建築家・前田圭介が描く自然と共生する住宅「森のすみか / nest」

広島県福山市を拠点に活動する建築設計事務所「UID」代表、建築家・前田圭介は、敷地や自然環境を活かした、独創的な空間構成と素材の魅力を引き出したデザインを得意としています。2010年に完成した「森のすみか / nest」は、自然との共生をテーマにした住宅です。緑豊かな敷地環境を最大限に活かし、家族が自然とつながりながら快適に暮らせる空間を提供しています。

四季の移ろいが感じられる自然豊かな敷地環境

Photo : Hiroshi Ueda

建築は、広島県尾道市の山裾に位置する静かな敷地に建てられています。周囲には隣家がまばらで、豊かな自然が感じられる環境です。家族構成は娘2人と母、そして猫。女性3人ということもあり、家族同士身近な距離感のある住宅としながら、環境と建築との境界を緩やかにつなげる設計が求められました。

Photo : Hiroshi Ueda

そこで導かれたのは、生物のすみかのような、地中と地表、そして森との一体感が感じられるプラン。自然に溶け込みながら、3人と1匹が心地よく暮らせる空間を目指しました。

森に溶け込むデザイン

Photo : Hiroshi Ueda

建築は地下1階、地上1階の2層構造。

Photo : Hiroshi Ueda

RCでつくられた地階部分とその上部を覆う木造架構は、1階床レベルに配置された鋼板リブで接合し、浮遊するような形態を実現。屋根面には面内剛性の高い構造用合板を用い、四周の壁には開口がない箇所に柱を配置し柱間を耐力壁 (構造用合板 + 筋交) とすることで無柱空間としています。外壁は、森と調和するような杉板を採用。上部に行くにつれ規則的に大きくなる開口配置によって外部への開口率を上げながら、内外が一体となる開口形状としています。

つながりを意識したプランニング

Photo : Hiroshi Ueda

間取りは、家族のコミュニケーションと自然との一体感を重視して計画されています。

Photo : Hiroshi Ueda

地階の中央に配された玄関を開けると広がるのは吹き抜けの中庭。

Photo : Hiroshi Ueda

1階へとあがると中庭を挟んだ手前と奥に建具が入っており、開放時には全て外側に引き出せます。木製ガラス框戸によって外気を取り入れながら、内外のつながりを持たせています。

Photo : Hiroshi Ueda

中庭を挟んだ一方にはLDKを配置。フロアレベルを下げることで同じ空間のなかでも緩やかに空間のメリハリを演出。

Photo : Hiroshi Ueda

天井が高くなるため開放感がありながら、他と仕切られたこもり感もあり、家族団欒のひとときをやさしく包みます。

Photo : Hiroshi Ueda

もう一方には造作の棚を囲うように3つの作業デスクが配置されています。

Photo : Hiroshi Ueda

LDK側に配された階段を下ると大きな収納スペースに、デスク側の造作の棚に囲まれた階段を下ると寝室にアクセスできます。

自然素材を活かした温かみのある空間

Photo : Hiroshi Ueda

「森のすみか/ nest」では、床や壁などの材選びにも工夫することで、周辺の環境とすみかを包含した一つのつながりが実現されています。内装には、針葉樹の合板を採用することで自然素材の温かみが感じられる空間に。

Photo : Hiroshi Ueda

照明器具や家具も控えめなデザインや空間に合わせた造作家具を採用することで、全体の統一感を損なわないよう配慮されています。装飾の少ないシンプルな空間に、中庭の吹き抜け、周囲の窓から差し込む自然が彩りを加え、時間帯によって異なる表情を楽しめます。

自然と共生する「森のすみか」が描く豊かな暮らし

周囲の環境を巧みに取り込み、自然に溶け込む「森のすみか / nest」。建築内外で多用された木材や大きな窓、シンプルな内装によって建築自体が環境に馴染むと同時に、時間と共に風合いが変化する経年美も楽しめる、家族と共に成長する住まいです。