「作り手をイメージできるからこそ、空間に愛着が持てる」建築家・小嶋綾香が語る大切なデザインや〈一畳十間〉について
無印良品やPOLAなどの店舗デザインや、宿泊施設、個人宅の住宅設計まで、日本と上海を中心に幅広いプロジェクトを手掛ける小大建築設計事務所。2022年にオープンした古民家を改修した畳敷きの展示空間〈一畳十間〉も話題を集めています。今回は小大建築設計事務所共同代表の小嶋綾香さんに、日常で大切にされているデザインや事務所併設のギャラリー〈一畳十間〉について伺いました。
小大建築設計事務所共同代表・小嶋綾香
1986年京都府生まれ。2009年TEXAS A&M University建築学科卒業、2012年SCI-ARC修士卒業後、2013年から2年間隈研吾建築年設計事務所にて勤務。2015年に小大建築設計事務所を設立。東京と上海に事務所を構え、公共建築から宿泊施設、店舗設計などの設計業務・監修を手掛けています。
愛着が持てるものが好き
まずは日常生活の中で大切にされているデザインについて伺いました。
「愛着を感じられるものが好きです。仕事の場面でも空間を作る際には、手間がかけられた、手仕事を感じられるような素材や家具を取り込んでいます。職人や生産地の方、地域をイメージできるようなものがあることで、より空間に愛着が持てるのではないかと考えています。
自宅のリノベーションをした際にも、なぐり仕上げの職人の方によるハンガーパイプや、ふすま作家さんにお願いしたふすまを取り入れています。自分のお気に入りの中で暮らしいているような感覚です。自宅には子どもたちのおもちゃなども置いてあるのですが、それらを個性として生活に彩りを添える感覚で暮らすのが楽しいと思っています。」
事務所に隣接したギャラリー〈一畳十間〉がお気に入り
建築家として、お好きな空間はどういったものなのでしょうか。
「事務所の一部に〈一畳十間〉というギャラリーを設けていて、そこがお気に入りの場所になっています。入り口から進むとなぐり仕上げの床が広がっていて、素足で踏む時にボコッとした感覚や柔らかさを感じられます。
さらに奥に進むと畳の空間があって、群青色の縁を持つ和紙で作られた畳を敷いて、神代杉を使った床の間を設けています。
スタッフ15名で使っているのですが、庭に水撒きをしたり苔を育てていたりと、空間を楽しんで過ごしています。
他にもお茶のワークショップをやったり、木材のなぐりの体験会をやったりと、社内に限らず様々な方々と知り合うきっかけになっているので気に入っています。」
昔から続く知恵や素材を継承したい
〈一畳十間〉は「日本の心地良い美がある暮らし」をテーマに掲げていますが、こちらはどういった事業なのでしょうか。
「〈一畳十間〉の名前には、一つの大きな空間の中に10通り以上の居場所が十分に散りばめられている、という意味を込めています。
設計としては、日本人が暮らしの中で培ってきた知恵や昔から親しまれてきた素材を積極的に取り入れています。
実は、このようなデザインにたどり着いたのは昔の家づくりのスタイルがきっかけなんです。かつての日本では、日本家屋の大工がその土地に合わせて光や風の通りを考えて一つひとつ異なる住まいを作っていました。それによって家族の繋がりが生まれたりと、暮らしの豊かさがあったんです。
しかし、戦後の高度成長期以降に住宅が大量生産されるようになったことを機に、家というものが販売するための商品として作られることがスタンダードになり、建売住宅やマンションを新築で購入するといった選択肢が主流になりました。
そうした家づくりの中では、メンテナンスがしやすく、素材も変化・劣化しにくいもの、いわゆるツルツルピカピカの人工素材のものが多い。そういった素材で作られた空間で、本当の豊かな暮らしができるのか。そういった現代の家づくりに対するアンチテーゼとして設計業務についています。」
日本の美意識を空間を通じて繋げていく
高度経済成長を機に変わってしまった古き良き日本の住まいづくりを見直し、日本らしい美意識が感じられる空間を数多く提案することで、文化や技術の継承を目指したいと語る小嶋さん。効率・経済性にとらわれずに、丁寧に作られた材やプロダクトによって構成される空間だからこそ、長く愛される存在になるのかもしれません。