
建築家・前田圭介による扇型の敷地が生む内と外の新たな関係性「PeacoQ」
広島県福山市を拠点に活動する建築設計事務所「UID」代表、建築家・前田圭介は、敷地や自然環境を活かした、独創的な空間構成と素材の魅力を引き出したデザインを得意としています。2020年に完成した「PeacoQ」は、敷地形状と周辺環境を巧みに活かし、内と外の境界を柔軟に解釈した住宅です。この住まいは、独特な敷地形状に合わせた空間構成と、自然との調和を追求したデザインによって、家族3人のための快適で豊かな暮らしを提供しています。
扇型の特性を活かした設計

建築が建つのは、広島県の住宅街に位置する、北東面でカーブする前面道路に面した扇型の敷地。南西側に隣家があり、北東側は道路に向かって開かれています。北面角地という条件に加え、周辺には緑地帯や土手越しの長閑な風景が広がっていました。

この特異な敷地形状と環境を踏まえ、前田は建物のヴォリュームを敷地境界際まで伸ばし、扇形の形状を反映した壁をデザインの核に据えました。

さらに、敷地形状に沿わせた壁の内側に小さな庭を生み出しています。

この庭は、内外のバッファーゾーンとして機能し、弧空間の境界を曖昧にする役割を果たしています。
弧状の壁が生む反復と連続性

外観は、扇型の敷地形状を反映した弧状の大きな土壁が特徴です。

壁には大小の開口が設けられ、プライバシーを確保しながら内外をつなぐ役割を果たしています。土壁は地表面から700mm程度浮遊させるように設計。壁内側の植栽が下からのぞき、境界をあいまいにしています。

庭に起伏を持たせることで、外部空間に立体的な奥行きを生み出し、住まい全体が自然と一体化するようなデザインが実現されています。

玄関近くには色とりどりの草花が配植され、訪れる人を出迎えるアクセントとなっています。これらの植物は、住まいの一部であると同時に、内と外をつなぐシンボル的な存在でもあります。
素材と構成が織りなす空間の奥行き

建築は地上2階建。内部空間は、弧状に配置された壁のリズムを反復させることで、内向的な居場所と外部に開かれた空間が連続的につながる構成になっています。

1階のリビングは、起伏のある庭に対して450mm掘り込まれた床レベルを持ち、空間に変化と広がりを生んでいます。さらに、居間の天井高は梁上で2,950mmに設定され、圧迫感のない開放的な空間を実現しています。開口部からは周囲の景観が取り込まれ、時間の移ろいとともに光と影が空間に表情を与えます。

リビングのほか、1階にはダイニング・キッチン、2階に居室を配置することで、家族の時間と個人の時間を緩やかに区切ります。

内装は、素材の温かみと空間の奥行きが際立っています。床材には西南カバフローリングが使用され、明るく柔らかな色合いが室内全体に優しい印象を与えています。

1階の壁面にも土壁が採用され、自然素材ならではの質感が空間に深みをもたらしています。これらの自然を感じさせる素材が、住まいに心地よい温もりを加えています。
扇状の敷地と弧状の壁が生む新たな住空間
「PeacoQ」は、敷地形状や周辺環境と密接に結びつきながら、内と外の新たな関係性を提案する住宅です。弧状の壁がもたらす空間の連続性、植栽を庭の延長として取り込むデザイン、そしてフローリングや土壁を活かした内装が一体となり、住まいとしての快適性と建築としての美しさを両立させています。