スウェーデンの死生観を体現。アスプルンドが生涯を懸けて築いた「スクーグスチルコゴーデン(森の墓地)」
スウェーデンの首都ストックホルム郊外にある小さな街、グンナール・アスプルンド。ここにはスウェーデンで最大の墓地がある。「森の墓地・スクーグスチルコゴーデン」と名付けられたこの墓地は、北欧モダンの父」グンナール・アスプルンドが生涯をかけて築いたもの。まさに「森に還る」というスウェーデンに根付く死生感を見事に表現した傑作を早速見ていこう。
「森の墓地・スクーグスチルコゴーデン」
「スクーグスチルコゴーデン」は、スウェーデンの首都ストックホルムにある墓地だ。「森の墓地」とも言われており、建築とランドスケープで構成された広大な針葉樹の森には、10万基以上の墓石が建てられている。
元々は砂利採石場跡地だった土地を、近代墓地の設計を施したことで「森林」へと変化した様は、壮大で美しく、1994年に世界遺産にも認定されている。
手掛けたのは、北欧建築の巨匠グンナール・アスプルンド
1915年に新墓地建設のために行われた国際コンペで見事選ばれたのは、スウェーデンの巨匠建築家グンナール・アスプルンドだ。フィンランドのアルヴァ・アアルトやデンマークのアルネ・ヤコブセンなど「北欧モダニズム」の建築家に多大な影響を与え、通称「北欧モダンの父」とも呼ばれている。
25年の歳月を経て、スクーグスチルコゴーデンが完成したのは1940年。完成から間も無くしてアスプルンドは死去しており、「スクーグスチルコゴーデン」は彼が生涯をかけて築いた作品となった。
グンナール・アスプルンドが創り上げた自然と建築が織りなす緑のランドスケープ。彼自身もここで安らかに眠っている。
「生・死・生」のシンボルとしての十字架
「生命循環のシンボル」として造られたのは、花崗岩の巨大な十字架。少し太さが異なる線でかれており、パースが効いても直線に見えるよう造られている。
アスプルンドの十字架と「冥想の丘」の間に小さな泉がある。まるで両者を鏡のように映し出し、ひんやりとした十字架の心地と、冥想の丘からの神秘的な景色が融け合う。その様は、まさに「生」から「死」、「死」から「生」を意味している。
新しさと神秘を同時に感じる建築「信仰の礼拝堂」と「森の火葬場」
十字架の脇には、「信仰の礼拝堂」と「森の火葬場」がある。これらは、モダニズムが生まれる頃の建築で、古典的な建築の要素と合理的なモダニズムが通じた建築様式が美しい。
水平垂直を使いながらも森との調和を取るような外装からは、モダニズム的な機能性や合理性だけに留まらない「新しさ」と同時に、「神聖さ」や「鎮魂のための静寂」を感じさせてくれる。
スウェーデンの死生観を体現した「復活の礼拝堂」
スクーグスチルコゴーデンの敷地中央には「七井戸の小道」と言う888メートルと長い道がある。ここは「その道を歩くと死者は森へ還る」というスウェーデン独自の死生観を体現できる場所だ。
『森は「故郷」であり、安らぎを得られる場所』という価値観を、美しくも暖かく表現しており、まさに圧巻。墓地でありながら、その中心には「森」が母のように墓石を包み込んでいる。
七井戸の小道の先には「復活の礼拝堂」が我々を迎える。これは1925年に完成した、シーグルド・レーヴェレンツが設計した建築だ。
古代の神殿を思わせるような神秘的な建築が印象的で、古典風神殿建築様式がしっかりと取り入れられている。
木立にひそむ「森の礼拝堂」
一方で、木立にひそむ「森の礼拝堂」はグンナール・アスプルンドが手掛けた建築である。
ひっそりと姿を現したかのようなその容姿は、アスプルンドが手掛けたランドスケープに沿った価値観と雰囲気が尊重されているように思える。
グンナール・アスプルンドによる「スクーグスチルコゴーデン」。ここは墓地でありながらも、スウェーデンの「死者は森へ還る」という死生観を体現できる美しい「森」が我々を包み込む。世界で例を見ない鎮魂の場所であった。
Skogskyrkogården – スクーグスチルコゴーデン
開館時間:11:00~16:00
住所:Sockenvägen, Stockholm, Sweden