えられる「世界服」、つまり民族を超えて繋がれる世界中の人類共通の普遍性がある衣服ができるのではないかと考えたのです。」
世界的アーティスト、レディ・ガガも着用
世界的アーティスト、レディガガのアルバム、「アートポップ」に収録されている「G.U.Y」のプロモーションビデオでは、SOMARTAが制作したボディスーツが使われて話題になっています。起用までにはどんな経緯があったのでしょうか?
「ガガさんには何度か着ていただいているんですけども、日本に初来日されたときに、歌番組に出演するにあたりSOMARTAのスキンシリーズを着用したいというオファーがあったんです。そこからスキンシリーズを気に入ってくださり、最新作のMVを作るにあたりスキンシリーズをいくつか使いたいとご連絡をいただき、お届けしました。」
「ガガさんは日本に来日した際に、日本の若手デザイナーの衣装をよく着用して下さり、彼女が着る衣装は毎回話題になっていました。海外でも日常からコンサートに至るまで、様々なシーンでSOMARTAを着用してくださっていたので、すごく嬉しかったです。」
東京オリンピックで着用されたポディウムジャケットについて
廣川さんはアシックスと共に、東京オリンピックの表彰式や選手村で選手が着用したポディウム(表彰台)ジャケットを手掛けたことも話題となっています。デザインする際にこだわった点について伺うと、
「オリンピックが行われる時期の日本は、7月の猛暑。日差しも暑くて体温も上昇すると、選手の体力も消耗してしまうのではないかと懸念していました。そこで、アシックスのスポーツ工学研究所が研究している、ボディーサーモマッピングに基づき、発汗場所なども考慮しながら身体の皮膚そのものを編み組織で表現するという形でテキスタイルをデザインしていきました。」
当時を振り返ると、「楽しくもあり大変でもありました。でも、東京オリンピックでは、日本の選手が多くメダルを取り、表彰台に上がったんです。その姿を見てやっぱり嬉しかったですし、自分が表彰台に上がったような気持ちになりました。」と教えてくれました。
衣服以外のデザインにも挑戦
大分県別府市の芸術祭「廣川玉枝 in BEPPU」にアーティストとして招聘され新たな祭をデザインしたり、香川県、川北縫製からローンチしたブランド「SANUA(サヌア)」を手掛けたり、従来のファッションデザイナーとは異なる動きをしている廣川さん。そこにはどのような思いがあるのでしょうか?
「衣服をデザインするときのスキルというのは、いろいろなデザインに応用できるんじゃないかと昔から考えていました。私たちの暮らしの中で布製品ってすごく多いですよね。インテリアもそうですし、カーテンや椅子にも布地を使っています。人間は骨格があり、その中に内臓機能があって、すべてが皮膚で包まれています。人間そのものの皮膚が第一の皮膚であるという考えで、第二の皮膚である衣服、乗り物などが第三の皮膚、建築物が第四の皮膚、だんだんとみんなで着る大きな衣服になっていきます。それらの構造を考えると、人以外の全てのものは身体に見立てられるので、これまでスキンシリーズを研究開発してきた経験を応用して、衣服以外のものもデザインできるのではないかと、挑戦したかったのです。」
「別府では第五の皮膚である地球として、その土地の風土を可視化して祭をデザイン・プロデュースしました。」
地獄温泉ミュージアムの展示について
2022年12月、大分県別府市鉄輪に新たに誕生した「地獄温泉ミュージアム」で開催中の展示について伺いました。
「新しくオープンした地獄温泉ミュージアムは、アカデミック・エンターテインメント施設として誕生しました。雨として天から降った水が50年かけて温泉水になるまでの地中の旅を来場者自身が追体験し、楽しみながら学べる施設となっています。その中の第4シーンに企画展示室があり、そこで、昨年別府で開催した「廣川玉枝 in BEPPU」で祭りを創作する為にリサーチしたデザインプロセスと衣服の展示をしています。2022年12月1日〜2023年11月30日まで展示が繰り広げられているので、ぜひ立ち寄っていただけたら嬉しいです。」
LIFE is デザイン
インタビューの最後、廣川さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is デザイン」と答え、
「デザインは、私たちの暮らしと切っても切れない存在だと思っています。毎日身につける衣服、食器、インテリア、自然物以外の身の回りの人工物は、全て誰かがデザインしたものです。デザインは生活に密着していて毎日使いながら楽しめるものであり、衣食住にかかわるデザインを美しいものに充実させるだけで日々の生活が豊かになります。私もデザインという仕事を通して、人の暮らしを少しでも豊かにできるものを作っていきたいと思います。」と話し、インタビューを終えました。
スキンシリーズは昨年から、北九州市小倉にある、CATWALK boutiqueと姉妹店のHUMOUR BOUTIQUE でも取り扱いがスタートしたそうです。世界中の人々を魅了する廣川さんのデザイン。今後も衣服を通じて、私たちを感動につつみ新たな発見をさせてくれることでしょう。廣川さんの今後に目が離せません…!