安藤忠雄×細野晴臣、建築と音楽の匠による対談が大阪・こども本の森 中之島で実現!
建築家・安藤忠雄と音楽家・細野晴臣によるトークイベント『第2回 セッション・イン・ザ・フォレスト「安藤忠雄×細野晴臣 こどもたちに伝えたいこと」』が、11月8日に大阪・こども本の森 中之島で行われた。
建築界の巨匠・安藤忠雄と音楽界の巨匠・細野晴臣による対談
同文化施設が主催する『セッション・イン・ザ・フォレスト』は、さまざまな職業に就く大人たちが、本のこと・仕事のこと・生き方のことなどを子どもたちに伝えるイベントで、第1回は、絵本作家・はたこうしろうを迎え昨年10月に開催。第2回は、数々の秀逸な建築物の設計を手掛け世界的に知られる安藤忠雄、デビューから50年を超えた今、改めてその評価が国内外で高まる細野晴臣と、異なるジャンルの最前線を歩み続ける2人による対談が実現した。
安藤忠雄により設計・寄付された同館の中央に位置する大階段に腰掛けた親子連れ70名を前に、両氏は初対面ながらざっくばらんなトークを展開。まずは安藤忠雄が携わってきた大阪の建築物を振り返り、「大阪人として、この辺りは全部自分の敷地だと思ってやろうと(笑)」と随所にユーモアを交えて話せば、「この辺の景観は都市の理想的な姿だと思ってさっき歩いてたんだけど、東京は巨大なビルばっかりなんですよ。ここは空間が生かされていて、古い建物もあって、公園的でもあるしカフェもある。大好きな場所ですね。こういうところが東京にもあれば、もうちょっとのんびり暮らせるんじゃないかな」と細野晴臣。
建築と音楽の関係性
話は建築と音楽の関係性にも及び、「ウィーンの街を歩いてると音楽が聴こえてくるような感じがして非常に好きなので、大阪にもそういうところがあれば」という安藤忠雄に、「建築と音楽って、構造があって、数学もちょっと使うし、そこにイマジネーションを乗せていく。近いところを感じます」と細野晴臣は共鳴。対談中にも自由に声を上げる子どもたちに優しいまなざしと言葉を送りながら、続けて安藤忠雄は「建築はこだわりが視覚で見えるものだけど、心にはあんまり残らない。子どもの頃に音楽を聴いてもらえれば、それがずーっと心に残るんです。ものすごく大事な感性を磨くと思う」と持論を述べた。
事前の打ち合わせや台本がないトークならではのエピソードも飛び出し、細野晴臣が「音楽は空気を通して聴くものなので、車の中は理想的なリスニングルームなんです。ただ、一回コンビニの前かなんかで車を停めて爆音で音楽を聴いてたら通報されたんですよ。聴いてたのはカントリーミュージックだったんですけど(笑)」と笑えば、「U2のボノ(Vo.Gt)が会いたいと言ってきたので、一緒に光の教会(大阪府茨木市、安藤忠雄による設計)に行きましたところ、「アメイジング・グレイス」を歌ってくれて。すごいもんやなと思いました。その後、ボノの家も設計しましたけど、音楽家って時々訳が分からん(笑)」と安藤忠雄。
そこから場所がもたらす重要性についての話になり、「我々は箱作りが仕事ですが、箱よりも人間がそこにいるというのが大事やと思いますね。ここで言うと図書館の方々が頑張らないと。あそこに行ったらいろいろと応えてくれるとなれば人が集まります」と謙遜する安藤忠雄に、「音楽をやってるとホールって、響きって、すごく大事なんです。特に現代的なホールはスタジオみたいに吸音しちゃうんですよ。そうなるとノレない。いいホールは手拍子だけで気持ちが上がる」と細野晴臣は経験談を語るなど、会話の端々からは終始、両者のリスペクトがにじみ出ていた。
「聞かないフリをする(笑)」
観覧者からの質問コーナーでは、「子どもにどんな音楽を聴かせるといいか?」という問いに、「基本になるのはリズムなんです。アフリカの子どもたちを見るとすごいと思うんですけど、音楽を聴くと踊り出す。頭で考えるんじゃなくて、フィジカルな反応があるものがいいんじゃないですかね。自分もブギウギを聴いて飛び跳ねてましたから。ここにいるみんなが音楽家になる素質があるんで、ライバルになっちゃうけど(笑)」と細野晴臣。また、「今までで一番難しかった建築は?」という質問に安藤忠雄は、「伊豆半島の端に5坪の美術館を作りたいと言われて。でも、5坪で遠いという条件が面白いから引き受けたんです。小さいものには心が入る」と回答。また、自身が子どもの頃、実家の改築の際に夢中で作業する大工の姿を見て建築家を志したと回顧し、「工夫に工夫を重ねて、うまくいかなかったらまた工夫して、出来上がったら自分で納得する。そういう姿を見て、依頼者なんか気にしてたらあかんなと。自分に都合の悪いことは聞かんようにして、無事に50年やってこれました(笑)」とちゃめっ気たっぷりに安藤忠雄が言うと、「音楽も一緒ですよ。無理難題を言われたら聞かないフリをする(笑)」と細野晴臣が返すなど、会場は和気あいあいの雰囲気に。
最後に、「子どもの頃に世界を大きくしておかないと、趣味がないまま大人になってしまう。私がモダンジャズを聴いたのは20歳の頃だった。夏目漱石を10代で読みたかった。そうしたら、もうちょっと違うことを考えてたかな」と、幼少期から芸術に触れる尊さを安藤忠雄が説き、その流れで「ぜひここでも気楽に音楽をやってくれる人がいれば」とつぶやくと、細野晴臣が「いい音がしそうな構造ですよ。ぜひやらせてください」と手を挙げ、会場からは大きな拍手が。匠たちの温かなメッセージに心を打たれる充実の1時間が幕を閉じた。
ドキュメンタリー映画『SAYONARA AMERICA』
なお、今後の細野晴臣は、11月12日(金)より、2019年にアメリカで行った初のソロライブなど貴重な映像をまとめたドキュメンタリー映画『SAYONARA AMERICA』が、大阪ステーションシティシネマ(※初日は15:15の回上映後/17:50の回上映前に、細野晴臣・佐渡岳利監督による舞台挨拶あり)ほかで全国公開されるのに加え、2019年に東京で開催され大好評を博したデビュー50周年記念展が、装いも新たに『細野観光1969-2021』として、グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボでスタート。
会期中には、歴代の楽曲やアルバムタイトルを冠したオリジナルドリンクが提供される同記念展とのコラボカフェも、同北館1階 カフェラボで実施される。