「道端で引っこ抜いた雑草を屋上に移植するのにハマってます」アヒルストア店主・齊藤輝彦の大切にしているデザインとお気に入りの空間

東京・富ヶ谷に建つ、自然派ワインと焼き立てパンが楽しめるワインバー「アヒルストア」。ナチュラルワインを気軽に楽しめるビストロの先駆けとして、国内外から多くのゲストに愛される、連日開店前から行列ができるほどの超人気店です。今回はアヒルストア店主・齊藤輝彦さんに、大切にされているデザインやお好きな空間について伺いました。

アヒルストア店主・齊藤輝彦

大学卒業後、設計事務所、弁当屋台〈スター食堂〉、ワインショップ〈トロワザムール〉勤務などを経て、元点心師の妹、和歌子さんと共に、2008年アヒルストアを開業。現在は母、弟と二人のスタッフの6名で店を営む。

栄養たっぷりの朝ラーメンがルーティーン

Via : @ahiruani

まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。

「基本的にプロダクトに興味がなくて、収集癖とかもありません。強いて言うと、生活デザインというような、日頃から大事にしていることと聞かれたら、朝ごはんをちゃんと食べることを意識しています。3年前くらいにパーソナルジムに通い始めて食事指導を受けてから、朝ごはんをちゃんと食べるようになりました。それまでは何も食べないで仕事に向かっていました。

栄養のある献立を意識していて、最近では毎朝ラーメンを食べています。ラーメンと言っても外食で食べるような、油が浮いているような重たいものではなく、小鍋の中に魚の切り身や野菜、きのこや海藻などを入れて、水を足して火にかけて煮立った時に味噌なり醤油なりをといてスープにするようなスタイルです。具沢山なお味噌汁を作って、別鍋で茹でた麺を合わせるような感覚ですね。」

Via : @ahiruani

食事指導と聞くと、炭水化物をできる限りカットするような印象があります。

「もちろん、麺の量はすごく少なくしています。その分魚やきのこ、海藻などをたっぷりと入れて、麺はほんとに少し入れる程度。それでもすごく満足感があって、単に美味しいというだけではなく、身体の細胞が栄養をとって喜んでいるような感覚があるんです。元々は具沢山なお味噌汁と発芽玄米の朝ごはんにしていたのですが、個人的にラーメンブームがきていて、最近はもっぱら朝ラーメンが定着しました。」

屋上で雑草を愛でる時間がお気に入り

学生時代には建築を専攻し、卒業後には建築設計事務所での勤務経験もある齊藤さんですが、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。

「自宅の屋上ですね。古い住宅を建て替えた2階建ての一軒家なのですが、敷地がちょっとした高台にあるので富士山とか東京タワーが見えるんです。と言ってもアウトドアテーブルがあったりするわけでもなく殺風景な空間なんですが、そこで一人で過ごす時間が気に入っています。

ここ数年前からなんですが植物に興味を持ち始めて、家と家の隙間に生えている雑草を引っこ抜いては屋上に植え替えて育てるという試みにハマっています(笑)。」

雑草というと、普通駆逐されますよね(笑)。

「そうなんですけどね(笑)。観葉植物をいろいろ買ってきて育てるのはあまり面白くないなと思って、雑草を移植して丁寧に育ててみよう、ということをやっています。雑草って何かと強そうだと思っていたのですが、意外とすぐに枯れちゃうんです。ちゃんと根付くのは3割くらいですね。そんな立派に育ってくれた雑草を見ながら、一人でお酒を飲んで過ごす時間が好きです。」

素人が飲食業界で戦うために、導き出された現在のスタイル

Via : @ahiruani

2008年のオープンから今年の6月に15周年を迎えたアヒルストアですが、お店を始められたきっかけはどういったものだったのでしょうか。

「二十歳を過ぎた頃くらいから、いつか自分のお店を持ちたいと思っていました。ただ、お店をオープンしようとしていた当時は、ワインバーなんて言葉も一般的には使われていませんでした。飲食店、なかでもワインを出すようなお店というと、カフェかレストランの2択のような時代でした。

Via : @ahiruani

そんななかで、どうやったら僕みたいな、ちゃんとした料理修行をしていない素人もどきがフランス料理屋と戦っていけるのか。それを真剣に考えて、出てきたキーワードが“パンとワイン”という2本柱だったんです。お店で焼き立てのパンを出していれば、その片隅で肉を焼いているのがサマになるかなと。肉を焼いている人がフランスや海外で修行をしていなくても、説得力があるように思えたんです。そこにスタンドがあって、美味しいワインがあって…。ほとんどジブリのイメージですね(笑)。パン屋の片隅で料理を食べてお酒を飲んでいる、そんなお店だったらフランス料理屋とは異なる魅力で差別化ができるのではないかと思って始めました。」

洒脱なスタイルが居心地の良い空間を作り出す

毎日の朝ごはんをラーメンに限定したり、雑草の移植に凝っていたりと、周りに流されずに独自の生活スタイルを貫く齊藤さん。そんな齊藤さんでも、自身のお店の出店については社会的な視野で検討、戦略を練っていたようです。程よく気の抜けた洒脱な感覚と、論理的な思考のバランスが、ナチュラルワインビストロの先駆けと呼ばれるような人を惹きつける名店を生み出したのかもしれません。

後編:「昭和の町工場のような使い込まれた雰囲気が好き」アヒルストア店主・齊藤輝彦が語る店内や自宅のインテリアについて