建築家・納谷学による4つの箱で構成された北国の住まい「音楽室のある住宅」

個人住宅の設計を中心に、商業施設や店舗、集合住宅などこれまで200軒以上の作品を生み出している「納谷建築設計事務所」代表、建築家・納谷学。建築家としての活動の傍ら、関東学院大学や芝浦工業大学で講師としても活躍しています。

納谷建築設計事務所が手掛けた「音楽室のある住宅」は、東北の自然豊かな環境に隣する住宅地に建てられた、4つの箱からなる北国の住宅。クライアントの趣味である音楽を思う存分楽しめる豊かな暮らしを支える空間です。

緩やかな距離感で並ぶ、自然が隣り合う住宅街の住まい

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

敷地は北国の地方都市の駅前住宅地、旧国道から北に入った突当たりの位置。東京のような高密度でもない住宅地で、すぐ近くにはローカル線が通り、川が流れ、山々が連なります。南に開くと旧国道側から丸見え、残りの3方向の周囲は、隣家に囲まれています。周囲の住宅は、隣り合う住宅や小屋が敷地境界線からルーズな距離を持っています。それらを繋ぐアプローチや庭があるように、小さな単位の空間があり、また余白の空間があります。

北国の寒さから導かれた4つの箱から成るプラン

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

この土地に建つ住宅は、北国の冬の寒さゆえに開口部の小さい、比較的周囲に閉じた箱のような形状が多くみられます。そこで、「音楽室のある住宅」では周囲の小さな家並みに寄り添うことで、オーナーの希望する静かな落ち着いた生活を実現するプランが採られました。結果、住宅は4つの小さな箱から成る構成に。2つは個室、3つ目は浴室などの水周り、そして4つ目はオーナーの趣味である「音楽、演奏すること、聞くこと、歌うこと」を楽しめる音楽室に。音が反響しない様に平行な壁は避け、床と天井も同様の作法で考えられました。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

天井への音を乱反射させるように、そしてそのまま構造体として表出できるように、構造用合板による面的な形状で造ることを考え、立体トラスを合板で補強する構造体が導かれました。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

個室は柄カーペットで個性をプラス。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

3つの箱の天井の構造体として個性的な音楽室の天井と肩を並べるように、三角断面の梁や三角錐の連続梁を採用し、それぞれの箱の天井に少しだけ構造の造形的な個性を持たせました。

隙間に住宅としての機能を散りばめる

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

4つの箱に囲われたスペースを街の広場のように扱い、箱と箱の隙間を街の通りの様に見立て、そこに住宅としての機能を担わせることにしました。中央の広場はリビングやダイニング。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

音楽室と個室1の隙間は玄関。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

個室1と個室2の隙間は書斎コーナー、

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

そして個室2と水周りの隙間は少し広めにすることでキッチンを配置。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

広場や隙間は、内部であるもののインテリアとしての設えを避け、箱の外壁をそのままインテリアに持ち込んでいます。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

外部なのに、たまたま内部になったような、内部だけど荒々しい外部であり続けたいような、シームレスな空間です。

納谷建築設計事務所:音楽室のある住宅
写真:吉田誠

そうすることで4つの箱の独立性が高まり、間に囲まれた広場がまさしくオーナーのプライベートな広場になりました。広場の床はフロアレベルを掘下げてモルタルで仕上げ、天井の構造は箱で使った面的な表現は避けLVLの梁による線的な表現を選択することで、空間にメリハリを持たせています。

4つの箱とその隙間に流れる「音楽室のある住宅」で豊かな暮らしの時間

4つの箱と箱に囲われ間に挟まれた流動的な空間が生み出すゆったりとした暮らしの時間が心地の良い「音楽室のある住宅」。近隣の住宅や小屋の隙間と同様に、箱の隙間から入る光や風を日常に取り入れ、趣味を楽しみながらも静かで落ち着いた生活を支えます。