自然が毎回“違う展示”になる。大分・長崎鼻にあるanno lab初の常設美術館「不均質な自然と人の美術館」
大分県豊後高田市の長崎鼻リゾートキャンプ場内にある「不均質な自然と人の美術館」は、太陽光や天候、潮の満ち引き、風向、そして来館者の身体の動きまでを取り込み、同じ場所でも訪れるたびに体験が変わるデジタルアートギャラリーです。館内は「太陽と月」「海」「森」の3室で構成され、自然と人の“不均質さ”をそのまま展示に変換します。
長崎鼻の地形と“立地そのものが展示”になる建築体験

この美術館の魅力は、作品だけでなく「建築が自然条件の受け皿として設計されている」点にあります。プロジェクトは、館内で提示したい作品の性格から逆算し、作品→建築→作品という往復を重ねながら空間が詰められていったとされています。

建築的特徴として象徴的なのが、「太陽」を主題にする展示室を太陽の軌道に合わせて東西軸に配置していることです。さらに屋根勾配も、年間を通して太陽の位置を最も認識しやすい角度が検討されています。つまり単なる採光計画ではなく、“太陽の動きを読む装置”として屋根が機能する設計です。

外観は、キャンプ場の広場という開けた風景の中で、過度に人工物として主張しないバランスが狙われています。一方で、人を引き寄せる拠点性も必要になるため、自然の大樹のように枝を張る屋根形状で木陰をつくるなど、周辺環境に溶け込みながら滞在の質を高める工夫が語られています。
また、西岡美紀(Kocochi Architect/西岡美紀一級建築士事務所)と小島佳子(楓空間設計一級建築士事務所)が建築デザインを担い、アート制作は福岡拠点のクリエイティブ・ラボであるanno lab(代表:藤岡定)が中心となっています。
「太陽と月・海・森」——自然条件で表情が変わる3つの部屋

各作品は太陽光・天候・潮位・風向、そして来館者の動きなどを取り込み、来るたびに異なる表情を見せると案内されています。ここでは3室を空間体験として整理します。
太陽と月の部屋:光を“鑑賞する”から“触れ合う”へ

上部の窓から差し込む自然光は、天候や時間、立つ位置によって刻々と変化し、何度でも別の印象をつくります。ここで重要なのは、光が背景ではなく作品の一部として扱われている点です。なお本作は第25回文化庁メディア芸術祭のアート部門で大賞を受賞しており、同館の核となる体験として位置づけられています。
海の部屋:潮位と連動する“水の玉”のインスタレーション

空中に浮かぶように見える水の玉と触れ合えるアート空間で、演出は美術館周辺の潮の満ち引きや波の高さに応じて、色や動きがゆるやかに変化します。海という巨大な不安定要素を、室内の繊細な現象として知覚し直す部屋です。
森の部屋:円筒状の音と映像で“生命の増殖”に包まれる

円筒状に広がる音と映像が、植物の成長や微生物の動き、そして周辺の森の風などを元に次々と変化していきます。さらに、音響アーティスト黒川良一とのコラボレーションによる「中山仙境」をモチーフにしたシアター作品が追加されたことも紹介されています。
また、音の設計も体験の密度を左右します。クレジットでは音響デザインとして中村優一(KAMRA/株式会社インビジ)が明記されており、視覚だけで完結しない“身体の没入”が意図されていることが読み取れます。
キャンプ/ドライブとセットで成立する滞在型アートコース

この美術館は、短時間で「理解」するより、条件を変えて「確かめる」ほど面白くなるタイプの施設です。太陽光・天候・潮位・風向という入力が日々変わるため、午前と午後、晴天と曇天、季節の違いだけでも体験の輪郭が変化します。
行程としては、到着後にまず外気に身体を慣らし、鑑賞→休憩→再鑑賞という順で“差分”を取りにいくのがおすすめです。キャンプ場内という立地は、鑑賞と休息を往復できる強みでもあります。さらに屋根がつくる木陰のような外部空間は、鑑賞前後の滞在品質を押し上げる装置として効いてきます。
“自然の変化を読み替えるため”の美術館
「不均質な自然と人の美術館」は、デジタル表現を“自然に勝つため”ではなく、“自然の変化を読み替えるため”に用いた、建築・アート・環境が一体化した常設空間です。太陽の軌道を東西軸の配置や屋根勾配に落とし込み、外部では大樹のような屋根で居場所をつくる──建築そのものが体験を成立させるインターフェースとして設計されています。風、光、潮、身体という不確かな要素を受け止める器として、訪れるたびに“同じではない展示”に出会える場所です。
不均質な自然と人の美術館
開館時間:10:00~16:00
休館日:火・水・木曜日
URL:http://nature-and-human.art/
住所:〒872-1207 大分県豊後高田市見目4060