異端の建築家・渡邊洋治の最晩年の傑作「斜めの家」に泊まって学ぶガイド付き内覧会

「軍艦マンション」で知られる異端の建築家・渡邊洋治が故郷・新潟県上越市に設計した唯一の住宅「斜めの家」。その大胆な造形美を体験できる宿泊と、地元有志「ナナメの会」代表によるガイド付き内覧会が開催されます。渡邊の設計思想を、風土を通して深く理解する貴重な機会です。最晩年の傑作「斜めの家」は、渡邊洋治の故郷の風土に根ざした設計理念を体現しています。宿泊体験に加え、設計図などの関連資料展示や、中野一敏氏による内覧会でその魅力を深く掘り下げます。近隣の建築巡りもおすすめです。

異端の建築家・渡邊洋治が故郷に残した「斜めの家」

斜めの家

東京・新宿に半世紀以上にわたり異様な存在感を放つ「軍艦マンション」(正式名称:第3スカイビル)。その設計者として広く知られるのが、建築界において「異端」とも評された建築家、渡邊洋治(1923-1983)です。彼の独創的な発想とデザインは、今なお多くの人々を惹きつけてやみません。その渡邊洋治が、自身のキャリアの最晩年に、故郷である新潟県上越市で手掛けた傑作が「斜めの家」です。

斜めの家
南側外観(雨戸を閉めた状態)

1976年に竣工したこの住宅は、文字通り斜めに傾いた銅板葺きの箱が、まるで宙に浮かんでいるかのような強烈なインパクトを与える北側外観を持ちます。このユニークなデザインは、彼の建築哲学の集大成とも言えるものであり、彼の遺作となりました。

斜めの家
南側外観(雨戸を開いた状態)

これまで「斜めの家」は、建築専門家や一部の熱心なファンの間でその存在を知られるに留まっていましたが、竣工当時の姿を色濃く残す貴重な建築物として、近年その価値が再認識されています。2013年頃からは、所有者のご厚意により、地元の有志による見学会が不定期で開催され、その特異な空間を体験する機会が限られたながらも提供されてきました。

斜めの家
南側外観(戸を開けた状態)

そして、渡邊洋治生誕100周年という節目を迎えた2023年、この貴重な建築遺産を未来へ継承すべく、地元有志による「ナナメの会」が中心となり、継続的な保存と活用を目指したクラウドファンディングが実施され、多くの支援が寄せられました。

泊まって学べる!一般向け宿泊開始とガイド付き内覧会

斜めの家
2階寝室(障子を閉めた状態)

2023年のクラウドファンディングによる支援を受け、待望の設備修繕が完了した「斜めの家」。ついに2025年3月より、一般の方々向けの宿泊体験受付が開始されました。単にユニークな建築に泊まるだけでなく、「泊まって学べる名住宅」をコンセプトに掲げているのが大きな特徴です。

斜めの家
1階洋間(窓を開けた状態)

内部には、「斜めの家」の貴重な設計図一式をはじめ、クラウドファンディング時に制作された渡邊洋治の設計図集、迫力あるA1サイズの額入りパースなど、ファン垂涎の関連資料が常設されています。

斜めの家
1階洋間(障子を閉めた状態)

実際に建物に滞在しながら、図面や資料を通して渡邊洋治の設計思想や「斜めの家」の構造、ディテールへのこだわりに触れることができる、まさに唯一無二の体験が可能です。

斜めの家
斜めの家の特徴的なスロープ空間 階段の無い2階建て住宅である。スロープ空間(南からの光が入り込む)

内部空間の特徴である、階段がなくスロープで上下階を繋ぐ構成も、実際に歩いてみることでその意図を身体で感じ取ることができるでしょう。宿泊予約は、「斜めの家」公式ホームページに掲載されている予約リンクから、空室状況の確認や予約手続きが可能です。この貴重な建築遺産での宿泊体験は、建築ファンのみならず、デザインやアートに関心のある方々にとっても忘れられない時間となるはずです。

斜めの家
玄関

さらに、この一般向け宿泊体験の開始を記念して、保存活用を支援する「ナナメの会」会員およびメディア関係者を対象とした無料のガイド付き内覧会とミニレクチャーが開催されます。建築文化やその保存活動に興味・関心をお持ちの方は、ぜひこの機会にご参加ください。当日は、「ナナメの会」代表であり、長年「斜めの家」の保存活動に尽力されてきた建築家の中野一敏がガイド兼講師を務め、「斜めの家と地域の建築文化」について深く掘り下げます。開催概要は以下の通りです。

  • 日程1:2025年5月11日(日)13:00〜15:30
  • 日程2:2025年5月28日(水)13:00〜15:30
  • 会場:「斜めの家」(新潟県上越市大豆2丁目2−18)
  • 内容:ガイド付き内覧会およびミニレクチャー「斜めの家と地域の建築文化」
  • 講師:中野一敏 氏(ナナメの会代表/建築家・一級建築士)
  • 参加費:無料
  • 参加方法:事前予約制(詳細は公式情報をご確認ください)
  • お問い合わせ:[email protected] (ナナメの会 中野一敏)

※「ナナメの会」は入会費・会費不要で、2023年以降の活動参加者や今後継続的な参加意思のある方が対象となります。内覧会参加をご希望で会員資格についてご不明な点は、上記メールアドレスまでお問い合わせください。

地域の建築文化と連携

斜めの家
北側外観

渡邊洋治の建築、特に「斜めの家」に見られる大胆な造形は、一見すると奇抜さに目が奪われがちですが、その設計理念は彼の故郷である新潟県上越市の風土と深く結びついています。かつて太平洋側に対し「裏日本」と呼ばれたこの地域特有の気候や歴史、文化。渡邊洋治は、そうした故郷の風土を自身の設計に取り込み、昇華させようと試みていたと考えられています。「斜めの家」が建つ上越市の風土を知ることは、単に建物を鑑賞するだけでなく、その背景にある渡邊洋治の思想や哲学をより深く理解するための重要な鍵となります。「斜めの家」での滞在は、建築そのものだけでなく、周辺地域の魅力に触れる機会も提供してくれます。例えば、隣接する糸魚川市には、渡邊洋治が独立後に初めて手掛けた記念碑的作品であり、渡邊洋治事務局も特に推奨する「善導寺」(1961年竣工)が現存しています。また、同じく糸魚川市には、日本を代表する建築家の一人である村野藤吾の最晩年の傑作として名高い「谷村美術館」(1983年竣工)もあります。「斜めの家」を拠点に、これらの魅力的な建築物を巡る旅は、新潟・上越エリアの豊かな建築文化を堪能する絶好の機会となるでしょう。

斜めの家
2階和室(床の間を見る)

この貴重な「斜めの家」の保存と活用を力強く推進しているのが、地元の有志によって結成された「ナナメの会」です。その代表を務めるのが、建築家であり、新潟工科大学や上越総合技術高校で非常勤講師も務める中野一敏氏です。中野氏は2013年から「斜めの家」の保存活動に深く関わり、見学者の対応から建物の修繕、そして設計意図の調査・研究に至るまで、多岐にわたる活動を精力的に行ってきました。特に、渡邊洋治生誕100周年にあたる2023年には、記念イベントや原図展、そして今回の宿泊体験実現の礎となったクラウドファンディングを主導するなど、その功績は計り知れません。そして、この「泊まれる建築遺産」としての新たなスタートを実務面で支えているのが、民泊運営サービスを展開する株式会社ニューサイエンスジャパンです。同社は、予約管理から清掃、ゲスト対応まで、民泊運営に関わる煩雑な業務を代行し、宿泊者が心に残る体験ができるようサポートしています。かつて空き家となっていた遊休資産が、多くの人々の協力と情熱によって、貴重な文化体験を提供する場へと生まれ変わりました。関係者は、この「斜めの家」が今後、地域の大切な資産として利活用され続けることに大きな期待を寄せています。

中野 一敏(ナナメの会代表)

中野 一敏(ナナメの会代表)

建築家・一級建築士/新潟工科大学・上越総合技術高校 非常勤講師
2013年より「斜めの家」の保存活動に携わり、見学対応・修繕・設計意図の調査を実施。2023年には渡邊洋治生誕100周年記念イベント・原図展・クラウドファンディングを主導し、「斜めの家」の民泊化と設備修繕を実現しました。

建築と風土が織りなす特別な体験を

渡邊洋治の異質な才能が凝縮された「斜めの家」は、その名の通り傾いた外観と独創的な内部空間が魅力です。宿泊体験では、この唯一無二の建築に滞在し、設計思想や地域の文化に触れることができます。また、中野一敏のガイド付き内覧会では、専門的な視点から建物の深い魅力を知ることが可能です。この貴重な機会に、建築と風土が織りなす特別な体験をしてみてはいかがでしょうか。