スペイン・バルセロナにあるアントニ・ガウディによる未完にして最高傑作「サグラダ・ファミリア」
スペインのバルセロナにあるサグラダ・ファミリアは世界で最も有名な教会の一つです。ガウディの代表作であるのみならず、モデルニスモ建築でも最も有名で最も観光客を集めているモニュメントです。1882年に着工され、現在でもその建設は続いています。
20世紀最高建築のカトリック教会
サグラダ・ファミリアの正式名称は聖家族教会、聖家族贖罪教会とされています。サン・ホセ協会という民間のカトリック団体が個人の寄付のみで建設される贖罪教会を作ろうという計画から始まり、初代建築家のフランシスコ・ビリャールの設計の元に構想されました。
しかしビリャールは教会の建設から外れることになってしまい、その後を引き継ぎ2代目建築家に任命されたのがアントニ・ガウディでした。現在ではサグラダ・ファミリアの設計者として、また近代建築における立役者として多くの世界遺産建築を残していますが、当時は無名でした。
ガウディは熱心なカトリック教徒だったこともあり、カトリック教会であるサクラダ・ファミリアの建設にのみ時間を使いました。ただ不運なことに親族や友人の相次ぐ死によってガウディの仕事に対する意欲が下がり、バルセロナ市も財政危機に陥ってしまいます。さらにガウディに対して経済的な援助をしていたエウゼビ・グエイと呼ばれる富豪の方も亡くなってしまい、サクラダ・ファミリアの建設が進まないまま1926年、交通事故でガウディ自身も命を落とします。
唯一ガウディに見届けられた東側の生誕のファサード
こうした悲劇の連続でサクラダ・ファミリアはその多くは謎に包まれてしまいます。
彼の建築スタイルは図面を正確に書くようなものではなく独自の実験を繰り返し感覚的に行うもので詳細な図面はありませんでした。そのためガウディの死後、建築を引き継ぐことは非常に困難で、さらにスペイン内戦でガウディの残した僅かな資料すらも消失したため、サクラダ・ファミリア建設は絶望的だったと言います。
それでも弟子や職人達による情報やデッサンなどを元に、その時代における一流の建築家が構造を捉え直し少しずつガウディの設計構想を推測するといった形で建設が続けられたのです。
ガウディが自らの手で建設できた地下にある礼拝堂と正面にある生誕のファザードは世界遺産に登録されていますが、死後に建設された箇所に関しては世界遺産登録されていません。つまり同じ建築の中で世界遺産の場所とそうでない場所が混在しているのです。
「生誕のファサード」、「受難のファサード」、「栄光のファザード」にはそれぞれテーマが設けられており、この生誕のファサードは、「イエスの誕生」を表現したものであるとされています。
細部には非常に複雑な彫刻が施されていますが、実はこれらの彫刻の多くは1936年に起こった内戦で損傷したものを修復したもので、その修復作業には日本の彫刻家である外尾悦郎が携わりました。外尾悦郎は、2013年からは主任彫刻家としてサグラダ・ファミリアに組み込まれる装飾を監督し、建築に大きく貢献されているお方です。
ガウディ亡き後に建設された西側の受難のファサード
サクラダ・ファミリアは構造上、東西南北にそれぞれファザードと18本の塔が建設される予定です。
ほとんどが未完成のままですが、西側にある受難のファサードはガウディの死後から建設されたものです。
壁面の装飾が反対側の生誕のファサードと対象的に簡潔ですが、これはガウディの1911年に残した原画を再現したものです。石の素材の表情をそのまま使って無駄なラインを削ぎ落とした直線的な表現は、キリストの受難と死を表すための表現方法となっています。
受難のファサードは「イエス・キリストの受難の苦しみ」を表現しようとしたもので、磔刑前夜のできごと、ゴルゴダの丘への道、死と埋葬を表しています。
建設が進む北側と南側のファサード
三つのファサードの中では唯一未完成である栄光のファサードですが、完成後には最も優雅なものになる予定だそうです。
このファサードのテーマは「イエス・キリストの栄光と人類の永遠の生への道」であるとされており、今後の装飾でどのように上述したテーマのような雰囲気を演出していくのか、多くの人々から期待が寄せられています。
又、栄光のファサードには扉が7つあって、この扉には世界各国の言語で神への言葉が書かれています。
彫刻家より日本語の手書きは漫画家の井上雄彦が抜擢され、「我らを悪より救い給え」と一番右側の扉に刻んだそうです。
18本完成する巻貝がモチーフの鐘塔
鐘塔は螺旋状になっており、楕円形のヴォイドになっています。窓から差し込む光と奥行きを感じられる構造から、どこか幻想的な雰囲気を醸し出しています。
この鐘塔は巻貝のような形をした螺旋階段を使って降りていくことになります。そして、この内部構造も光をたっぷり取り込むさすがの美しさです。
巨木がそびえ立つ森のような神秘的な聖堂内部
巨木がそびえ立つ森のように聖堂内部は、非常に神秘的な姿で思わず上を見上げてしまいます。
伝統的なゴシック様式とは異なるモデルニスモ建築を中心としているにも関わらず、カトリック教会にふさわしい優美さがあります。加えて、見る人を魅了するこのカラフルな色彩は、鮮やかでありながらもこの礼拝堂の厳かなイメージと見事にマッチしています。
一本一本丁寧に装飾された柱は芸術性と機能美を兼ね備えています。
美しいサクラダ・ファミリアのステンドグラスは、時間によって異なる方向から自然光が入るように設計されています。訪れる時間をずらすことで違った光景を楽しむことが出来るのも、この礼拝堂の魅力の一つと言えるでしょう。
特に夕方の光はまるで天国にいるかのように幻想的です。
色とりどりのステンドグラスの光が空間内で入り混じります。
ガウディは植物のモチーフを多様しますが、大きな柱が枝分かれして行く様はまるで樹木のようです。又、この柱は高くなるほど多角形の角が増えるような構造になるように設計されており、下から見た際には、本来の高さよりも高く見えるようになっています。
まるでアメーバのように広がる天井は、簡潔な佇まいでありながらも神々しい様相を帯びています。そして、柱の先から広がるような見た目がより一層鑑賞者に森にいるかのような体験を与えているのです。
サグラダ・ファミリアに隣接する付属学校
スペイン内戦によって損壊し、その後再建されたサグラダ・ファミリア教会付属学校です。建設に関わる労働者の子供たちの為に作られた学校であり、波打つ壁と屋根が非常に特徴的な、ガウディのもう一つの名作だと言えるでしょう。
1909年に建設された学校を再建したものである為、「当時の状況そのままに」という訳ではありませんが、どのような環境で子供たちが勉強していたのか体験できるような精巧な造りとなっています。
IT技術によって飛躍的に進んだ建設年数
1980年代には300年かかるとまで見込まれていた建設期間でしたが、コンピューター内でデータ上の建築を構築し、その情報を実際の建設に応用する「BIM」と呼ばれる手法や人間では作ることが難しいような複雑な部品を生成できる3Dプリンター等を用いることでその建設期間を150年以上も短縮させました。
地下博物館では、建設のための模型や上述の3Dプリンター等が設置されており、実際の作業現場を見ることも出来るため、サグラダ・ファミリアにおける人気スポットの一つとしても挙げられています。
この様な最先端の技術が導入されたことで、今ではサグラダ・ファミリアは「世界で一番人気の工事現場」とも呼ばれているそうです。
2026年、完成予定だったサクラダファミリア
こちらはガウディが描いたサグラダ・ファミリアの完成イメージです。
https://www.youtube.com/watch?v=NZ0wPi8I4rE
ガウディがこの世を去ってから100年が過ぎますが、彼の残した想いは時代を超えて受け継がれています。その想いが原動力となって建築されてきたこのサグラダ・ファミリアは、完成予定が2026年とされていましたが、コロナウイルスの影響でこの年までに作業を終えることが難しいと正式に発表されました。今後社会の動向がどうなっていくかは誰にもわかりませんが、そう遠くない未来にこの歴史的な建造物が完成されることを多くの人が今はただ願っています。
La Sagrada Família – サグラダ・ファミリア
開館時間:9:00~18:00
住所:C. de Mallorca, 401, 08013 Barcelona, Spain
URL : https://sagradafamilia.org