
「キャラクターの感情を引き出し、全体のバランスを大切にする」 VFXディレクター、アニメ演出家・鹿住朗生さん
アニメを見る人も見ない人も、みんなが知っているVFXディレクター、アニメ演出家の鹿住朗生さん。
今回は、鹿住さんが暮らしの中で大切にしているデザインや作品を制作するうえでのこだわり、日本のアニメ業界を取り巻く環境と今後クリエイター希望の方々へのアドバイスなどについてお話を伺いしました。
VFXディレクター、アニメ演出家・鹿住朗生さん
アニメ『蒼天の拳 REGENESIS』『ひとりぼっちの異世界攻略』の監督や、VFXディレクターとして『どろろ』『聯合艦隊司令長官 山本五十六』などを手掛けたVFXディレクター、アニメ演出家・鹿住朗生さん。現在はアニメ『片田舎のおっさん、剣聖になる』の監督を務め、第二期制作中。
暮らしの中で大切にしているデザインとお気に入りの空間
はじめに、鹿住さんが暮らしの中で大切にしているデザインについて伺いました。
「『自分らしさ』を大事にしたいということと、『調和』や『ハーモニー』、あとは『バランス』を重要視しています。インテリアでは、『座り心地がいい』、『リラックスできる』ことを重要視しています」
お好きな場所・空間を教えてください。
「映画館です。年間250本くらい映画を観ています。インディペンデント系の映画館がお気に入りで、しっかりした広い椅子で、すごく居心地がいいです」
アニメの制作過程の中での違いや共通点

©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
鹿住さんはアニメ監督として、またVFXディレクターとして多くの作品を手掛けていらっしゃいますが、アニメの制作過程の中でどんな違いや、逆にどんな共通点があるのでしょうか。
「実は、僕の中では基本は一緒ですが共通点の方が多くて。映像はデザインしていくものなので、何を見せたいか、と言うことをVFXとして見せていくのか、ストーリーテリングで見せていくのかの違いですかね」
背景美術の作業工程

このコーナーは建築家の方に出ていただくことが多いのですが、アニメにおける建築物も相当重要だと思います。背景美術を決める時にどのような作業工程があるのでしょうか。
「まずは資料を調べるところから始めます。キャラクターやそもそもの時代設定や場所などを決めて、そこから建物の資料やその土地の空間、なぜそういうデザインになったかを細かく調べていって、という流れです」

例えば『片田舎のおっさん、剣聖になる』ではどういうところに重きを置いてお調べになったのでしょうか。
「時代が中世で、ヨーロッパの剣聖ものであるということが決まっていました。アニメの中でビデン村というところがあるのですが、山の中だろう、ということを原作者の方とお話しました。質素、質実剛健でシンプルな中にしっかりしているデザインのものがいいのではないか、と言うことを話し合いその地方を調べて作成したと言う流れになります。結構時間がかかる作業で、最初の立ち上げのころはそれだけでも数ヶ月はかかります」
映像表現やストーリーテリングの魅力は「キャラクターに追従すること」

©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
VFXと演出両方の視点をお持ちの鹿住さんですが、映像表現やストーリーテリングの魅力について教えてください。
「一言でいうとキャラクターに追従するということだと思います。キャラクターの感情をどう伝えていくかがすごく大切なことなので。たとえばVFXやストーリーテリングで、どういう風にこのキャラクターは感情を伝えられるのだろう、キャラクターそれぞれの個性によって表現が違うのでそれをどうしようかというのがすごく面白いと思っています」

©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
『片田舎のおっさん、剣聖になる』ついに最終話を迎えますが、今のお気持ちはどうですか。最終話まで作られていると思うのですが、いろんな反応が気になりますか。その後少しくらいお時間はできるのでしょうか。
「やっと終わるっていうのと、あーもう終わっちゃうというのと二つの感情があります。それに反応も気になりますね。第二期の制作があるので時間は全然ありません」
※第一期は2025年4月から6月まで放送。
VFXを制作する上での挑戦とこだわり

©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
鹿住さんはVFXディレクターとして手掛けられた作品に『どろろ』や『聯合艦隊司令長官 山本五十六』などがありますが、これらの作品のVFXを制作する上で挑戦的だったことと、こだわった点は何かありますか 。
「『どろろ』はニュージーランドでの撮影など、いろいろやったのでひたすら勉強でした。『聯合艦隊司令長官 山本五十六』は、僕の出身地が山本五十六と同じだったというのもあり、子どものころから知っていたのでやりがいと思いがすごく詰まっていました。真珠湾攻撃をするシーンがあるのですが、実際に真珠湾を攻撃する同じ時間帯と同じルートを飛行機・ヘリコプターで飛んで、全部空撮して作りました。その撮影のことは万感の思いというか、涙が出そうになって撮影していました」
監督として意識している「キャラクターの感情を上手く出しつつ、全体の調和を取ること」

©五示正司・オーバーラップ/ひとりぼっちの製作委員会
近年 『蒼天の拳のリジェネシス』や『ひとりぼっちの異世界攻略』で監督を務められて、さらに最終話を迎えた『片田舎のおっさん剣聖になる』の監督としても務められていますけど、監督として特に意識していることはどういうことなのでしょうか。
「キャラクターの感情を上手く出そうとすることと、脚本制作です。一番大事にしているのはハーモニーというか全体の調和みたいなことはすごく重要視しています」

©佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ/SQUARE ENIX・「片田舎のおっさん、剣聖になる」製作委員会
鹿住さんは剣道の経験があるということで、あるインタビューで現場のスタッフに剣の持ち方は絶対にちゃんとして欲しいと口を酸っぱくして伝えていたということですが、特に剣のシーンがたくさん出てきますのでダメ出しも多かったのではないでしょうか。
「特に最初のころは絵の奥で小さくて見えにくいのですが、アニメーターの方がちょっと違う剣の持ち方をしていて、そこを『これが違う、これが違う』とモブだろうと全部直しました」
演出スタイルの確立

©原哲夫・武論尊/コアミックス 2001, ©蒼天の拳 2018
鹿住さんの演出スタイルはどんな風に確立されていったのでしょうか。
「自分の中の『ここが大事だ』、というところをなるべく大切にしていて、それ以外の部分を間引いてどんどん削除していく、それで残ったものだけを拾っていく、というようなことを割とやっているのですが、他の人にたまたま『実写っぽいですね』と言われました。伝わらないとほぼ意味がないですよね。だから間引いていって自分に何が一番大事なのか気づいて、『これだな』、というところにたどり着くということですね」
現在の日本のアニメ業界を取り巻く状況とAIの活用

©原哲夫・武論尊/コアミックス 2001, ©蒼天の拳 2018
現在の日本のアニメ業界を取り巻く状況について鹿住さんはどのようにご覧になっていますか。またAI をどんな風に活用されるのでしょうか。
「人手不足もありますが、一番大事なのが今、アナログからデジタルへの移行です。特にAIをどうするかという問題が今すごく出ています。AIの活用は、より手数を少なくするために作画にAIを補完させること、アニメーターが書いていくものに対してAIで補完していくこと、全体的なスケジュール管理にもAIが入ってきています」
クリエイター希望の人が成長するために大切なこと

©原哲夫・武論尊/コアミックス 2001, ©蒼天の拳 2018
今、大人になってもアニメを見ていると言いやすい状況になってきています。現在のアニメブームみたいなものに触発されて、今後クリエイターになりたいという方も出てくると思いますが、そういった方が成長するために大切な事は何でしょうか。
「諦めずになるべく自分でやりたいことをやった方がいいと思います。今もどんどんデジタルが発達しているので、作ろうと思えば作れる環境にあると思います。業界に入ってやるのは大変ですが、一回自分で試してみて『やれそうだ』、と自分に対して新たに気付きも生まれますし、年を取ってもできると思うのでぜひ諦めずに挑戦していくことを大切にしてほしいと思います」
Life is movie.
インタビューの最後、鹿島さんに「Life is ◯◯」空欄に当てはまる言葉を尋ねると、「Life is movie.動くことで何かが生まれると思う。その一つが人生のことだろうし、作品のことだろうし」と答えてくれました。VFXディレクター、アニメ演出家として数々の作品を世に生み出しつつ、新たな演出スタイルを確立していく鹿住朗生さん。今後の活躍にも注目です!