五感の先にある見えない世界を形に──建築家・深山知子が語る「Life is Beyond」

前編:静謐(せいひつ)な空間が心と調和する──建築家・深山知子が追求する「本質的な居心地のよさ」

富山県を拠点に「心の調和をもたらす建築」を追求し、住宅や店舗の設計を手がける建築家・深山知子。無駄なノイズを削ぎ落としたその空間には、やわらかな光と自然の陰影が美しく調和し、訪れる人の心を静かに落ち着かせます。今回は深山さんに、生まれ故郷である富山の自然がもたらした原体験や、空間の静けさを生み出すディテールの工夫、そして建築を通して見つめるこれからの豊かな暮らしについて伺いました。

富山の原風景と、自然と一体になる感覚

富山県富山市で生まれ育ち、現在も地元に事務所を構えて設計を続ける深山さん。富山ならではの自然や気候風土は、自身の住まいづくりにどのような影響を与えているのでしょうか。

「実家はかなり田舎の方だったので、子どもの頃は自然と一緒に過ごす時間が多かったです。中学生の頃、夜にカエルの大合唱を聞きながら受験勉強をしていた記憶があります(笑)。

振り返ると、いつも自然と一体になって何かをしていたんですよね。 楽しかった食事や美味しかった食事の記憶を思い返しても、そこには必ずセットで景色がありました。

人間は自然のものがベースになっているので、やはり自然と共鳴しやすいのだと思います。空間を通してまず自然との一体感を感じていただいて、そこから心が徐々に調和していくイメージを持っています」

空間のノイズを消し、静謐さを生み出すディテール

「人を魅了する建築には、必ず静謐(せいひつ)さがある」と語る深山さん。実際の住宅の中で、どのようにしてその静けさをつくり出しているのか、設計のこだわりを伺いました。

「静謐さをつくるためには、部材がもたらす情報量をかなり減らすディテールの工夫をしています。例えば巾木の納まりや、窓まわりの枠など、建築には部材がたくさんありますよね。

脳の情報処理の量には限界がありますので、そうしたノイズ的なものを消して、本当に見ていただきたい外の景色や光の振る舞い方をしっかり感じ取ってもらいたい。

心地よいと思えるものだけが自然と目に入る状態をつくることを大切にしています」

顕在化された要望と、人間共通の心地よさ

実際の家づくりにおいて、お施主様とはどのようなやり取りを通じて設計のきっかけを掴んでいくのでしょうか。

「まずヒアリングを重ねて、どのように住みたいか、どんなことがお好きかをお聞きします。

『外でバーベキューを楽しみたい』といった具体的なご希望はしっかり設計に落とし込みます。それは『顕在化された要望』として反映しつつ、それとは別に、人間共通の居心地のよさという『潜在意識の中にあるもの』を形にしていきます。

顕在化された要望と、潜在化された要望。その2つをどちらも大切にして設計を進めています。

なかには『すべてお任せします』とおっしゃってくださるお客様もいらっしゃって、その場合は本当に純粋に、人間の本質的な居心地のよさだけを追求できるのでとてもやりがいを感じますね」

「Life is Beyond」五感の先にある世界を求めて

最後に、「Life is ◯◯」の◯◯に入る言葉を伺いました。

「『Life is Beyond』でしょうか。心の調和をもたらすためには、まず静謐な空間が必要だというコンセプトを掲げています。 もちろん五感で感じることは非常に重要ですが、私が目指しているのは、その五感の先にある『もっと見えない世界』なんです。

そうした感覚を、今度は3次元の建築として具現化していきたい。常にその先にあるものを見続けて、建築として表現していきたいという思いを込めて、この言葉を選びました」

見えない感覚を形にし、豊かな暮らしを紡ぐ

目に見える寸法や機能性にとどまらず、その先にある「見えない居心地」や心の平穏を建築として具現化していく深山さん。故郷の自然に育まれた感覚と、空間のノイズを極限まで削ぎ落とす繊細な手仕事によって生み出される空間は、住まう人の五感を研ぎ澄まし、日々の暮らしに深い静けさと調和をもたらしてくれます。