「一級建築士矩子の設計思考」で建築を“わかりやすく”届けたい──建築漫画家・鬼ノ仁が漫画に込める建築へのまなざし
前編:建築と漫画、ふたつの仕事が交わる場所──建築漫画家・鬼ノ仁が大切にする「描く」暮らし
建築の世界は専門性が高く、一般の人にとって少し難しく感じられることも少なくありません。そんな建築の面白さを、漫画という形でわかりやすく伝えているのが、建築漫画家・鬼ノ仁さんです。一級建築士として設計の現場を経験しながら、漫画家としても長年活動を続けてきた鬼ノ仁さん。現在話題を集めている「一級建築士矩子の設計思考」には、建築への深い知識と、“楽しく伝えたい”という思いが込められています。今回は、作品誕生の背景や漫画に込めた考え、そして鬼ノ仁さんにとっての「Life is ○○」について伺いました。
「いつか描きたい」から始まった建築漫画「一級建築士矩子の設計思考」

建築関係者の間でも話題になっている「一級建築士矩子の設計思考」ですが、この作品のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
「昔から、建築を漫画にできないかとはずっと思っていました。20代から30代までは建築の仕事をしていたので、いつか描けたらいいなと考えていたんです」

それが実際に形になったのは、50代に入ってからだったそうですね。
「建築の世界って、45〜50歳くらいまでは“はなたれ小僧”みたいなところがあるんですよ。だから、ある程度年齢を重ねないと描けないなと思っていました。50歳になったタイミングで、“今かな”と思って始めました」
建築を「難しいもの」にしたくなかった

建築という専門性の高いテーマを漫画にする上で、意識していたことはありますか。
「とにかく“わかりやすく”ですね。例えば、街で建築のお知らせ看板を見たことがある人って多いと思うんです。でも、その中身って意外と知られていない。そういう“これって実はこういうことなんですよ”という部分を、一般の人にもわかるように描きたいと思っています。
とはいえ、さすがに建築の話だけではもたないなと思っていて(笑)。お酒や飲食の話など、日常の楽しさも入れながら、漫画として面白く読めることも大事にしています」
設計経験が生きる“普通の建物”のリアル
作品には、鬼ノ仁さんの一級建築士としての経験も色濃く反映されていますね。
「有名建築を描くというより、普通の建物がメインなんです。実際に自分が設計していたような建物ですね。そういう意味では、設計の経験がかなり生きています。建築って難しいものではなくて、楽しいものなんです。そこを伝えたいですね。だから、建築を知らない人にもわかるように、そこはずっと考えながら描いています」
青年漫画から建築漫画へ
鬼ノ仁さんは、長年にわたり青年向け漫画を手がけてきた経歴も持っています。ジャンルの大きな転換に戸惑いはなかったのでしょうか。
「そこは全くなかったですね。青年向け漫画の経験は、一回消し去るくらいの気持ちで描こうと思っていました。これからも建築をテーマに、漫画を続けていきたいです」
「Life is Fun」自分が楽しくないと、人を楽しませられない

最後に、鬼ノ仁さんにとって「Life is ○○」。この○○に入る言葉を教えていただきました。
「“Fun(ファン)”ですね。漫画は読者を楽しませるものだと思っています。でも、自分が楽しくないと、やっぱり人を楽しませることはできないと思うんです」
楽しませること、そして自分自身も楽しむこと。その両方が、鬼ノ仁さんの創作を支えているようです。
“わかりやすさ”が建築の入り口になる
鬼ノ仁さんが「一級建築士矩子の設計思考」で目指しているのは、専門的な建築の世界を、もっと身近で楽しいものとして届けること。難しく見える建築も、視点を変えれば日常と地続きの面白さがある。そんな気づきを、漫画という入り口から伝えようとしています。「Life is Fun」という言葉の通り、自分自身も楽しみながら、人に面白さを届けていくこと。その軽やかな姿勢が、鬼ノ仁さんの作品の魅力につながっているのかもしれません。