「作る」ことで生きる。セルフビルドで作り続ける建築家・岡啓輔が語る建築と暮らし

“セルフビルドの建築”を掲げ、東京・港区三田を拠点に独自のスタイルで活躍する建築家・岡啓輔さん。設計から施工までを自ら手掛けることで、建築に対する新たな視点を提案し続けています。20年以上にわたりセルフビルドで作り続ける「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」は、建築界隈でも注目を集める存在です。今回は岡さんに、好きなデザインや建築家を目指したきっかけについて伺いました。

建築家・岡啓輔

1965年福岡県生まれ。有明高専建築学科卒業。会社員、鳶職、鉄筋工、型枠大工、住宅メーカーの大工などを経験し、1995年から2003年まで「岡画郎」を運営。20代に舞踏家・和栗由紀夫に師事し踊りを学ぶ。2003年「蟻鱒鳶ル」計画案が「SDレビュー」入選。2005年「蟻鱒鳶ル」着工後、20年以上にわたりセルフビルドを続けている。現在は独自の建築観を深め、東京・三田を拠点に活動する。著書に「バベる!自力でビルを建てる男」(筑摩書房)。

「買う」より「作る」暮らし

オカズボン
Via : @okadoken

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「昔はおしゃれなファッションやプロダクトが好きでしたが、今はほとんど買い物をしなくなりましたね。デザインの考え方も変わって、最近は“誰とどこで会うか”のほうが大事になってきました。そのなかで特にこだわっているのが服装で、十数年、自分で縫ったズボンを履いています。身体に合うし、気に入ったものを長く使える。自分の手で作ることが、一番しっくりくるんです」

子ども時代の秘密基地が建築家へのきっかけ

段ボールハウス
Via : @okadoken

建築家を目指したきっかけはどういったものだったのでしょうか。

「子どもの頃から秘密基地を作るのが好きで。中学を卒業してすぐに建築の勉強を始めたんです。有明高専に進学し、15歳で建築に触れたことが人生の大きな転機になりました。ル・コルビュジエやガウディの建築を知って、こんな世界があるんだ!と感動しましたね。“こういう生き方がしたい”と、そこから考え始めました」

自分で作り上げた建築には愛着がある

蟻鱒鳶ル
Via : @okadoken

建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「やっぱり、自分が作った『蟻鱒鳶ル』ですね。自分で設計して、実際に手を動かして作ると、建築に対する愛着がまるで違うんです。設計図だけでは見えない部分が、作業をしながらどんどん変わっていく。それが楽しいんですよね」

「蟻鱒鳶ル」には、細かい設計図がないと伺いました。

蟻鱒鳶ル
Via : @okadoken

「役場に提出する最低限の図面は書きます。でも、窓の形や壁の傾きなど、細かい部分は現場で考えて決めるんです。というのも、現場に行くまではあれこれ考えてはいるんですが、実際に作業を始めると『こっちのほうが面白いな』って変わってしまうんですよね」

“作る”ことで生まれる自由な建築の魅力

岡さんにとって建築とは、単に設計し建てるものではなく、作りながら変化していく“生きた空間”そのもの。長年にわたるセルフビルドの経験が、その考えをより強固なものにしてきました。買うのではなく作ることで生まれる愛着や、設計図に縛られない自由な発想が、岡さんの建築を唯一無二のものにしています。