人と地域をつなぐ建築──建築家・山﨑健太郎が語る空間のつくり方

前編:余白が暮らしを育てる──建築家・山﨑健太郎が考える住まいの可能性

建築は、建物そのものにとどまらず、人の関わり方や地域の風景にも影響を与える存在です。人と人が出会うきっかけを生み出し、街の中に新たな居場所をつくることもあります。

そうした視点から設計に取り組んでいるのが、建築家・山﨑健太郎さんです。住宅から公共施設、福祉施設まで幅広いプロジェクトを手がけるその建築には、人や地域が自然につながるための工夫が随所に見られます。

今回は、地域に開かれた福祉施設「52間の縁側」をはじめ、にぎわいの中に一人でいられる場所をつくる考え方、そして山﨑さんの生き方にも通じる「Life is a garden」という言葉について伺いました。

地域に開かれた福祉施設「52間の縁側」

Photo : Naoomi Kurozumi

山﨑さんが手がけた、千葉県八千代市にある「52間の縁側」では、子どもたちが庭づくりをしていたり、お年寄りが過ごしていたりする様子がとても印象的でした。

「『52間の縁側』は、認知症の高齢者や障害のある人が過ごすデイサービス施設です。こういう施設って、どうしても街から少し離れた場所につくられることが多いんですよね。生活から切り離されてしまう感じがあって、それはあまりよくないんじゃないかと思っていました。

そこで、地域の人たちが自然に関われる仕組みを考えました。その一つが、みんなで庭をつくるという取り組みです。

庭づくりを一緒にやってみたら、思った以上にたくさんの人が集まってくれたんです。今でも少しずつ手を入れながら、みんなで育てているところですね」

放課後に立ち寄る子どもたちや、近所の人たちが庭の手入れを手伝うこともあると伺いました。

「普通に暮らしていると、同じ世代の人と過ごす時間が多いですよね。でもここでは、小学生が高齢者と話したり、近所の大人と関わったりする機会が生まれる。それって結構大事なことだと思っています」

にぎわいの中に「ひとりでいられる場所」をつくる

Photo:Masato Chiba

山﨑さんの建築に共通している特徴はどのようなところだと思われますか。

「場所を固定しすぎないこと。それから、みんなの中にいながら一人でいられる場所をつくることはよく考えています。都市では、これまで『にぎわい』をつくることが重視されてきました。人が集まる場所や活気のある空間は、街にとって大切な要素でもあります。

シエナのカンポ広場
シエナのカンポ広場

にぎわいはもちろん大事なんです。でも、そればかりだとちょっと苦しい。にぎわいの中にいても、一人で静かに過ごせる場所があるといいなと思っているんです。

パレ・ロワイヤル
パレ・ロワイヤル

例えば、パリ1区にあるパレ・ロワイヤルでは、椅子が自由に動かせるようになっていて、人それぞれが好きな場所に座って過ごしています。一人で本を読んでいる人もいれば、ただ静かに座っている人もいる。でも、その人たちはちゃんと街の中にいるんですよね。にぎわいの中にありながら、個人の時間も守られている。そんな空間のあり方に魅力を感じます。そういう意味でも、“余白”という考え方は大事なのかもしれません」

庭のように育っていく暮らし

ジル・クレマン著『動いている庭

最後に、山﨑さんにとってライフイズ◯◯の◯◯に入るものは何でしょうか。

「ライフイズ“ガーデン”です。この言葉には、フランスの庭師ジル・クレマンの思想が関係しています。クレマンは『動いている庭』という考え方を提唱し、植物の成長や変化を受け入れながら庭を育てていく方法を実践していました。

完成した庭をつくるというよりも、植物が変化していく過程を楽しむ。そこに人が必要な分だけ手を入れていく。そういう未完の状態を受け入れる庭のあり方が、とても美しいと思ったんです。そこでは野草のような自然の植物も生き生きと存在していて、人と自然の関わり方もとても自然なんですよね。

そういう庭のあり方って、暮らしにも似ていると思うんです。人生には、計画通りに進まないことや、決まらないことも多くありますよね。

何か大きな目標に向かって生きるというより、日々の変化に合わせながら、自分が生き生きといられるように暮らしていく。そういう生き方って、きっと心地いいんじゃないかなと思っています」

余白が育てる建築と暮らし

山﨑さんの建築に通底しているのは、空間の使い方を決めすぎない「余白」の考え方です。地域の人が関われる庭をつくることや、にぎわいの中に一人でいられる場所を設けることも、その延長にあります。

完成を目指すのではなく、変化を受け入れながら育っていくものとして暮らしを捉えること。建築もまた、住む人や地域との関わりの中で少しずつ更新されていく存在です。その柔軟な関係性こそが、これからの空間に求められる価値と言えます。