建築家・手嶋保による、人×バイク×庭の暮らしを楽しむコの字型の住まい「船橋の家」

日本建築士会連合会賞にて優秀賞を受賞した〈伊部の家〉や、日本建築学会作品選集に入選した〈桜台の家〉など住宅設計を中心に手掛ける建築家・手嶋保。千葉県船橋市に建つ「船橋の家」は、アウトドア好きなオーナー夫妻の趣味を反映し、人×バイク×庭の共存を目指した心地の良い住まいです。

庭の景色を内部に取り込むコの字型プランのレジデンス

撮影:楠瀬友将

住宅が建つ船橋市郊外の一帯は、一昔前は梨畑が広がっていたものの、時勢に応じ徐々に無機質な住宅地に入れ替わりつつありました。以前から所有していたこの330平米の宅地に住まいを建てたいと、キャンピング愛好家でもあるオーナー夫妻が描いたのは、内と外が融合した住まいでした。

また、オーダーの中で特徴的だったのが大型バイクを10台と小型スポーツカーが収まるガレージが必要ということ、大きなテラスが欲しいということ、また茶の湯ができる和室が欲しいということでした。車庫はガソリンなどの危険物を保管する場所でもあるので、耐火性の高いRC造としたうえで、住居部分からの安全な離隔と独立性も必要となりました。そこで基本構成は左右に住居、車庫のヴォリュームを分け、それを繋げるために中央の庭園を囲むコの字プランになりました。

東西のヴォリュームを繋ぐ側廊に

撮影:楠瀬友将

コの字の開口部の右端に設けられた玄関から内部へ入ると、東西の住居部分と車庫を繋ぐ側廊にあたります。ここは2層吹き抜けとなっており、南北のハイサイドライトより光を取り込むため、壁面に窓はないものの明るい内部空間が保たれます。側廊にはトイレのほか、オーディオルームが配置されています。

木の柔らかな質感が落ち着きを与えるLDK

撮影:楠瀬友将

玄関から側廊を左手側へ進むと行き着くダイニングキッチン。家具はナラ材で統一され、温かみを感じる落ち着いた印象で統一されています。

撮影:楠瀬友将

ダイニングからのぞくテラスと庭からは四季の移ろいを感じられます。人の集まる開口部周りに簀の子ベンチを設え、簀の子下にはラジエーターを設置することで冬季の外気の影響を和らげます。

閉塞感のない、明るく快適なガレージスペース

撮影:楠瀬友将

側廊を右手側に進んだ先に設けられた車庫。ヴォールト状に仕上げた天井面にはトップライトを配置。無機質になりがちな空間でも、デッキ材を用いた床面と高さのある天井、そこに設けられたトップライトのおかげで開放感があり、刻々と移り変わる光の風合いが感じられるガレージスペースになっています。

中央の屋上庭園が主役となる2階

撮影:楠瀬友将

2階には主寝室や和室、それに付随する浴室などのサニタリーが設けられています。1階の側廊の上部に屋上庭園を設けることで、車庫の上に位置する和室や、反対側に配された主寝室から眺めたときに主庭としても機能します。和室は茶道にも使用されるため、壁は土壁となっています。

撮影:楠瀬友将

屋上庭園の中央にはテラスを用意して屋外のリビングスペースに。オーナー夫妻の趣味であるキャンプや、アウトドアグッズのメンテナンス用のスペースとしても利用されます。

街並みに寄与しアクティビティの場となる庭

撮影:楠瀬友将

既存の敷地は近隣にとって原っぱのような存在であったため、多様な植栽を連続させて、プライバシーを確保しつつ視覚的に近隣と庭を共有するデザインに。軒下の1階テラスには吉野ヒノキの寄り付きベンチを設け、窓越しのみならず外でも庭を眺め楽しめるようになっています。

撮影:楠瀬友将

植栽はすっきりとした樹形の高木により垂直方向に庭空間を立ち上げ、芝生と低木地被類により水平方向にバランスをとっています。低木地被類は、季節ごとの色彩や質感が時間差で現れるように細かく品種を変えて配置されており、四季の流れを日々感じられます。

内と外が融合した、日々の暮らしを楽しむ住まい

オーナー夫妻のアウトドア志向を反映し、通常の住宅に比べて外部空間に余裕を持たせた「船橋の家」。屋上庭園や植栽の美しい自然を眺めるだけでなく、それらを暮らしに取り込んだアクティブな暮らしを楽しめる住宅です。外部と内部が一体となった、自然の移ろいと共に日々の暮らしを楽しめる空間です。