「疑問を持つことで好奇心を掻き立てる」MOMENT代表・渡部智宏のデザインへの視点
ISSEI MIYAKEの国内外の店舗デザインを筆頭に、空間からグラフィックまで垣根のないシームレスなコミュニケーションを提案するデザイン事務所MOMENT。今回は平綿久晃さんと共同代表を務め、デザイナーである渡部智宏さんに、日常で大切にされているデザインやMOMENTで掲げるコンセプトについて伺いました。
デザイナー・渡部智宏
多摩美術大学建築科卒業後、グラフィック、サイン、エキシビションなど建築まで幅広いジャンルを手掛けるデザイン事務所に就職。2005年に大学の同級生であった平綿久晃さんとデザイン事務所MOMENTを設立。MOMENTはグラフィックから店舗といった平面から立体まで継ぎ目のないデザインを提案できるのが特徴です。代表作の一つでもあるISSEI MIYAKEの国内外の店舗デザインをはじめ、様々なクライアントのブランディングを手掛けています。
暮らしの中で大切にしているデザイン
まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。
「具体的なデザインというより、デザインに対するアプローチのようなものなのですが、『日常生活の中でいろんなものに疑問を持つこと』を意識しています。例えば、出社するまでに目に入る『標識の大きさってどうやって決まっているのだろう?』といった疑問を持つことで好奇心を掻き立てる。それが一種のデザインのトレーニングになるかと思います。
あとは、僕らのデザインでは“過不足がない状態“であったり、”適正なバランスをとる”ということを大事にしています。」
確かに、日常で触れるものに改めて目を凝らすことはあまりないですよね。そうした小さなポイントを気にかけることで、見えてくるものが増えてきそうです。
好きな場所、空間
MOMENTでは様々な空間デザインも手掛けられていますが、渡部さんのお好きな空間はどういったものなのでしょうか。
「先ほどの疑問と好奇心の話ではないのですが、僕は現代アートが好きなので、現代アートのギャラリーに行くことが多いです。アーティストは突飛なことや理解不能なことを考えていたりと、『何故だろう?』の宝庫なので、そこから不思議な気づきを得たり、問題解決の答えを見出せたりと刺激が得られるので、ギャラリー、美術館にはよく訪れます。」
“作らずに作る”とは
作品集を拝見すると、クライアントの希望を遥かに上回るような素敵なデザインの作品が多く見られます。MOMENTでは“作らずに作る”をコンセプトにしているとありましたが、これはどういった意味なのでしょうか。
「モノ自体を作る、立ち上げるという前に、デザインは始まっていると考えています。クライアントと対話し、話していることや相手の個性を掘り下げるだけで、デザインの8〜90%は出来上がっているのではないかなと思います。こうして形に落とす前に大体のデザインというのは出来上がっているんです。単なるスタイリングではなく、クライアントの個性や良いところを引き出してありのままに表現してあげれば、各ブランドの個性的な店舗やデザインが生まれてくると思います。」
ISSEI MIYAKEの店舗は近未来的な印象ですが、個性的なアイテムがより魅力的に見えるようなデザインになっているのが感じられます。空間、商品のそれぞれがお互いを高めているような空間ですね。
「そうですね、ISSEI MIYAKEの服はそれだけで様になるほど美しいプロダクトなので、それを際立たせるというか、相乗効果が生まれるものにしたいと考えています。派手な色や造形を用いるというより、アイテムを綺麗に見せるための”道具”として空間があるようなイメージでデザインしています。」
日々の疑問や会話から、デザインのヒントを得る
日常的に好奇心を絶やさず、『何故?』を持って対峙することでデザインのアイディアを見出すという渡部さん。そんな渡部さんがMOMENTを立ち上げた経緯や、デザインへのこだわりについては「『もっと包括的なデザインをしたい』MOMENT代表・渡部智宏が語る事務所設立に込めた想いとデザインのこだわり」からどうぞ。