「人の住む環境を幸せなものにしたい」建築家・神谷修平が語るものづくりへの想いや空間での光の扱い方について

前編:「日本のものづくりが身近にある環境だった」建築家・神谷修平が語る大切なデザインや幼少期の原風景について

デンマーク、日本で実績を積んだ建築家・神谷修平。彼が率いる建築設計事務所「株式会社カミヤアーキテクツ」では、「世界に感動をゆり起こすクリエイティブな建築設計組織」をビジョンに、空間設計に限らずさまざまなクリエイティブでクライアントの課題解決を目指したソリューションを提供しています。今回は国内外で活躍する神谷さんに、大切にされているデザインやプロジェクトを通して伝えたいことについて伺いました。

スタッフの力を組み合わせてチームをより良いものに

隈研吾さん、ビャルケ・インゲルスさんお二人のもとで修行された神谷さんですが、そこでの経験はどのように生かされていますか。

「2人とも大きな組織にまで自身の事務所を育て上げられているので、いかにそれぞれのスタッフとうまく共生していくかということを意識されていました。自分の力だけでなく、そういった周りの力を大事にしながら働くとことの大切さを学びました。」

建築に限らず多角的に人の暮らす環境を幸せなものにする

カミヤアーキテクツでは建築設計のみならずプロダクトデザイン、クリエイティブディレクション、インテリアまで幅広く手掛けられていますが、そこにはどういった想いがあるのでしょうか。

「我々はものづくりの中で境界を定めず幅広くやっています。その意図には建築に限らず、人の住む環境を幸せに感じられるように作る、と言う信念があります。そういった観点で、建築以外の仕事も受けています。」

博多の伝統文化を語り継ぐ神聖な空間に

神谷さんが手掛けた福岡市中央区桜坂にある「傀藝堂」は、伝統ある博多人形師のためのギャラリー兼住宅です。博多人形師のギャラリーは珍しく、貴重な場所となっています。オーナーからはどういった依頼があったのでしょうか。

「クライアントからは、100年続いてきた家業である中村人形の次の100年を作れる場所を作って欲しいとのオーダーを頂きました。100年続く人形と人が出会う場、そして人形は祈りを捧げるオブジェクトでもあるので、神聖さを感じられるようなギャラリーにしたいと仰っていました。」

モダンな空間の中で、これまでの歴史と現代とが出会うような場ですね。こちらを手掛けるにあたって重視した点はどういったところでしょうか。

「お客様がいらっしゃった際に、出逢いのように人形との縁を感じてもらいたいということと、もう一つは自然光でトップライトが差すなかで、メインの人形が見えるようにしている点です。人口の照明を設けずに、朝から日没まで自然に移りゆく人形の表情が楽しめるように設計しました。また、日本で唯一の人形に特化したギャラリーとして、世界中から人々が訪れるようなインパクトのある外観、内観を心掛けました。」

ものづくりの現場を身近にすることでより強い思い入れを持たせる

今月オープンする福岡県筑紫野市にある伝統博多織の会社、西村織物株式会社のギャラリーも神谷さんが手掛けられています。こちらはどういったギャラリーでしょうか。

「こちらは1861年に開業した博多織の織元の大きな工場があり、そこに隣接する形で建てられた、製作の様子や商品を見られるショールームのような空間です。 様々なプロフェッショナルが博多織の製作プロセスに関わっていることが一目でわかるように、ガラス張りの窓を工場側に設けています。そうした製作の現場を見ると、お店で商品を見るのと違って、製作の苦労を感じられるのではないかと考えています。

また、クライアントは博多織に最先端の技術を掛け合わせて、家具づくりへの応用など色々なことに挑戦されています。そうした目下発生している新たなクリエイションも感じられる場所になっています。」

ご実家が呉服屋さんと言うことですが、こちらの西村織物さんとも縁があるようですね。

「そうなんです。実は西村織物さんと実家に取引があると言うことがわかりまして。より強い想いを持って設計しました。」

光の特性を組み合わせて作品を引き立てる

光の使い方をデンマークで学んだと仰っていましたが、「傀藝堂」も光が美しい空間ですね。作品が引き立つような設計になっていると感じたのですが、意識されたポイントでしょうか?

「そうですね。光には対象を引き立てる光、光自体が目立つ光、そして、間接照明と言われるひっそりとした光の3種類があります。それらをうまく混ぜながらバランスをとることを北欧で学んだので、その視点を傀藝堂や博多織ギャラリーに生かしています。」

日々感じたことをクリエイティブを通じて社会に還元する

デンマーク、そして日本で学んだ建築手法を組み合わせながら、 伝統と地域の価値を引き出す空間づくりを手掛ける神谷さん。そんな神谷さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「ライフイズ“クリエイション”。日常の業務を通じて、使命感を持ってものを作ることで、私が日々感じたことをみなさんの生活に戻していくといった循環を感じています。私にとってはものづくりこそが生きる意味なのかなと思っています。」

クリエイティビティを通じて暮らしの空間をより幸せなものに

建築に限らずさまざまなものづくりを通して人の暮らす環境を幸せなものにしたいと語る神谷さん。クライアント、そして訪れるゲストの想いを丁寧に汲み取り、幅広い視点で設計に取り込むことで、人々の心に響く空間の数々を生み出しているようです。