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空き室を待つ人たちは400名。欧州初のLGBT多世代住宅、「Lebensort Vielfalt (色とりどりの生きる場所)」

残された日々を、どのように生きるのか。

その答えの一つの形が、ベルリンの建築にある。

Photo: Gianni Plescia

「Lebensort Vielfalt (色とりどりの生きる場所)」と名付けられたこの集合住宅は、2012年に完成して以来、欧州初のモデルプロジェクトとして世界中からの見学者が後を絶たない、LGBT向けの多世代住宅である。

隣人とともに暮らす、コンパクトな住まい。LGBTミックスの終の住処の提案。

Photo: Gianni Plescia

24戸の個人宅は、それぞれ30〜77 m².、1〜4部屋。30人の住民は、厳密な審査を受け、6割が55歳以上のゲイ(同性愛男性)、2割が女性、2割が25〜30歳前後のゲイという割合を保つように割り振られている。そして、24時間体制で介護士がつく8人部屋のシェアアパートメントが1つ。

1階には住民の鍵や小包を預かってくれるレセプションがあるほか、カフェとイベントスペース、図書館もあって、住民以外も自由に入ることができる。2階には同性愛者カウンセリングセンターとそのオフィスも併設し、3階から上は24時間介護体制のシェアルーム、個人宅となる。多世代のクイアコミュニティが常に行き交う、生き生きとした住まいだ。

高齢者の一人暮らしの孤独という問題を、建築でいかに解決するか。

Photo: Gianni Plescia

「いま、高齢のゲイ・レズビアンの多くが、孤独という問題に直面しています。年代的に差別を感じることも多く、また家族との縁が薄く、日常的なコミュニケーションが非常に少ないという問題を抱えている人が多いのです」と、建築主である、同性愛者カウンセリングセンター・ベルリン(Schwulenberatung Berlin)代表、マルセル・デ・フロートさんは言う。彼のもとには、2000年代初めからこういった相談が多く寄せられていた。

Photo: Gianni Plescia

近年の家賃の高騰、そしてベルリン市民の半数が単身所帯ということもあって、一人暮らしの高齢者が住みやすい、小さくても家賃が安い、日常生活に便利な立地や設備が整った住宅は圧倒的に競争率が高く、値段も割高。そこで、コンパクトでリーズナブル、そして自然と様々な人たちとコミュニケーションが生まれるような、オープンな高齢者向けの多世代住宅を自分たちで作ろうと考えたのである。

十人十色の住民が、思い思いに、共に暮らせる家。

Photo: Gianni Plescia

改装・設計を担当したのは、roedig.schop architekten

2005年の創立以来、数々のコーポラティブハウスをプロデュース、設計を担当し、ドイツ連邦建築家協会賞など数々の建築賞を受賞している建築家デュオだ。公私ともにパートナーであるクリストフ・ローディッヒさんとウルリッヒ・ショプさん。自分たちにも身近なテーマであり、またショプさんは、大学時代に高齢者施設の設計を研究していたこともある。

「当時から、高齢者を隔離する施設ではなく、高齢者を含む多世代住宅の方がいいと思っていました。キーワードは「インクルージョン」。包含という意味ですね。年齢も性別も、病気の有無も、十人十色の人たちが思い思いに、共に暮らす場所のイメージです」とショプさん。それぞれにニーズも要望も異なる人たち皆を満足させる家づくりには、コーポラティブハウス設計時の豊富な経験が役に立ったという。

コミュニケーションが生まれる、住宅内のアーケード。

Photo: Gianni Plescia

この「色とりどりの生きる場所」が入ることになったのは、2006年まで保育園として使われていた築1938年のビル。いまの省エネ基準や防火法に配慮し、かつバリアフリーに改装しなければならなかったが、欧州でも初めてのプロジェクトということで、銀行も貸し渋り、予算は少なかった。

車椅子でも動きやすい住宅は、どうしてもスペースが必要になり、値段も高くなる。そこで考えたアイデアが、コミュニケーションゾーンとして、「村の道」と名付けられたアーケードのようなスペース(上写真)を作ることだった。全ての住宅を南向きの広い共同の中庭に面するように作り、通りに面したファサード側を、同フロアの全住宅をつなぐ広い廊下にする。

どの家にも、「村の道」に面して大きめの窓がついているので、住民たちは顔を合わせる機会が多くなる。見学の際にも、窓際でご飯を作っている人がいて、挨拶を交わしたり、通りすがりの隣人に声をかけたりする様子が見られた。

そしてまた、この場所を作ることで、45mに渡る外壁全面に断熱材を入れる工事が不要になり、予算も抑えることが可能になったのだ。

Photo: Gianni Plescia

バリアフリーのデザインは病院っぽくなりがちなので、この「村の道」は直線にしない、庭に面したバルコニーは大きさを変えてリズムをつけるなど、小さな工夫を取り入れている。

無駄のないコンパクトな住まいは、どんなライフスタイルにもマッチ

Photo: Gianni Plescia
Photo: Gianni Plescia

「広くはないけど、住む人によって可能性が広がる作り」とは、住民の言葉だが、小ぶりの部屋が多い。

実は建築主のリクエストの一つが、生活保護を受けている住民も住めるようなサイズの家も欲しいというものだった。ベルリンで生活保護受給の単身者に許可されている住居は、最高約45m²、家賃は400ユーロ前後。この集合住宅1m²あたりの賃貸料は8,60ユーロ。現在の市内の平均賃貸料が12,37 ユーロ/m²なので、街の中心という立地も考慮すれば、リーズナブルといえるだろう。

Photo: Gianni Plescia

最上階の6階部分は以前の建物の梁と窓を生かして、メゾネットを建て増しした。

Photo: Gianni Plescia
Photo: Gianni Plescia

建て増し部分を外から見たところと、中から見たところ。ドイツでは景観保護のため住宅の高さが決められているが、場所によっては既存の建築に1階分の建て増しが許可されている。

共に年をとりたい、息が通った集合住宅

Photo: Gianni Plescia

2006年からの長い話し合いと資金調達を経て、2011年に工事がスタート。2012年夏、「色とりどりの生きる場所」はその門戸を開いた。

オープン当初から大変な話題を呼び、いまもウエイティングリストには400人が名前を連ね、国内外からの見学者がひきもきらない。好評を受け、現在、同様のプロジェクトが進んでいるが、保育園を併設して高齢の住民と子どもたちをつなぎ、また一人で子育てする人たちをサポートできたら……、などと新しいアイデアが次々と生まれているという。

最上階のメゾネットの住民が、家を見せながら嬉しそうに話してくれた。

「広くはないけど住む人によって可能性が広がる作り。隣人と廊下で会うことも多いし、庭に出れば、顔見知りの隣人やその友達と自然と会話が生まれる。同性愛者カウンセリングセンターもあるから、家で何か問題があればすぐ連絡が取れますし。ともに年を取ることができる、豊かな家。最後の時まで、ここで暮らしたいですね」。

河内秀子

河内秀子

2000年からベルリン在住〜

ベルリン美術大学在学中からライターとして活動。雑誌『Pen』や『料理通信』『Young Germany』などでもベルリンやドイツの情報を発信。

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