「2階リビング&テラスがある家」建築家が手がけた視線を断つ白い壁と、傷が味になる土間の住まい
道路に面して立ち上がるのは、窓のほとんどない一枚の白い壁です。右端に木の縦ラインが深く切り込んでいるだけで、中の様子はうかがえません。「2階リビング&テラスがある家」は、外に向けた表情を極端に削ぎ落とし、その内側に木の気配と暮らしの余白を溜め込んだ住宅です。友人を呼べる家にしたい、という夫婦の願いから出発した計画は、まず「どう閉じるか」という設計から始まっています。
通りに対して、一枚の壁として立つ

敷地は約239㎡。道路側に間口を取りながら奥へ細長く伸びる不整形な土地で、計画では建物を東寄りに寄せ、西側に4台分の駐車スペースをまとめて確保しています。生活の中心部を道路からできるだけ遠ざけ、車の出入りと人の動線が交差しない配置です。

外観は白い塗り壁の純粋な箱。屋根は10分の0.5という極端に寝た片流れで、正面からはフラットな立面としてしか認識されません。最高高さは約6.9mに抑えられ、空地や低層の家が点在する周囲の風景のなかで、大きさを誇示しない佇まいになっています。

この白い面に入る唯一の破調が、右端の縦スリットです。レッドシダーの板を縦に張り込んだ細長い開口が、軒高から地面近くまで一気に貫き、箱の輪郭に鋭い切れ込みを入れています。昼は影として沈み、夜は内部の照明を受けた暖色の光として浮かび上がる。同じ一本の線が、時間帯でまったく違う役割を担います。

アプローチはモルタル仕上げの門柱から石板の飛び石が斜めに伸び、刷毛引きの階段を2段上がってポーチへ届く構成。砕石と割栗石を敷いた植栽帯にはオリーブやアガベ、ユッカといった乾いた印象の樹種が選ばれ、白い壁を背景にシルエットが際立ちます。
正面に対して垂直に開く、という玄関の答え

縦スリットの奥が玄関ポーチです。特徴的なのは、扉が建物正面を向いていないこと。玄関は正面の壁に対して垂直に振られ、道路からは扉そのものが見えない位置に置かれています。ドアを開けた瞬間に室内が通りへ露出しない——ごく単純な向きの操作ですが、朝の出入りや来客のたびに繰り返される動作だからこそ、この配慮は日常の質に直結します。

ポーチは壁と軒天の両面をレッドシダーで張り込み、人が立つ手前の空間を木で包み込んでいます。白い塗り壁の硬質さと木の温度差が、わずか数歩で切り替わる。外から内への移行が、距離ではなく素材の変化として設計されているのです。
ラフに仕上げた壁が受け止める、土間という余白

玄関を入ると、正面に大容量のシューズクロークが広がります。可動棚を三面に回し、家族の靴に加えて季節の道具までまとめて収まる容量です。
その奥に続く土間収納は、壁をラフな仕上げのまま見せた潔い空間になっています。仕上げ材を重ねない判断はコストを抑える現実的な選択でもあり、同時にこの場所の性格を正直に言い当てています。土間はアウトドア用品を置く場所であり、汚れも傷も避けられない。ならば最初から、傷が味になる素材で受け止めればいい。そういう割り切りが、玄関脇にひとつの余白を生んでいます。

キャンプ道具や自転車、濡れたものを、室内に持ち込まずそのまま置ける場所があること。人を招く家にとって、この「持ち込まない」ための面積は、見た目以上に効いてきます。
シューズクロークと土間収納は、玄関と一続きになりながら、それぞれ性格が分かれています。手前の白い可動棚は靴やスリッパといった日常的に出し入れするものを、奥のラフな壁の土間は使用頻度は低いが場所を取るものを受け持つ。同じ収納でも、きれいに保つ場所と汚していい場所を明確に分けておくことが、玄関が散らからない条件になります。
1階に個室を並べ、棚のあるクローゼットを添える

1階に置かれたのは、約6帖の寝室とそれぞれ6帖の洋室2室、そして中央に約7.4帖のホール。個室が水平に並ぶ、平屋のような静かなフロアです。洋室のうち一室は客間としても使える位置づけで、泊まっていく友人を迎える受け皿にもなります。

ホールに接続する約3帖のウォークインクローゼットは、ハンガーパイプだけで済ませず棚を組み合わせた構成です。吊る衣類と、畳んで置くもの、箱で管理するものが同じ空間で完結する。収納は容量ではなく分類の解像度で使いやすさが決まる、という考え方がそのまま形になっています。
天井高は2,400mm。窓の数を絞った落ち着いた光量が、休むための階としての性格をつくっています。
窓を減らすことで得られるもの

立面図を見ると、この住宅の窓は驚くほど少なく、しかも小さい。南面には正方形の小窓が二つ、北面にも同様の小窓と横長の窓が控えめに配されているだけです。開口部を絞れば、当然ながら室内は暗くなります。それでもこの選択が成り立つのは、壁面が確保されることで得られるものが大きいからです。

窓のない壁は、家具を置ける壁であり、収納を組み込める壁であり、外からの視線が入らない壁でもあります。個室が並ぶ1階では、ベッドや机の配置に困らないことが居住性に直結します。加えて、隣家との距離が近い住宅地では、大きな窓を開けても結局カーテンを閉めたままになりがちです。使えない開口部をつくらず、必要な採光量だけを小窓で確保する。この割り切りが、外観の潔い箱としての完成度にもそのまま結びついています。
2階リビングとの対比的な1階
1階にこうした静けさがあるからこそ、階段を上がった先の2階が、音と人の集まる場として際立ってくる。1階は、その対比を成立させるための土台でもあります。
後編:「2階リビング&テラスがある家」建築家の提案するL字のLDKとアウトドアリビング、人が集まるための2階の空間(9月17日 公開予定)