建築家・成瀬友梨が語る大切なデザインやシェアスペースづくりのポイント「複数人での暮らしのなかでリラックスできる場を空間的にサポートする」

シェアをコンセプトにさまざまなな建築や場づくりの企画や設計を行う「成瀬・猪熊建築設計事務所」代表取締役を務める建築家・成瀬友梨さん。今回は成瀬さんに、日常で大切にされているデザインやシェアスペースづくりのポイントを伺いました。

建築家・成瀬友梨

1979年 愛知県生まれ。2002年東京大学工学部建築学科卒業。2004年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了。2005-2006年成瀬友梨建築設計事務所主宰。2007年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程単位取得退学。2007年成瀬・猪熊建築設計事務所共同主宰、2010-2017年東京大学助教、2017年より成瀬・猪熊建築設計事務所 代表取締役。主な作品に「白馬の別荘」「お宿Onn 中津川」など。主な受賞にJIA東海住宅建築賞 優秀賞(2014年)、 グッドデザイン賞(2012、2007年)がある。

週末はしっかりと休む

via : @yurinaruse

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「時間のデザインをとても意識しています。私は仕事がすごく好きで、声を掛けられるとなんでも受けてしまうようなスタンスで取り組んでいるので、平日は仕事を詰め込みすぎてしまうんです。頂くお仕事の内容は設計だけではなく、講演会に呼んで頂いたりコンペの審査員をやらせて頂いたり。作業に集中したり移動が続いたりで心身ともに疲れるので、土日はしっかり休むべく、土日の仕事は入れないように調整しています。子供との時間も週末にしっかりと作れるように心掛けています。お声掛け頂くお仕事はどれも面白そうなのですが、特にイベントごとは週末に当日を迎えることが多いんです。極力頂いた仕事は受けたいと思いつつ、子どものこともあるので『すみません..家の事情で..』とお断りすることもしばしばありますね(苦笑)。」

大きなソファがお気に入り

職業柄さまざまな建築に触れることの多い成瀬さんですが、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「自宅のソファが気に入っています。デイベッドのような寝っ転がれるくらいの大きなソファなのですが、平日は食後に家族でゴロゴロしたり、休日はポカポカ陽にあたりながらうたた寝したりしています。なんでもないことが贅沢だなあ、と感じながら過ごしています。2年前くらいに購入したのですが、生活の質が変わりましたね(笑)。」

丹下健三の建築物に大きな影響を受けた

高校卒業後、東京大学工学部建築学科に入学されましたが、建築の世界に進もうと思ったきっかけはどういったものだったのでしょうか。

「子どもの頃から母親がアートが好きで、美術館や京都とか奈良にある寺社仏閣に連れて行ってもらうことが多く、美術に興味はあったんです。ただ建築に興味を持った一番の体験と言うと、高校の修学旅行で広島の平和記念公園に訪れたことが大きいですね。平和記念資料館と平和記念公園は建築家の丹下健三さんが設計されているのですが、それらが平和に向けて作られた、すごく厳かで素晴らしい空間に感じられて、それまでの生活では感じられなかったような感覚を味わったんです。すごく衝撃を受けて、これを作った人ってどんな人なんだろう、と調べ始めて建築家という職業の存在を知りました。

その後、同じく丹下健三が設計を手掛けた国立代々木競技場にも訪れたのですが、そちらにも影響を受けましたね。建築が一つ置かれることによって、その周辺の外部の空間も空気が変わるというか、質が変わる、ということを体験したのが大きかったかなと思います。」

全く知らない人と住まう暮らし方は合理的で面白い

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シェアハウスやシェアオフィス、コワーキングスペースなど「シェア」がキーワードになった空間が近年身近になっています。成瀬さんが猪熊潤さんと代表を務める成瀬・猪熊建築設計事務所では以前からそういったシェアにまつわる物件を数多く手掛けられていますが、注目したきっかけはどういったものでしょうか。

「最初に注目したのは2008年くらいです。シェアハウスを運営しているベンチャー企業の若い代表の方から、どういう空間にしたら魅力的になるか、という相談を受けたことが始まりでした。当時は私たちもシェアハウスに詳しくなかったのでまずは概要を伺って、若い方が全く知らない人と一緒に住んで生活をする、といった新しい住まい方が率直に面白いなと感じました。例えば東京で一人暮らしをするとなると、ワンルームマンションのような狭い部屋に住むわけですが、みんなでシェアすることで個室以外のキッチンやリビングなどの共有スペースを広く設けることができる、というのが合理的で魅力的だなと感じて、興味を持つきっかけになりました。家族でもない全く関係ない人たちが一軒家に住んで共生するってすごいことですよね。『シェア』というと、いつも一緒にいて毎日ワイワイ楽しんでいるように思われますが、人の気配は感じながらも、それぞれが思い思いに過ごせるスペースがシェアの空間には必要だと考えています。自然体でリラックスできる場所を空間的にサポートして作ることで、他人同士が一緒にいても居心地が悪くない、という状況をいかに作るかということが肝だと思って設計しています。」

そうしたシェアの空間の設計にあたって意識しているポイントはどういった点でしょうか。

「大人数で使うといっても全員が同じテーブルを囲むような状況になってしまうと不便が多いので、一人はもちろん3人、5人といった複数人でもいられるような中規模のコーナーだったり、少し見え隠れするような落ち着くスペースを設けることがシェア空間の居心地を良くするポイントだと思います。」

孤独・孤立を解決できる場が街に必要

Via : @yurinaruse

少子高齢化によって人口減少が進む日本で今後人々の暮らし方はどのように変化していくとお考えでしょうか。

「現時点でどんな変化が日本に起きているかというと、全世帯数の約4割の人が一人暮らしをしています。元気がある若い時は良いのですが、歳を取ったり心身が病んでる時に孤独であることが問題だと考えていて、その点でシェアハウスは良いなと感じています。とはいえ全ての人がシェアハウスに住めるわけではないので、住宅街の中にカフェのような、誰かと顔見知りになったり気軽に話せる場所が増えていくと、孤独や孤立という問題の解決策に繋がるのではないかと考えています。」

銀座で自然を感じられる空間に

昨年12月に成瀬・猪熊建築設計事務所が設計を手掛けたスイーツ&コスメショップ「meet tree GINZA」が銀座にオープンしました。こちらを設計する際のイメージやこだわりのポイントはどういったものでしょうか。

「こちらは日本有数の檜の産地である岐阜県の中津川にルーツがあるショップで、創業100年以上の老舗木材会社がクライアントです。コスメはヒノキなどの自然素材のエッセンスを取り入れていたり、スイーツも栗をメインに木の恵みから作られているということで、森のようなグリーンを基調とした、材木を大胆に使用した空間に仕上げています。銀座のようなビルが建ち並ぶエリアの中で、自然をひととき感じられるような空間が作れるといいなと思い設計しました。」

小さな幸せが暮らしになる

Via : @yurinaruse

複数人でも個人でも、心地よく過ごせるシェア空間を数多く手掛ける成瀬さん。そんな成瀬さんにとってライフイズ〇〇の〇〇に入るものは何でしょうか?

「ライフイズ“フルオブハピネス”。日々生きていると辛いことも難しいこともたくさんありますが、小さな幸せもたくさんあるなと感じています。美味しいものを食べたり友達に会ったり、子どもが何かできるようになったりとか。そういう小さな幸せを感じるために生きているし、感じることですごく幸せだなあと思いながら生きていると思います。」

居心地良く過ごせる空間をつくる

家族との時間を大切にしつつ、住居から公共スペース、商業施設など幅広い建築空間の設計を手掛ける成瀬さん。他者と関わりつつ自然体で過ごせる空間には、成瀬さんならではの視点と思いやりが大きなポイントとなっているようです。