「建築を超えて環境をつくる」自然と共存した住宅“鶴岡邸”を手掛けた建築家・武田清明さん
住宅やインテリア、様々な建築に携わり、圧倒的な植物の量と種類が人々を魅了している新しい住環境の形「鶴岡邸」を手がけた建築家の武田清明さん。
今回はそんな武田さんにご自身のことや、自然と共存する住宅「鶴岡邸」のことなど様々な角度からお話を伺いました。
「窓を開けて暮らすこと」を大切に
はじめに、武田さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「生活の中で意識していることは、できるだけ窓を開けて暮らすようにしています。事務所に着くと、コーヒーを淹れて音楽をつけるのですが、風を感じながらコーヒーを飲むのがすごく好きなんです。スピーカーで流れる音楽と外の鳥の声や虫の声、雨の音など外の音と音楽を合わせて聴くのがすごく好きですね。」
その時のモードに合わせて、クラッシックからヒップホップまで幅広いジャンルを聴いているそうです。
好きな場所や空間
続いて、武田さんのお好きな場所や空間はどこでしょうか?
「事務所の目の前、東京都練馬区の石神井公園がとても好きな場所です。東京らしからぬ大きな池があって、天然記念物などもたくさんいて、すごく生き物を感じられる場所なんです。目の前に事務所がある立地なので、毎日堪能しています。」
“環境”を作ることを目指した「鶴岡邸」
武田さんが手掛けた、植物と共存する住宅「鶴岡邸」。かまぼこ型にアーチを描くヴォールト屋根、植栽が印象的ですが、設計を考える際に1番大切にされたことは何ですか?
「この建築はちょっと独特で…建築家の仕事って建築を作る・空間を作るお仕事なんですけど、ここでは建築を作ることを超えて“環境”を作るということを目指した住宅なんですよね。建築というのは人の居場所なんですが、鶴岡邸は、“環境”なので多生物、植物や鳥、虫までも受け入れる器でありたいと思って考えた住宅です。」
鶴岡邸は、“土を背負って、水の循環の一部になっている建物”ということですが、どういうことなのでしょうか?
「ヴォールト状にアールが連続していくようなコンクリートスラブがあって、どうしてその形になっているのかというと、深い土を背負うような床になっているんです。そうすると色々な植物や、高木、中木、そういったものまで育つような床になるので、鳥がやってきたり、虫がやってきたり、色々な生物の居場所を作れるような形をとっています。その土がヴォールト状で山から谷に水が流れて、雨が降ると屋根に水が溜まり、自然に土の中の水が流れて、もう一度大地に戻ってくるような特別な住宅です。」
鶴岡邸にオフィス兼住居を構える武田さん
鶴岡邸の一階にオフィス兼住居を構えている武田さん。ご自身が設計した建築を使ってみていかがですか?
「本当にラッキーなことです(笑)建築家って、自分が設計した住宅に住むということはなかなか叶わないんですよ。しかしありがたいことに、住所兼オフィスとして使わせていただいて、土に包まれている住環境は本当に心地がよいです。ヴォールト状に覆われているような空間なので、雨が降ると土に水分が含み、まるで洞窟の中のような環境になるんです。夏は涼しくて冬は暖かい、そういう特別な住環境になっていてとても快適です。」
植物や自然を生活に取り入れる効能
武田さんが手がける建築は、植物や庭が建物と共存しているようなものが多く見られますが、植物や自然を生活に取り入れる効能についてはどのように考えているのでしょうか?
「東京などの都市は、自然を暮らしに取り入れる効果が大きいと思っています。わざわざ高原や別荘地など遠いところに行かなくても、自分の住宅地に自然を溢れさせれば、自然に触れて暮らすというのは都市でもできる気がしていて…。それをこの鶴岡邸でチャレンジしたわけですけども、具体的な効果で言うと、食べられる植物、日除けになる植物、目隠しになる植物など植物の機能を1つ1つ見ていくと、実は暮らしに役立つ植物がたくさんあるんです。例えば、キッチンの前にハーブを植えたり、実がなるものを植えると、窓を開けてすぐ取れたりするんです。プライバシーが大切な寝室には、冬でも葉っぱが生い茂っている常緑の植物を植えて目隠しにして、カーテン無くしたりだとか…。植物は、建築の建材のように機能してくれて絶大の効果があると思っています。」
自然を愛している武田さんが手掛けるものは、人間も植物も、虫や鳥も本来は地球の一部であり、全ては仲間であることを今一度思い出させてくれるような建築です。自然を暮らしに取り入れる効果が大きいと話す武田さんが、今後もどのようなものを手掛けるのか注目です!