「アートビオトープ・水庭」など神秘的な作品を生み出す建築家・石上純也が大切にする感覚とは!?

自然を生かした建築デザインが特徴的な、建築家・石上純也さん。特に那須に誕生した「アートビオトープ『水庭』」は、その神秘的なデザインや創造性が高く評価され、数々の賞を受賞している。そんな石上さんは普段生活をする上で何を大切にしているのか、そして話題の作品が生まれた経緯などを伺った。

Junya Ishigami -石上純也-

ⒸCHIKASHI SUZUKI

1974年神奈川県生まれ。2000年東京藝術大学大学院建築科修士課程終了。2000~2004年瀬島和代建築設計事務所勤務。2004年石上純也建築設計事務所設立。

主な作品に「テーブル」(2005年キリンアートプロジェクト2005キリン賞受賞)、「四角いふうせん」(2007年)、神奈川工科大学KAIT工房(2008年 2009年日本建築学会賞受賞)、2008年第11回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館にて個展、2010年第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展企画展示部門で金獅子賞を受賞。

漠然と”モノをつくりたい”思いがあった

さまざまな賞を受賞している石上さんの経歴は、東京芸術大学・建築学科から始まっている。大学で建築を学んでいくうちにだんだんと勝手がわかってきたそうで、「最初はよくわからなったが、勉強するうちに建築を続けたい」という思いに変わっていったという。

そんな石上さんは、小さい頃から漠然とモノを作りたいという夢を持っていたとのこと。特定の目的や夢が強くあったわけではないが、建築を勉強していくうちに挑戦したいと考えるようになったそうだ。

何もない自然が印象的だった

建築の仕事をしている石上さんは海外に行くことが多く、何年か前にアイスランドに行く機会があったそう。そこで見た自然の姿が、印象的だったと語る。

「アイスランドには何もない。水と氷と岩だけがあるような、生き物すらいないような世界。今まで”自然”というと生き物や生命感あふれるイメージがあったが、生き物すらいないような壮大な景色を見たときに、将来もしかしたら月とか未来に行けるようになったら、そこにもすごい景色が広がっているんじゃないかと思いが巡った。僕たちが生物が生まれる前から地球が存在しているという事実を、強く実感し、壮大な気分になった」という。

そんな石上さんは日々の暮らしの中で、「どういう景色が見えるか、どういう環境に囲まれているか」という視点を大切にしているそう。自分の周りを囲んでいるものが何か、ということに注目していると話してくれた。

田んぼのように循環する「アートビオトープ『水庭』」

Ⓒ junya.ishigami+associates

2018年に誕生した「アートビオトープ『水庭』」には、樹木と池、苔の3つの要素しかない。人工的に作られたはずなのに、人工的に見えず自然に感じることも…その着想はどこから生まれたのだろうか。

「あれはホテルの計画用地で、もともと森だった場所。ホテルを作るために樹木を伐採しなければならず、まずはその森を横の敷地に移していくことで、新しい庭を作っていくところから始まった」

画像提供:株式会社nikissimo

50年ほど前、その敷地は田んぼだったことから、隣の川から水を引く設備も残っていたという。そこで、田んぼのような水の景色と、森のような樹木の景色を重ね合わせて、全体の景色を作っていくことに。普通の庭は樹木や石、苔草などを遠くの敷地から持ってくることも多いが、「アートビオトープ『水庭』」ではその場所にあったものだけを使用している。「木とか石とか水とか、全てそこにあったものを置き換えて使っているので、自然のようにも見えるし、人の手が入ったようにも見えるのでは」と石上さんは話す。

Ⓒ junya.ishigami+associates

318本の樹木と160個の池から成り立っているこの水庭は、樹木が水の中にスっと立っているような神秘的なデザインが特徴的。しかし池のように見えるそれは、実は地下で全てつながっているんだとか。

「川から水を引いてきて、敷地に取り込んでまた川に戻している。雪が降っている今の時期は、地面には雪が積もるものの、池だけには積もらない状態に。白い雪の地面と、黒い穴が開いたような水面が入り混じって、それはそれで全然違うような景色になる」

そんな「アートビオトープ『水庭』」は、ホテル宿泊者は無料で見学が可能。事前予約制で見学のみも可能なので、気になる方はぜひチェックしてみては。

後編:建築家・石上純也が語る人間と自然のコミュニケーションのあり方の提案としての建築のあり方。