建築家・伊藤麻里による町への広がりを促す図書館「那須塩原市図書館 みるる」
栃木県の観光名所といえば那須塩原市。那須塩原駅の一つ隣の駅、黒瀬駅は近年の発展はめざましく、那須塩原市を代表する観光名所のひとつとなっています。黒瀬駅をでてまっすぐ進むと現れる「板室街道」には、「chus」や「1988 CAFE SHOZO」など、雑誌で取り上げられるような飲食店やカフェが連なり、たくさんの人が集まる素敵な通りになっています。そんな黒磯駅のシンボルとなる建物が「那須塩原市図書館 みるる」です。設計者は建築家・伊藤麻里で、街の人の交流を生み出す新しい形の図書館となっています。
街への広がりが意識されたランドスケープ的思考の図書館
黒磯では、地域の活性化を目指した『えきっぷくろいそ』などの活動が続けられており、その一環として図書館の建設が進められることとなりました。設計者として選出されたのが、Urban Architecture Office を主催する建築家の伊藤麻里です。彼女が設計のモットーとして掲げるのは、建物と自然の一体化を目指したランドスケープ的思考の建築です。「那須塩原市図書館 みるる」は、そんな彼女のモットーを体現した、地域の広がりを考えた図書館となっています。
インターネットが普及した現在、図書館の存在意義が再び問いただされる状況になっています。「那須塩原市図書館 みるる」はそんな問題を解決するかのように、本を貯蔵し、公開するためだけの図書館でなく、新たな機能を備えた図書館となっています。正面の入り口を入ると見えてくるのが、この空間。向き的で粗々しくも整頓されたスケルトン天井は、空間に広がりを与えてくれます。
機能の完全分離によって生まれる地域交流
一階には図書館らしからぬ機能が多々見受けられます。これは、建築家:伊藤麻里が意図的に1階と2階の機能を完全に分離しているためにこのような配置になっているのです。
水分を嫌がる図書館であるのに、カフェテリアが併設されていたり。
あるスペースでは企画展(みるるラボ)が開催されていたり。
子供が遊ぶことのできる空間(えほんのもり、まなびのもり)も設けられています。
この空間を隔てるのは防音性の高い壁ではなく、格子上に穴の空いた本棚です。つまり、空間に明確な境目が存在しないのです。1階はコミュニティースペースとして活用できるよう、入り口から出口にかけておおきな通路を一本通し、そこに上記のような機能を設けることで、1つの大きなコミュニティースペースとして、人々が関わりを生む空間が誕生しました。
雰囲気が一変、美しい天井が生み出す落ち着いた図書空間
2階へ上がると、1階とは全く異なる雰囲気を持った空間が広がります。2階は完全に図書館としてだけの機能が備えられています。1階の粗々しい天井とは違い、木のルーバーが幾何学的な天井を生み出しています。天井にデザインが施されていることで、空間が無作為に広がりすぎるのを防ぎ、安定した広がりと落ち着きを与えれくれます。天井の高さが来館者へ与える落ち着かなさを軽減するようなデザインとなっているように感じます。
2階から1階へ降りる階段からは、図書館前の公共スペースを見渡すことができます。ランドスケープ的思考を持った図書館であることから、図書館前もしっかりデザインされており、自然を織り交ぜた小さな公園のような空間が広がります。駅周辺の雨除けも、図書館の天井と同じような幾何学的なデザインが施されているため、図書館とその前の自然の空間に一体感が生まれています。建築家:伊藤麻里のモットーを体現した空間構成となっているように感じます。
地域の発展を促す街の図書館
黒磯駅の地域活性化のため作られた「那須塩原市図書館 みるる」。この図書館は、地域住民の交流を生み、多くの観光客を引き寄せる重要な役割をになっています。今後も地域活性化に大きく貢献し、多くの人を結びつける、那須塩原を代表する図書館であり続けるでしょう。
那須塩原市図書館 みるる
住所:〒325-0056 栃木県那須塩原市本町1-1
JR黒磯駅西口前
開館時間:火-金曜日(10:00-21:00)
土-日曜日・祝日(10:00-18:00)
毎週月曜休館日
電話番号:0287-63-9031