建築家・長谷川豪とAirbnbのコラボで実現した「吉野杉の家」のコミュニティ主導型のデザイン。
建築家・長谷川豪がAirbnbとコラボレーションして生みだした「吉野杉の家」は、コミュニティ主導型のデザインと、コミュニティがホストになるという画期的なカタチの宿泊施設として、世界中から旅行者が集まっています。集まるのは旅行者だけではなく、外国からの旅行者と交流をしたいという学生や、ホストを希望する移住者もふくめ、奈良の吉野の町を活気づける場所となりました。「吉野杉の家」に宿った大きな求心力はどこからきているのでしょうか。
対照構成美と評された大和棟
この特徴的な屋根の形状は「大和棟造り」といって、奈良盆地から河内平野にかけて見られる奈良の伝統的なものです。
もともとの「大和棟造り」は、急勾配の茅葺き屋根と一段下がった緩い勾配の瓦屋根の二つの屋根で構成されています。寒暖の差が大きい気候に対応するために断熱性のある屋根が求められたため茅葺きになり、雨じまいのために急勾配になったとされています。
下屋根と1階天井の隙間、屋根のずれた部分から換気を行います。この急勾配の上屋根と緩い勾配の下屋根の角度の違いが印象に残ります。どうしてわざわざ勾配の違う屋根をつくったのでしょうか?
復古する、かつての奈良の住まい方
吉野では、かつては家族が生活する場所以外に商売をするための店、生産するための縁、土間、備蓄用の屋根裏、蔵が併設され、複数の世帯が同居していました。複数の棟が集合してひとつの大きな民家となり、この大和棟の形状が偶発的に生まれたのでした。
この伝統的な大和棟の構造は、核家族が増え、大きな民家が消失していく現代に、ゲストと吉野のコミュニティを繋ぐという新しい役割を見出したのかもしれません。長い縁側も人と人がつながる大切なスペースです。
一階はパブリックなスペースとして、交流ができる場所としてデザインされ、二階はゲストのプライベートな空間として、日の出の部屋と日の入りの部屋がつくられました。
川に寄り添うように建てられた『吉野杉の家』は、大きな開口部から川の繊細な移ろいまで眺めることができます。景観も暮らしの一部としてデザインされているかのようです。
一階の天井と下屋根との間に生まれる空間から、杉板一枚幅の明かり。
ゲストのプライベートスペースは、急勾配の上屋根が美しい三角形の空間をつくり、まるで屋根裏小屋のような安心感があります。休む時は広い空間よりもある程度狭い方が安心できるのは、生物学的にも納得できます。
ふんだんに使われた吉野の木々
吉野杉は日本三大美林の一つである奈良県の吉野林業地帯を産地とする国産木材のブランドです。年輪幅を約1mm~3mmの一定に保ち、緻密で均一なため、他の杉よりも優れた強度を持っているため、用材として通直完満、無節や色艶の優れた素材として古くから品質の高さが知られていました。
内装には吉野の杉以外にも28種類もの木が使われています。
二階のゲストルームは吉野の白ひのきが使われ、品質の良さが全身で分かります。
旅行者はこの『吉野杉の家』に泊まることを愉しみ、周辺の酒蔵ツアーや森林ハイキング、カヌーや大工ワークショップなどのアクティビティでさらに旅の思い出をつくります。
新しい住宅建築の形
「吉野杉の家」は、林業の支援、空き家の活用、移住促進、観光集客など多角的な目的をもち、地方再生のモデルケースとして、これからも日本をけん引していくでしょう!
吉野杉の家 / Yoshino Cedar House
開館時間:10:00~16:00
休館日:日・月・火曜日
URL : https://www.yoshinocedarhouse.jp
住所:〒639-3113 奈良県吉野郡吉野町飯貝624