「立体になった時の調和が大切」デザインエンジニア・田川欣哉の好きなデザインやものづくりへのこだわり

プロダクトデザインからブランディング、企業のビジネスデザインまで、多種多様なものづくりに取り組むデザイン・イノベーション・ファーム「Takram」。今回は、代表取締役でありデザインエンジニアの田川欣哉さんに、好きなデザインやものづくりへのこだわりについて伺いました。

デザインエンジニア・田川欣哉

Takram代表。ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。主なプロジェクトに、トヨタ自動車「NS4」のUI設計、日本政府のビッグデータビジュアライゼーションシステム「RESAS -地域経済分析システム-」のプロトタイピング、NHK Eテレ「ミミクリーズ」のアートディレクションなど。

道具にこだわっている

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「仕事柄いろんな道具が好きです。仕事場で使う机や椅子、ステーショナリーなどはそれぞれ慎重に選んでいます。仕事中に常に触れているものなので、使い勝手が良かったり、質感が洗練されてたり、見た目の好みも大切なポイントで、一つひとつゆっくり選びながらコーディネートして揃えています。」

外と中の「中間」のようなホテルのラウンジが好き

デザインエンジニアとして、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「ホテルのラウンジが好きです。外と中の中間の位置にあって、広んな人が行き交っている環境が居心地よく感じられます。一つひとつのホテルにそれぞれの特徴が見られるのも面白いと思います。」

デザインとエンジニアリングを一気通貫で行う職業

職業として、デザイナーやエンジニアはよく耳にしますが、「デザインエンジニア」とはどういった職業なのでしょうか。

「教育の場面で言うと、エンジニアというのは理系の勉強した人がやる仕事で、デザイナーは美術やアートを学んできた人がやる仕事です。ですので、基本的にその2つは人種が異なることが多く、2つのグループとして分業していることがほとんどです。

デザインエンジニアは簡単に言うと、その2つを一人でやる、ということです。僕はもともと工学部に所属して理系の勉強をしていたのですが、その後にデザインの勉強をして、エンジニアリング的なことも、デザイン的なことも一人でやっています。」

「いいもの」は立体になった時の調和が大切

あるインタビューで、大学生の時にある電気メーカーでインターンをされた際に、エンジニアリングとデザインが分業されていることにショックを受けたと答えていられますが、どういった点が印象的だったのでしょうか。

「当時の僕は『いいもの』とは、中の機能も外の美しさも一人でまとめて考えていると思っていたんです。それが企業に行ってみると、外は外、中は中のことしか考えられていなくて、立体になった時の調和が考えられていなかったんです。こんな分業にされていたんじゃいいものはできないだろう、と感じたんです。」

その後ロンドンに行かれましたが、そこではどのようなことを学ばれましたか。

「僕が通っていた大学には、工学系の大学と美術系の大学が、一人ずつ教授を出し合って、僕のような真ん中にいるような生徒を育てるユニークなコースがありました。

一つの学年に世界中から集まった生徒が15人ほどいたのですが、それぞれエンジニアリングや回路設計に携わっていた人が改めてデザインの勉強をしていて、面白い環境でした。世界で見ても希少種の集まりですね(笑)。」

分野を越境したメンバーといいものづくりを目指したい

Jリーグ30周年記念のアニバーサリーロゴとメインビジュアルのデザインを担当

田川さんがTakramを立ち上げた2006年には、グラフィックやweb、プロダクトなどジャンルを横断するデザインを手掛ける個人やグループは少なかったと思いますが、Takramを設立したきっかけは何でしょうか。

「僕はもともとデザインとエンジニアリングを分解しない方が、いいものを作れると思っています。そのような視点で活動を行っている組織が他になく『自分で作るしかないのかな』と言うことでスタートしました。

人数は少ないかもしれませんが、自分と同じような考えを持っている人も集まってきて、現在は約60人ほど仲間がいます。Takramには僕みたいにデザインとエンジニアリングの間とか、ビジネスとデザインの間とか、分野を越境して活躍するメンバーたちが集まって仕事をしています。」

デザインとエンジニアリングを分けないことが「いいもの」づくりに繋がる

立体になった時の調和が「いいもの」には欠かせないと話す田川さん。それぞれの技術・視点によって生み出されるプロダクトは、これまでのものづくりでは生まれなかった調和による心地の良さ・使い勝手の良さが魅力になっているのかもしれません。

後編:「エンジニアリングで作る価値を人間的なものにする」デザインエンジニア・田川欣哉の影響を受けた人物やデザインとエンジニアリングのバランスについて