「日本のものづくりが身近にある環境だった」建築家・神谷修平が語る大切なデザインや幼少期の原風景について

デンマーク、日本で実績を積んだ建築家・神谷修平。彼が率いる建築設計事務所「株式会社カミヤアーキテクツ」では、「世界に感動をゆり起こすクリエイティブな建築設計組織」をビジョンに、空間設計に限らずさまざまなクリエイティブでクライアントの課題解決を目指したソリューションを提供しています。今回は国内外で活躍する神谷さんに、大切にされているデザインやご実家である呉服店での思い出について伺いました。

建築家・神谷修平

1982年愛知県生まれ。2005年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2007年同大学理工学術院建築学専攻修了。2007~2016年隈研吾建築都市設計事務所勤務。2016~2017年BJARKEINGELS GROUP勤務。2017年株式会社カミヤアーキテクツ設立。代表作に「九段ハウス」(2018)、「葉山 加地邸」(2020)、「OHAGI3 FLAGSHIP CAFE」(2022)、「HARIO Satellites」(2023)など。

参考:「巨匠・ライトの愛弟子、遠藤新の名作住宅「葉山 加地邸」を建築家・神谷修平が現代に再生。

自然の造形を大切にしている

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「世の中のデザイナーがデザインしてきた人工的なものも大切ですが、水や光、木や石といった自然が造ったものが感性に触れることも多く、大切にしています。あとは、タイムレスなデザインも大切ですね。時代を超えて残るようなデザインは意識的に見たり集めたりしています。」

散歩途中のカフェでリラックス

建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「自宅周りのカフェが気に入っています。散歩したりジョギングしたりしながらそこでリラックスする時間を大切にしています。」

絵を描くことと勉強の両方を生かす仕事が建築だった

建築家を目指すようになったきっかけはどういったものでしょうか。

「小さい頃から絵を描いたり勉強するのが好きだったので、両方活かせる仕事を中学生時代から探し始めました。そのうちにテレビ番組を通じて建築の仕事に出会って、すごくいいな、と感じてこの道を志しました。」

呉服店の環境を通じてクラフトマンシップが身近に

神谷さんのご実家は呉服屋さんとのことですが、呉服店で見て学んだことが建築で生かされていることはありますか。

「小さい頃から呉服屋の上に自宅があって、そこで育ちました。僕で4代目になります。ずっと着物や帯に囲まれた環境でしたね。クラフトマンシップというか、日本の技術の良さは身体で感じてきたのかもしれません。現在も建築を通して伝統産業やものづくりの文化を大切にしたいと考えています。」

地域のものづくりの文化をリスペクトする

Garden Terrace Nagasaki © Daichi Ano
Garden Terrace Nagasaki © Daichi Ano

神谷さんは早稲田大学大学院修了後、建築家・隈研吾さんの事務所に入所されました。そちらではどういったことを学ばれましたか。

「事務所には約10年弱在籍させて頂き、しっかり隈さんの横で学ばせて頂きました。日本の地域ごとに地元の人々と一緒にものづくりをしていくように、日本のクラフトマンシップを大切にしている方だったので、特にそうした姿勢が身につきました。」

隈さんといえば、作品に木材を多用されている印象があります。

「僕も木材は最初に学びました。土地によって硬さや柔らかさ、表情が全然違うんです。そういった素材をうまくクライアントと話しながらうまく料理していく。そういったことが早くて上手な先生だったので、そのスタイルが身に染みています。」

 宇宙計画に渡るまで幅広い経験を積めた北欧での日々

神谷さんは北欧、デンマークでヨーロッパ最高峰の建築家の1人でトヨタの自動車の実験都市、ウーブンシティの都市設計を手掛けているビャルケ・インゲルスさんのもとでさまざまなプロジェクトに携わりました。そこではどんな経験をされたのでしょうか。

「ビャルケは隈さんより2回りくらい下の世代なので、そういった意味でも感覚が異なる印象でした。世界中から人材が集まっている事務所でしたね。メンバーたちはとても優秀で、サッカーで言うとレアルマドリードのようなイメージです(笑)。そういった勢いのある環境の中で刺激を受けながら日々業務にあたっていました。特にユニークだった案件は、宇宙のプロジェクトですね。」

建築家なのに宇宙のプロジェクトまで手掛けられていたのですか?

「ヨーロッパでは地球が住めなくなった時にどこに住むかを検討する思想があって、その中で僕たちは2300年代の火星にどういった住まい方ができるかを考える研究開発をしていました。」

光の多様な扱い方を学んだ

デンマークでの滞在から得たものはどういったものでしょうか?

「一番は光の使い方ですね。デンマークはとても冬の日照時間が短くて暗いんです。そういった中で人々が心を安らげるものとして、光を大切にしています。それもあって、名作と呼ばれる照明器具が多く生み出されていたり、今でも新しいプロダクトの開発が盛んなんです。そういった光の考え方に感銘を受けました。また、照明器具屋さんにキャンドルホルダーも置いてあるんです。デンマークには蝋燭も照明器具であると言う感覚があって、人工の光と合わせて蝋燭をすごくうまく使っています。夜道で色々な家から漏れる光を見ながら感銘を受けていました。」

ものづくりへのリスペクトを大切に、空間設計に取り込む

ご実家である呉服店での暮らし、そして建築家・隈研吾さんの元でのプロジェクトを通して、日本のクラフトマンシップに触れることが多かったと語る神谷さん。ものづくりの現場を身近にすることで身についた独自の視点によって、国内外の注目を集める伝統と革新性を両立させた作品が生み出されているようです。

後編:「人の住む環境を幸せなものにしたい」建築家・神谷修平が語るものづくりへの想いや空間での光の扱い方について